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蒼鋼の人造巨人ブラウ・クーゲル  作者: 赤石たける/秋刀魚
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第六話:青い弾丸《ブラオクーゲル》

 その後研究所の中を案内された。

 様々な部屋があったが、パイロットとして使用する機会があるのは、格納庫と会議室、それと食堂ぐらいらしく、あっさりと案内は終わった。

 今日は挨拶だけをすませ、明日からが本格業務になるらしい。

 部屋に戻って何もする気が起きずにベッドに寝転がる。

 眠れそうにない。

 自問自答する。


 メアのことを本当に愛しているか?


 愛している。


 命を賭けて愛せるか?


 賭けられる。


 このままユーリを犠牲にできるか?


 できる。


 つまり、それが答えだ。

 俺がメアのために罪を被ったのも、ユーリが俺のために犠牲になったのも結局のところ好きという一念だ。

 俺はメアのために行動をしたし、これからも行動するつもりだ。それはユーリお一緒だろう。

 止めることはユーリの気持ちを踏みにじることになる

 私はこれだけあなたの為にがんばりました。だから、あなたも私にこれだけのことをしてください。そんなものはただの押しつけだ。

 愛は見返りを求めない。……それが真実の愛ならば


「マテウス。こんな時間にごめん、少しだけいいかな」


 考えごとをしていると。ユーリが部屋に入ってきた。


「ああ、いい」


 時計を見ると、朝の三時だった。

 ユーリを見るとまだ研究着のままだった。


「今まで仕事か?」

「うん、今日は集中できたから、時間を忘れちゃった」


 注意深くユーリを見る。

 目には隈ができて、肌は荒れていた。三日間寝ていない。そういったあの日よりもよほど弱っている。

 シーゲルの言葉がよみがえる。


「あまり、無理をするなよ」

「……うん、わかった」


 声に出してから失言に気が付いてしまった。

 俺が言っていい言葉ではない。ユーリを追いつめているのは間違いなく自分自身なのだから。

 知らない振りをするべきなのか、それとも全てを話すべきか。

 考えがまとまらない。


「話があるの。いい?」


 思いつめた顔で俺に問いかけてくる。ひどく弱弱しい顔。今にも崩れ落ちそうな儚さがあった。


「ああ」

「マテウス。君にパイロットのほかに仕事を引き受けてほしい」

「ユーリの力になれるなら、喜んで引き受けるよ」


 断れるはずがない。例え、裸で敵巨人中隊に突撃しろと言われても躊躇いなく実施できる。


「いいの? 内容を聞く前に返事をして」

「ああ、おまえの頼みを断るわけがない」

「あはは、嬉しい。じゃあ、今日から君には僕の護衛兼カウンセラーの職務を追加しよう」

「わかった。なにをすればいい?」

「何もしなくていいよ。じゃあ、話はおしまい。僕はシャワーを浴びてくるから」


 そう言うとユーリは、シャワー室に向かう。俺の部屋の。


「おい、ユーリ」

「なに、マテウス?」

「部屋に戻れ」

「やだな。君は僕の護衛でしょ。だったら僕の隣にいないと。だから、僕は今日からここに住むの」

「おちつけ、とりあえず着替えもないし今日は戻れ」


 一日立てば冷静さを取り戻すだろう。そう考えて提案する。


「大丈夫用意しているから」


 しかし、その苦労もむなしくなれた手つきで棚から簡素な下着とタオルを取り出し、シャワー室に消えていく。


「変な気を起こすなよ」

「それは、女性の台詞」


 少し寂しげな顔をしてユーリは返答する。


「ねえ、マテウス。たぶん君が戸惑うのもわかるし、負担になるのも理解している。でもね、ほんの少し我慢してほしい。一緒に居させて欲しい。じゃないと僕は駄目になってしまう」


 その言葉を残しシャワー室に消えていく。

 本音を言うとその言葉が嬉しかった。心の中に暖かい何かが沸いてきた。ただ、それを伝えるのが気恥ずかしい。

だから、シャワー室の扉がしまってからその気持ちを口に出した。


「ユーリ。ありがとう。おまえのことは世界で二番目に愛しているよ。こんな俺でよければ一緒に居るから」


 俺の声はシャワーの音にかき消される。

 ユーリの気持ちの種類にはなんとなく気が付いている。

 ただ、それに応えられない。きっと俺は目を背けて、ユーリを傷つけながら生きていく。

 その後シャワーからでたユーリはベッドに入ってきて寝始めた。

 会話はない。

 ことばの通り、ただそばにいるだけだった。

 ただユーリは俺がそこに居るのを確認するように朝になって目を覚ますまで、俺の手を掴んで話さなかった。


 順調すぎた。何もかも。

 試作型人造巨人ブラオクーゲルの一号機は、俺がこの研究所に配属されてから二週間後に完成した。

 ユーリは完成と同時に倒れ丸二日起きなかった。

 そしてさらに二週間、機体慣らしをしながら問題点の抽出と解消。

 それも、致命的なものは何一つなくトントン拍子で進んでいった。

 ブラオクーゲルは、巨人と言うよりも、戦車に近い操縦感覚だが、今では完全に乗りこなせている自負がある。


「マテウス。次の戦闘で君とブラオクーゲルは戦場にでると思う。だから、ネールフ軍の動向には注意しておいて」


 部屋に入ってきた。ユーリが唐突に切り出した。

 望むところだ。ブラオクーゲルにはそう思わせるだけの力があった。


「一つだけお願いがあるの。マテウス。絶対に死なないで」

「ああ、おまえのブラオクーゲルは絶対に守るよ」

「違う! 君が僕の巨人で死んだら、一生後悔する。僕は、僕がここに君を呼んだことを後悔したくない」

「約束する。俺は死なない」


 死ねない。そう、強く思う。

 たとえ何があろうとも。



 ユーリの予想は現実となった。西の砦で、ネールフの襲撃が始まったと同時に。出動要請が入る。

 ブラオクーゲルに乗り込み、起動する。


 ブラオクーゲルは人造巨人と言われているが、その実は、巨人の技術を取り入れた戦車といったほうが近い。

 全長二メートル。まず、腰から下がない。

足の代わりには斥力を発生させる黄鋼で固められた四つのホバーが取り付けられている。


 エーテルを供給すると、一メートルほど浮き上がった。

 次に、ロケットエンジンに火をともす。爆音と同時に圧倒的な加速を得る。

 その速度は戦車どころか、巨人すらも凌駕していた。ロケットエンジン。液化燃料を爆発させるだけのひどく原始的な構造だった。

 足だけではなく腕も頭も存在しない。


 腕の代わりには60mm散弾砲。

 頭には160mm滑空砲を備えている。

 ブラオクーゲルは、”青い銃弾”その名のままに青い軌跡を残して飛翔を続ける。

 浮力を発生させるホバー以外は全て青鋼で作られている。

 仮に青鋼へのエーテル供給を止めれば、ロケットエンジンの反動に耐えきれずに空中分解をするだろう。

 それどころか、装備している武装さえ満足に扱えなくなる。


「気をつけないと」


 エーテル残量と燃料計の双方に目を向ける。

 巨人のエンジンを再現することはできず、ブラオクーゲルは巨人のエンジンから発せられるエーテルを貯蔵するバッテリーが搭載されている。そのバッテリーを実現したのがユーリの最大の功績だ。


 当然、本物の巨人と違い永久機関ではない。出力全開で、ホバーと青鋼への供給を実施した場合には、三十二分後にはバッテリーがつきる。ロケットエンジンにいたっては、液化燃料がつきるまで三十分が限度だ。

 燃料計が半分まで減ったのを確認すると同時に出動要請のあった戦場につく。

 ロケットエンジンをきり、ホバーの噴射方向を変えながら減速し、着地。轟音をたてながら機体は地面を滑る。


「ここでいいな」


 機体の下部に取り付けられたパイルバンカーが四本、地面に突き刺さりようやく機体が止まる。

 そして、それと同時に敵軍の戦車部隊から、集中砲火を受ける。既に戦闘に入っている友軍の巨人よりも優先して。


「いきなりか」


 ブラオクーゲルはまったく動じない。

 純粋な防御力であれば、装甲の厚さ、瞬間的な出力の双方においてブラオクーゲルは巨人を上回る。

巨人すら打ち抜けない戦車砲なんて、ものの数ではない。

 索敵を開始する。

 うるさいだけの戦車は無視し、巨人にねらいを定める。


「ちょうどいいのがいるな」


 こちら側の戦車の放火を浴び、防御態勢に入っている巨人が1kmほど先にいた。

 160mm砲で照準を合わす。

 味方の戦車の砲撃を受けており、装甲に力を回し動けない敵巨人はただの的に過ぎなかった。

 トリガーを弾くと、圧倒的な破壊力で、巨砲が吠える。


 バンカー四本で固定されているはずの機体が、反動で大地を抉りながら後退する。弾丸は、巨人の胴を捕らえた。巨人を捕らえた砲弾は、巨人が防御態勢を整えていたのにも関わらず、その体を易々と引き裂いた。


「次っ!」


 ユーリから160mm砲であれば、巨人の装甲であれ、簡単に打ち抜けると聞いていたが、半信半疑だった。

 しかし、この光景を目にしてしまえば、何も反論できなくなる。

 このアドバンテージは大きい。こちらが防御を固めながら、致命傷を与えられるのに対し、相手はリスク覚悟で飛び込んで、なおかつ至近距離まで近づく必要がある。


 巨人が視界に入らない。仕方なく、敵戦車に狙いを定める。

 戦闘にすらなっていない。

 向こうの攻撃はこちらに一切の手傷を与えることができず、こちらの攻撃は確実に相手をしとめていく。

 回避行動もなく、ただ照準をつけて撃つだけだ。

 敵の部隊も、ブラオクーゲルの異常性に気が付いたのか、それとも怖じ気付いてしまったのか後退を開始する。

 逃げていく機体を撃つ。160mm砲は射程においても敵を凌駕していた。


「ふざけるなぁぁぁぁぁ」


 わずかにざらつく音声。特徴的な乱れは巨人の外部スピーカーによるものだ。

 防御は無駄と判断したのか、運動系に全ての力を割り振りながら、二機の巨人が特攻してくる。

 味方の支援射撃が当然のように敵巨人に殺到する。

しかし、相手は怯まない。ダメージをくらいながら、それでも致命傷を避けてブラオクーゲルに近づいてくる。相当の熟練者だ。

 副砲の散弾を向ける。距離が100mを切ったタイミングで放つ。

射線を先読みし、回避行動をとった敵だが、広範囲に散らばる散弾は容赦なく敵機を捕らえる。攻撃の回避のために、運動系にリソースを集中させ、まったくエーテルを供給されていない装甲は大口径の散弾を受け止めきれずに砕け散る。すかさず連射。確実にしとめる。


「便利だな」


 もう一機は、この距離での散弾砲の回避は無理だと判断したのか、装甲を青く輝かせ、防御態勢を整えていた。

気にせず、散弾を連射する。当然こちらの弾丸は敵の装甲に阻まれてしまうが、敵は散弾に耐えるため、装甲にエーテルをまわし、完全に身動きがとれなくなっている。

 160mm砲の照準をゆっくりと合わせ引き金を弾く。

 吐き出された弾丸は直撃し、敵は四散した。

 通信機のチャンネルを開き、軍の司令部を呼び出す。

通常は、は一般兵が連絡することなど許されないが、今回は特例として許可されていた。

 巨人とは違い通信機等の装置も内蔵されている。


「こちら、試作型人造巨人ブラオクーゲル レンツ・ベレンキ」

「こちら司令部。見事なもんだなそいつは。配備されるのが楽しみだ」

「ええ、期待しておいてください。お褒めいただいたばかりで、申し上げにくいのですが、ブラオクーゲルは撤退させていただきます」

「機体トラブルか?」

「弾切れです」


 ブラオクーゲルには致命的な弱点がある。

 長期戦闘に向かないという点だ。

 160mm砲の装填数はわずか12発。副砲の散弾砲はもう少しましだが決め手にかける。

 それよりも不味いのが、バッテリー。もう20%を切っている。あと戦闘行動は、十分程度が限界だろう。

 バッテリーが切れてしまえば、防御力の低下はもちろん、主砲やロケットエンジンの反動にも耐えることができず、ただのガラクタと化す。

この機体は全て、青鋼の柔軟さと強固さを前提として設計されている。


「許可をする」

「ありがとうございます」


 パイルバンカーを引き抜き、方向転換。ロケットエンジンを起動し、全速力で戦線を離脱。

 なんとか、研究所まで戻れそうだ。

 ユーリの人造巨人のプロジェクトはこれで完全に日の目を見る。

 早くユーリの顔が見たい。そう思いながら、俺は帰路を急いだ。


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