第06話 ~遭遇~ #1
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夕暮れの近い景色の中、
サユが杖を持ってゆっくりと舞を舞う。
最初に盾の男がゲラゲラと笑いだした。
「踊りだしたぜ、気がふれちまったか!
旦那、もうオレ達で殺っちまおうぜ」
「おう、そうだな」
同じく下品な笑い顔をした斧の男が、その武器をゆっくりと振り上げる。
斧には魔使石が付いていた。
斧の長さまで近づいた毛むくじゃらの太った男は、それを振り下ろす。
サユは斧をかわす。
踊りながら。
魔使石が光ると、振り下ろされた斧は直角にその動きを変える。
斧を横に振って、斧頭でサユを殴る動きに強引に変えた。
男の魔使石の魔法は、
斧を自在に操る補助をする為のもののようだ。
その動きもかわすサユ。
舞は続く。
「ぬおおおおおおおおっっ!」
明らかに手を抜いていた一撃目と二撃目だが、
全てかわされた毛むくじゃらの闘志に火がついた。
魔法石が光ると、片刃だった斧が両頭斧へと変型する。
魔使石の魔法は地味に思えるが、汎用性が高い。
武器の重量の軽減、操作、自動変型等それぞれの動きに対応した石が必要になるが、魔力を込めると色々な動きが可能になる。
魔使石の力を借りて厳めしい形になった斧を素早く振り上げた男は、渾身の力でサユに振り下ろす。
だが素早い斧捌きより、サユが男の懐に入る方が早かった。
やっと杖より解き放たれた剣身は、一回転して止まる。
哀れ、男の太った腹部は二分割にされていた。
内臓をぶちまけながら倒れる仲間を見た盾の男は、バカ笑いを止めた。
「やんのかぁこのクソアマァァァァァァ!」
剣を振り上げ、サユに迫る。
サユは男の剣を正確に受け止め、2、3合討ち合ってお互い距離を取る。
「てめぇ本当に目が見えないのか!?」
男が発した言葉と同じ事を、岩陰から見ていたルコリーは思った。
出会って4日ほどだが、確かにサユは見えていない。
食事の時は、食べる前にどこに何があるか手を伸ばして探って、
たまにスープに手を突っ込んだりするし、
教室を歩くと、杖をついていてもあちこちの机にぶつかっていたし、
ルコリーに触れようとする時は、見当違いの方に手を伸ばしたりしている。
それを知ってるはずなのに、
余裕の構えで男の剣を受けるサユを見ると疑問が湧く。
「………」
サユは話せないので、男の質問に無言で返す。
「何すましてやがる!ムカつくぜこのガキャァァァ!
ムキャァァァァァァァァァァッッ」
剣を振り下ろすと見せかけ、男は盾を前に突き出す。
男の手に鎖で繋がれた盾がサユの方へ飛ぶ。
先程からそつなく戦っていたサユだが、
盾が飛んで来たのには驚いた。
正確には、サユは男が盾を持っている事を知らない。
鎖の音と相手の動きに不穏な何かを感じてはいた。
後ろに飛び距離を置こうとして、石に足を取られて転んだ。
転んだサユの上を盾が通り過ぎる、と思われた瞬間に盾に付いた魔使石が光る。
丸い盾の四方から尖った刃が飛び出し、サユの腕と足をかすめた。
素早く起き上がるサユ。
白いアオザイに赤く染まる部分が広がる。
男は鎖を引き、盾を引き戻した。
「運がよかったな、アマ。
次は俺の盾をよけられるか?ん?」
再び下品に笑い出す盾男。
サユはやはり無表情だ。
「痛くないのかしら…」
呟くルコリー。
サユの見物に集中するあまり、後方の異変には気が付いていない。
「くらえっ!」
得物の種類と攻撃のタイミングを教えてくれるこの男は親切だな、とサユは思う。
男のメインの武器は盾である。
盾は直線にしか飛ばないようだ。
音で盾は鎖で繋がっていることはわかっている。
飛び出す刃は魔使石で動かしているのだろう。
実にショボい魔法。
鍛錬が足りないな、と思う。
魔使石の付いた盾が使えるなら、鍛錬次第で無敵の防御を誇る男になれただろう。
魔使石の付いた刃と鎖を扱えるなら、狙った獲物を逃さない中距離武器の達人になれただろう。
この男は、盾から刃物を出すビックリ道具だけで満足してる小者だ。
石につまづかなければ、その小者に大怪我を負わされていたかもしれない事を、
サユはすっかり忘れている。
盾を避けて相手の懐に入るのは簡単だ。
しかし鎖の引き戻しで盾に後ろから攻撃されるだろう。
そう考えると左手に持つ、白杖のシャフト部分である鞘と剣をクロスさせて正面から盾を受け止める。
強い衝撃に耐えながら、そのまま盾を下に叩きつけた。
「なぬっ」
叫んだ男は慌てて、地面に突き刺さった盾を引き戻そうと鎖を引っ張る。
盾から飛び出た剣が、地中で石か木の根かに引っ掻かり、
男が予期していない方向へ浮き上がった。
それが、盾男の見た最後の光景だった。
サユがくるりと踊り近づいて剣身を斬り上げ、
回って再度斬り上げ、仕上げに素早く斬り下げた。




