第04話 ~来襲~ #2
サユはどこからともなくスケッチブックを出す。
”この人がルコリー=バーキンです。”と書かれたページを開く。
後ろにいるルコリーが、このページを見てないのは幸いだ。
きっとさらに大きな声で泣くだろう。
”あなた達の目的はなんですか?”続いてページを開く。
「ああ?んだばそいつを殺すのを頼まれただべ」
「そのピンクの髪のを殺したら、ワシらも去るけぇ、杖の嬢ちゃんはどっかいねや」
「ザガ、去る前にワシらも女の物色をしたいのぉ」
「それもそうじゃのぅ兄者」
男達の会話が弾む中、スケッチブックをしまったサユが次の行動に出た。
杖を持って踊りだした。
「ふわわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
ルコリーの大声に、サユが顔をしかめる。
殺人者を前に、多感な年頃の少女が発狂して踊りだしたとしても仕方がない。
そしてそのシュールで、滑稽な光景を見れば絶叫を上げても仕方がない。
それも殺されるかもしれない立場としては。
しかし、サユにとってはうるさい雑音でしかなかった。
踊る、といってもサユのそれはゆっくりとした、
それでいて無駄のない動きの剣舞である。
もしこういう状況でなければ、ルコリーでもその踊りの精錬さに気づいたであろう。
「…兄者、なんば踊りだしたヤツがいるべ」
「なんじゃあの目隠し女。頭がパーになっただか?」
「なんか面倒じゃ!全部切っちまおうべ兄者!」
「んだ!」
おしゃべり好きな男達だが、決断すると早い。
装着された大きな手甲から、幅広の剣が飛び出る。
手甲剣だ。
他に剣を帯びず、魔法の特性から考えると男達は暗殺を生業にしている可能性が高い。
それが白昼堂々と真正面から出てきたのだから、今回の仕事は簡単に済ませると考えていたことが伺える。
兄者と呼ばれた男は、すばやく木造の室内運動場の壁に移り、魔法を使って、壁に垂直に立って走る。
サユの左側に回りこんで近づいてくる。
「邪魔じゃあぁぁぁ小娘ぇっ!」
男はまずサユを狙って飛んだ。
右手甲剣を伸ばし急接近。
次の瞬間、男の右手は付け根から無くなり、
同時に鎧と金属がこすりあう音、
その次には男は首と口から血を吹き出して砂を巻き上げ地面に転がり落ちた。
男が近づいた瞬間、セーラーの襟と深緑のスカートをひるがえし、
クルクルと華麗に2回右回りに回ったサユの右手には
いつのまにか剣が握られていた。
左手には白杖の一部。
白杖に仕込まれた刃が、男の体を2回切り裂いていた。
ルコリーは現状を全て把握出来てなかったが、
地面に転がった男の虚ろになった目が、彼女に向いてるのに気がついた時、
気を失った。
「え?うそじゃ…うそじゃあアニキ……
うあああああ、あアニキィィ!
ジガ、ジガぁどこにおるんじゃああああ。アニキがぁぁ!」
ザガと呼ばれた男が、渡り廊下の上で怒りを顕わにして足踏みをした。
大きな靴が、学校中に響き渡るほどの大きな音をたてる。
光あふれる2階奥の教室。
ジガと呼ばれる男はそこにいた。
「んぐふふふ、ええのぉええのぉ」
戸口からゆっくり歩いて逃げ遅れた少女達を品定めをする、大きな黒い男。
大小の丸を集めて作った幾何学模様のようなバリアの魔法が、部屋の隅に追い詰められた少女達の数だけ発動され、その光で食堂の中はまぶしいほどだ。
「ええい、じゃま邪魔ぁ!」
手甲剣で1つずつバリアの魔法を破っていく。
「バリア」といっても完璧な防御ができるわけではない。
闘いを生業としている者には、子供のバリアなど紙同然だ。
ただし初撃を緩和するぐらいは出来る。
それが分かった上でジガは1つずつバリアを破って行く。
手に入れる女を傷つけたくないという思いと、追い詰められていく少女達の恐怖にひきつる顔を眺めていたい、という理由で。
生徒に混じって数人の教師がいた。
頼るべき警備員は一人もいない。
ルコリー達の担任もいた。
彼女は大丈夫、大丈夫だと生徒に、いや自分に言い聞かせていた。
筆記具しか動かせない魔使石の魔法は、ここでは何の役にも立たなかった。
大きな音が響いた。
壁に何かを叩きつけるような音。
「ん、兄者か!?」
ジガにはわかる、兄弟で長年愛用している大きな靴の音だ。
兄弟達は3人とも靴に魔法を込めると、壁でも天井でも自在に歩ける。
靴が大きいほど効果が高い。
その靴を踏み鳴らしてるのは、長兄か次兄か?
今回の標的を見つけた合図…にしてはひっ迫した音に聞こえる。
ジガは急いで廊下に出た。
音のした方へ廊下を急ぐ。
校舎の中ほどを過ぎると、曇りガラスに動く影が映る。
ジガは慌しく走るのを止め、窓を開けた。




