第07話 ~潜伏~ #1
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暗い夜道の中、幾度も幾度も火花が散る。
刹那に浮かび上がるのは、目隠しをした女とピアスをした男の顔。
若い男が、容赦なく斬りつけてくる。
サユは防戦し反撃の機会を伺うが、なにしろ道が土の塊だらけの荒れ地に変わり、
転ばないように後退するのがやっとである。
「ほら、終わりだ」
背後を取った女が言う。
得物を構える音がする。
女の得物は一撃しか触れていないので、正確な武器の種類はわからなかったが、
左脇腹をかすめた刃は、剣より少し重みがあったように思う。
前後の2人だけなら、まだまともに戦えていただろう。
しかし魔法で道を荒れ地にする者とのコンビネーションは、サユにとって最悪だった。
やめた。
サユは踏ん張り、無理やり足元を固めようとする。
ここで捨て身の攻撃に出るつもりだ。
このまま斬り殺されるくらいなら、一人くらい道連れにしてやりたい。
男の短剣を上手く捌いて跳ね除けた後、捨て身の攻撃の姿勢になるサユ。
その時、4つの玉がどこからか跳ねて転がってきた。
「な、なんだ!?…ぶへっ!!」
4つの玉に同時に短剣が突き刺さる。
ボフッと辺りに白い煙が立ち込めた。
………
「いいかい、泣くんじゃないわよ、動かないでよ、おとなしくしてて」
目が細く、笑顔の細面の大人の女性がそう囁く。
サユとルコリー、そして初めて会う大人の女性の3人は、
体を寄せて一枚の布で体を覆い、うつ伏せで山の斜面に寝ころんでいる。
『臭い、痛い、臭い』
大人の女性の向こうにサユがいる。
間に人が入っていてもお互い触れていれば、サユの声が聞こえる。
器用な魔法だ。
数刻前、木の根元で髪を振り乱して泣きじゃくっていると、
この細身の女性が笑顔でやってきて首根っこをつかまれて、
引きずり歩かせられた。
そして、この女性のものと思われる荷物のあるところへ寝転ばされた。
女性は立ち去り、しばらくすると血まみれのサユを抱えてやってきた。
それから3人で布を被って伏せた。
「ほんと、臭いわね。あまりひっついて欲しくないわね」
大人の女性が、ルコリーを見ずに溜め息まじりに言う。
「うっさい!しょうがな…」
『静かに!』「しーっ静かに」
魔法と普通の声に、同時に注意される。
同時に話されると首筋のムズ痒さが増す。
サユに逃げられた敵が、辺りを捜索している。
ルコリーが転がり落ちた斜面を中心に歩き回っている。
3人が寝ころんでいる場所は、サユが戦っていた場所に割と近い。
敵の一人が、近くを歩いてきたが、
何故か布を被って寝ころんでいるだけの私達を見つけられなかったようだ。
そのうち敵達は、サユ達が斜面を下っていったものと考え、
下へ下へと移動していく。
しかし、こんな近くにいて布一枚で見つからない理由がわからない。
「あいつら、かなり離れてくれたようよ。
サユ、気休めで悪いけど今のうちに血止めを塗ってな」
『ありがとう、モミジさん』
この大人の女性は「モミジ」という名前らしい。
サユの師匠かと思ったが、どうも違うらしい。
師匠の名前は知らないが。
「ルコリーだっけ。
私はモミジ、サユの姉弟子。よろしく」
うん、さっき名前は聞いた。
苗字は教えてくれないのかしら、とルコリーは思う。
「よ、よろしく…」
「サユのサポート役として、あなたの護衛をするわ。
握手は無しね。
匂いが移りそうだから」
返事はしなかった。
思ったことを直球で言ってくる大人は、今まで会った人の中ではいなかったので面食らった。
そしてルコリーが反応しなかった事を、モミジは特に気にしている様子もなかった。
あと、笑顔だが目が笑ってない気がする。
モミジがサユの手のひらをつつく。
『サユ、遅れてすまない』
サユに自分の考えを読み取れ、という合図だった。
『いいんです、こうして助かりました。ありがとうございます。
山の射手はモミジさんが?』
『あと、槍の男と。ヤツは傷を負うとすぐ逃げ出した』
2人が無言で動かず静かなので、
ルコリーは2人が「会話」をしている事に気づいていない。
『もう一人は?最初の敵は5人でした』
『いや?
5人目は見ていないし、気配もなかったよ。
後の3人はお互い気づくのに遅れたな』
『そうですか、そうですね…』
サユは、顔をしかめる。確かに5人の反応があったと思ったが。
モミジが手のひらをつつく。
『後に襲った3人の情報を読み取ってくれよ。
といっても見た目ぐらいだけど』
『はい』
………
長い長い間、3人は寝そべっていた。
実際には長い時間ではなかったかもしれない。
だが、会話もなく息をひそめて寝ころんでいる苦痛は、永久に続くのではないかと疑うほどだった。
しかもルコリーは下半身が濡れて気持ち悪く、自分のものでもかなり臭い。
他の2人には申し訳なく思ったが、恥ずかしいので何も言えなかった。
気を紛らわす為、長い間グルグルと手の上でペンを回していた。
いつも持ち歩いている、父に貰ったペンを持ってきていた。
お父様と自分を繋ぐものはこのペンだけだなぁ、とぼんやり思う。
実家に帰れたら、いつもお父様の側に使えていた白髪の執事に返そうか。
………




