第06話 ~遭遇~ #2
男は幾つかの肉片となって倒れ、丸い盾は再び地に落ちてグワングワンと音を立て揺れ回り、やがて止まる。
サユは、手刀のように片手を前に出して礼をする。
『魂よ、浄化されんことを』
「ふえー」
夕日と木々が織りなす光と影の中、
踊るように敵を斬るサユは、不謹慎だが芸術的に見えた。
ルコリーが感心してるところへ。
「見つけたぞ、女ぁ!」
後ろからの突然の男の声にルコリーは飛び上がる。
「みぎゃああああああああああ!」
ルコリーの奇声が聞こえた。
敵は5人、そして皆このあたりの地形を熟知している。
サユが2人の男と戦ってる間に残りが素早く回り込み、
彼女は発見されたようだ。
ルコリーの元に戻ろうと慎重に歩き出すと、異音が耳に入る。
異音の方に素早く剣と鞘を振り回すと固いモノが当たる。
矢だ。
矢に魔使石と糸をつけて、射手が糸を伝って魔使石を操り的確に的に当てる。
矢のコントロールもある程度出来、的を外しても糸で矢を回収できる優れものだが、欠点がある。
魔使石があるため通常より音が大きくなる。
飛び道具の対処法は、師匠と検証に検証を重ねて対応は可能だが、目が見えないサユには、やはり苦手な敵になる。
「ひぃあああああああああ、たす助けてぇっ!」
ルコリーの悲痛な叫びを聞くも走って転ばない自信はないし、矢の射手が狙っている。
斧の男が、配置がどうのと言ってたのはこの射手の事かもしれない。
この射手が間に合っていれば、相当苦戦していただろう。
目隠しをして白杖で女というだけで相手の油断を誘い、その隙を突く事ができる。
だがそれもここまでが限界か、とサユは思う。
ルコリーには悪いが。
それでも一か八か、サユは走り出す。
こんな時はあきらめが悪い。
派手に転ぶ。起き上がる。
師匠に「何も出来なくて突っ立ってました」なんて報告は出来ない。
走る。転ぶ。起き上がる。
走る。転ぶ。起き上がる。
幸い矢が飛んでこない。
こんなに転ぶ標的は、射手としては狙い難いのだろうか?
そう思っていると木の上から2発目、3発目と矢がカーブを描いて飛んでくる。
目が見えていれば、矢に繋がる糸を辿って射手の居場所がわかるのだろう。
しかしそれが出来ない身の上である以上、転んでかわして走るしかない。
槍を持った茶色の麻の上下服に、
上半身だけに鋼色の鎧をまとった粗野な顔立ちの男。
鎧は左肩が瘤のように盛り上がり、
そこから魔使石が埋め込まれた義手が2本伸びて、もう一本槍を構えている。
その男が、岩を背にして震えるルコリーの前に立ちはだかる。
「うはははは、悪いな。報奨金は俺がもらった!」
男が吠える。
「あばばばばば」
涙と鼻水で顔をびしょ濡れにして言葉にならない声をだす。
二本の槍が持ち上がり、まさに突き下ろされようとしている。
**************
「ビンゴだ。こっちにいたぞ、あのお嬢さん達。
接触したようだ、雇った山賊共が」
「何がビンゴだ、港で待ちぼうけ食らわせられたくせに」
女が冷やかに答える。
腕の長い、猫背の男はニヤついた顔のまま舌打ちをする。
山中を歩く4人の男女。
先程から聞こえる剣戟 はそう遠くない。
残念ながら、サユの「マインド・ソナー」は、
この4人も感知できるほど広い範囲をカバー出来ていなかった。
「かわいいコなら、皮を剥ぎたいだけどいいか?」
顔立ちの整った若い男が聞く。
それを無視して山のように大きな男が言う。
「行くぞ」
**************
肉に刃物が突き刺さった音が聞こえる。
「んぐおおおおおおおおお!」
見ると、槍の男の右手には葉っぱのような形をした短剣が2本刺さっている。
男は驚きと痛みで、槍を手放しのけぞる。
鎧は左に義手が装着されているので重心が偏り、大きくバランスを崩す。
義手は律儀に持ち主の命令を守り、槍を突き出したが、
ルコリーのいる位置からは大きく外れた岩の上に刺さる。
「ひぃぃぃぃいやあああああ!」
ルコリーのスカートがじわりと濡れる。
的外れな位置でも顔の側に槍が突き刺さるのは、ルコリーの失禁を誘うのに十分な出来事だ。
コーーン。
また不愉快な感覚が体を貫く。だが今度は軽い。
そうだ、サユだ!サユが呼んでいる!?
早くサユの所へ!
ルコリーは突き刺さった槍の下をくぐり、岩陰から顔を出した。
サユが何故か泥だらけになって、杖を支えにして立ち上がろうとしている。
スカートから滴をしたたらせながら、四つん這いでサユの元へ走り、
杖とそれを持つ右手に触れる。
『臭い!汚い!』
「うるひゃい!」
『走れ!おもらし女!』
「うるせーうるひゃい ばーかばーかぁ XXX! XXX!XXXのくせにXXXXX!」
ルコリーは泣きながら走り出す。
下品な言葉で罵り続けてるが、たぶん自身は何を話してるかわかっていないだろう。
サユはそんなルコリーの腕をつかみ一緒に走る。
………




