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第35話 ~正体~ #3

 太った後見人が汗をかきながら、その男の言葉に乗る。

 貧相な男は壇上に置かれたコップの水を、3人で書いたサインの紙にかける。

 傍聴席から驚きの声が多数上がった。


「見て下さい」


 差し出された紙、その上に書かれた2人の偽のルコリーが書いたサインが滲む。


「私は、代書人としての仕事を長くやっていましてね。

 2つのサインが証書と違うのは、皆さん納得されたことでしょう。

 私の魔法は、インクの鑑定能力でしてね」


 男は次に証書を見せる。


「魔品の中で、長く褪せる事のない魔法が入った高級なインクてのがありましてね。

 それを感じるんですよ、入学の証書とこのサインから。

 つまり…」


「つまり、お父様と私のサインは全て同じペンで書かれた、という事ですか」


 ルコリーは少し驚きながらも事実を確認する。

 男は頷く。


「嘘だ!これは全てアイマリース家の策略だ!

 全てデタラメだ、偽物だ!」


 汗を滴らせながら太った後見人が男に噛みつく。

 書士の男は静かに答える。


「証書の真偽について疑問があるなら城に訴えられても構いませんが、

 全て徒労に終わると助言致します。

 議長、私からは以上です」


 これ以上ここにいる不利を悟った偽ルコリー一同、太った男は足音荒く、それ以外は静かに退室した。


 ルコリーは偽ルコリー達と書士のやり取りを聞いていなかった。

 中空をみたまま微動だにしない執事を見ていた。

 

 この執事に自分のペンと大金を渡して、自分の護衛を依頼した人物はやはり一人しかいない。

 何故、と考えるのは止めた。

 今はどう考えても答えは出ないだろう。


「結論は出た」


 壇上の議長が声高に宣言した。


**************


「もう手加減はしない、

 本気でいく。

 殺す、お前をすぐ」


 オレギンは鎌を両手にそれぞれ持ち、それに連なる2本の鎖ともう一方の鎌は魔法で路地一杯広がると唸りを上げて回り始めた。

 その姿は奇妙な羽根を羽ばたかせる地獄からの使者のよう。

 再びゆっくりとした動きで舞を踊り始めたサユ。

 その周りを、スキを窺うように歩く地獄の使者。

 一見すると前衛芸術思わせる光景だが、極限まで高められた張りつめた空気の周りに見物人はいない。


 オレギンが攻撃に転じると、サユは身体を回転させながら変型長剣を回す。

 刃を合わせ撃ちあう事100合。

 片方が深く踏み込み攻めると、相手はさらに踏み込みお互い斬りつけ合う。


 長い手で直接鎌を持ったオレギンは強い。

 自ら編み出したであろう魔法に頼らないその武術は、変幻自在で情け容赦なく命を奪いに来る。

 その技に気を取られるとすぐに左右から、魔法による鎖とその先に付いた鎌が襲いかかる。

 残っていたプレートが斬り取られ、身体に張り付けた糸球も削られていく。


 サユは体力の限界を感じていた。

 しかし頭の中で師匠の歌を繰り返していると、身体が動く。

 身体に染みついた師匠の教えに身を委ねる。


 身体の疲れに構わずに、魔法が制御が利かずに放出される。

 360度全方位の動きが読み取れた。


「ええい、うるさいうるさいうるさい!

 垂れ流すのをやめろ、その歌をっ!!」


 本気になる、と言いながら決定打を撃てないオレギンの声に怒りが混じる。


 自分の中にこれほどの魔力が潜んでいることにサユ自身が驚いていた。

 もしかして今までの自分は、浅はかな考えで自身に上限を作っていたのだろうか。

 それがモミジの言う「考えすぎ」な所なのだろうか。


 その質問に答えてくれる人は、もう去ってしまった。

 答えてくれることはもうないだろう。


 サユもお返しとばかりに、相手の服に仕込んだプレートを剥ぎ斬りつける。

 自慢の背広も今はもうほぼ原形を留めていないだろう。


「サユッ

 本当にお前は見えていないのかっ!

 ええい、イライラする、

 人をたばかって コケにしおって!!」


 もう何百何十合、刃を重ねたかわからなくなった頃、ついにオレギンがキレた。

 うおおおおおっと吠え声をあげると、怒りを糧にオレギンがさらに踏み込んで激しく攻め込んでくる。

 男が激しく動きまわり、その長い手が強く鎌を討ちこみ鎖が唸りをあげる。

 あらゆる角度から鎌が襲う。

 その鋭い感覚を魔法で拾い全て撃ち返す。

 返しても返しても鎌は押し寄せる。

 攻めに移れず防戦一方となる。 


「気に入らん、黙ってムッツリ戦いおって!

 全部ウソだろうが、しゃべれないのも!

 聞きたかった、お前が苦痛に叫んで死んでいくのをっ!!」


 バキリ、と乾いた音がすると長剣の剣の部分が飛んで行った。

 身体が限界を迎える前に、シャフトとの接合部が限界を超えた。


「役にたたない、どいつもこいつも。

 ドズも。

 フィアも。

 サンシャも。

 ウーノスも。

 山賊のゴミ共も。


 お前がケガをしてぶっ倒れる、

 ただそれだけでよかった、俺は。

 そうすればあの方が、

 「黒の疾風」と俺が戦えたのだっっ!!」


 怒声が強くなるとともに、鎌の攻撃も強くなる。

 左手に残ったシャフトと盾だけで防戦するサユ。

 しかしオレギンの猛攻は激しく全て受け止められるものではない。

 後退に後退を続け、ついにバーキン家の門扉前まで追い詰められた。


 後がないと知った時、鎖に体を縛られる。


「グハァ、ハァ、ハァ

 もう終わりにするぞ、サユ。

 先端の鎌が飛ばす、ハァハァ

 鎖が完全に巻き付いた時、お前の首を」


 全力を出し切り満足したのか、荒い息の合間に苦笑を混じらせオレギンは話す。


 ゆっくり回って体を締め付けていく鎖鎌にサユは覚悟を決める。

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