私を愚かと詰ってください
グロ描写注意かつ救われない話注意。
彼女は果たしてそれで満足だったのだろうか?
馬鹿な王でした。
弱くて、卑怯で、でも心底悪人にはなりきれない。
愚かな王でした。
贅沢で心の飢えを癒そうとして、けれど中途半端に賢しいからその惨めさに気づいてしまう。
愛しい王でした。
例え誰がどう言おうと、私にとっては愛しい人でした。
「だから、死ね」
ナイフを突き立てた私の心など、今の今まで誰も知らなかった。気づかれないように振舞った。だからみんな目を見開いて私を見ている。特に勇者さまの顔の滑稽なことと言ったら。
知らなかったでしょ?
考えもしなかったでしょ?
召喚された人間が、あなた以外は皆不幸せだと。とくにあの人は悪名高い王だったから私は不幸せでそこから救ったのだと。盲目に信じるあなたは笑えないほど馬鹿だ。そして、救えないほど滑稽だ。それはもちろん私も同じく。ああ、それ以上に滑稽なのは私に武器を振るうこともできずに死ぬ勇者の仲間達だけれど。
―――私は何もされなかった。ただ悲しいほどに弱いあの人を抱きしめて愛しただけだった。あの人はこの世界を知らない(王の過去を血筋を知らない)私に縋ったけど、それでも私が望めば外に出すと言ってくれた。私を罵倒したのは追い詰めたのは憎悪したのは、王以外の連中だった。大国に女に惑った王を排斥すべきと言い募って今安穏と暮らしているだろうあの連中。ああ、殺してやる。こいつらを殺したら、勇者だなんて言う馬鹿な連中を殺したら、お前達も殺してやる。あの人はただ寂しいだけだったのに、決め付けて、何も見ようともせずに、そしてあの人が真っ当に務めを果たそうとしたら不都合だと暗躍して。許さない、許さない、許さない。あの人はきっと望まない。知っている。それでも、私は、絶対に許さない。
この復讐を果たすために全人類が犠牲になろうとかまうものか。私の望みのために、ああ、ああ、お前達皆死ねばいい。
血のにおいに惹かれて寄ってきた獣が死骸を食い漁るのを横目で見ながら、ぐびりと水を飲んだ。喉が渇く。飲んでも飲んでも癒されない。ふと目に入った血の色がひどく甘く見えた。衝動的にもう動かないその身体から流れ続けるそれを獣と共に啜ると力が漲る。ああああああああああああ!そう、そうなのね!もう私は人でいることさえ許されないのね!唇をしとどに濡らしてにんまりと笑って、いいわ、そう、むしろ好都合。私の復讐は始まったばかり、最後の一人を殺すまで止まらないためにはちょうどいい。力の溢れるままに走り出す。あはははははははは!なんだろう、泣きたいのに笑えてしまう!!邪魔をする魔物を一体、二体、三体、四体・・・本能の赴くままに屠り、血を貪り、走り抜ける。途中から数えるのが面倒になりつつ来た道を戻っていく。魔王など興味はない。私はただあの人を殺した全てを殺したい!
走って走って、息切れ一つなくたどり着いた大国の王都。連中の讒言に乗った王族を皆殺す。この国の兵士の錬度は確かに高い。位の高い司祭もいるしS級冒険者だっている。でもね、そんなの、間に合わなきゃまったくもって意味がないの!
まず一人目、王の一人息子。こいつは町に下りて遊ぶのが好きだって知ってる。幼げな笑顔で話し掛けてきたから。ありがとう王子様。おかげであなたを殺せるよ。街中ですれ違いざまに心臓を握りつぶす。二人目は王妃様と宰相。不義密通しているところを窓の外から弓でまとめて。あはは、よかったね二人で死ねて。羨ましい。私も王と死にたかった。三人目は王様。あなただけは王を生かしたかったと知っている。でもダメ。皆殺しって決めたから。代わりに正々堂々真正面から殺してあげる。殺す理由も教えてあげる。障害を突破して貴方の前に立った私にありがとうと言ったのはどうしてだったのかな。
混乱する王都を抜けて今度は懐かしの王国へ走る。愛しい人、待っててね。終わったらすぐに行くからね。だからどうか願わくば悲しいだけの貴方の生が報われた死後でありますように!終わりが待ち遠しくて堪らないから髪を振り乱して力の限り駆ける。夜も昼も関係なく森も草原も関係なく休むことなど当然なくいざ懐かしの王国へ、王国へ!
そしてたどり着いた寂れた王都、代わりに光り輝く王宮。ああやっぱりね。あなたたちはそうだもんね。あの人がいたときよりずっと早い速度で進行する崩壊の音色を間近に聞きながら王宮を歩いていく。門番は殺した。目撃者も殺した。スパイも魔法使いも殺した。私の後ろに音はなく、代わりに凄惨な赤に塗れた通路。対照的に前には騒がしく明るい話し声。そこに陰惨な影が潜むのは気のせいじゃないよね?その退廃を悔いて死んでいけ。私がああ私がその退廃に相応しい絢爛な死をあげるわ!
ぐしゃりと群がる雑魚を潰して貴族達の集まる大広間へ。みんなそこにいるね?みんなそこで愉しんでるね?もっともっとそのパーティーを騒がしくって悲惨なものにしてあげる!焼けた鉄の靴を履いて踊り狂え!鳩に目玉を抉られろ!人を人とも思わない畜生にはそれがお似合いだわ!そして皆死んだらその首を並べて陛下の前に垂れさせてあげるわ!あーはははははははははっはっはははははは!!
***
【死の国の始まりのお話】―――ある歴史学者の絵本より
昔、昔のお話です。
この国の近くに大きなお国がありました。しかし、そのお国は一晩で王族を殺され滅びてしまいます。
みんなどうしてだろうと首を傾げたその数日後、近くにあった別の国から笑い声が響き渡りました。楽しそうな楽しそうな女性の笑い声が響き渡ったその国は悪い王様が治めていた国でした。その王様は大きなお国に降り立った勇者様の手によって討たれたのですが、実はその後勇者様の一行は行方知れずになってしまいます。そして肥大する魔族によってあわや戦争が起こるかと思われたのですが、あの笑い声の国が防壁となって魔族の侵攻を食い止めました。けれど、その国は人間に友好的なわけではありませんでした。女王と魔王との会談が公表されてそれは明らかになります。
「―――ニンゲンはみな私の獲物、どうぞお譲りいただけませんか?」
その女王様は真っ赤な唇の、人食い女王様でした。そして、人食い女王様は今もなお私達ニンゲンを脅かし続けています。
*
そして、彼女の復讐は成ったのか?誰をも知ることはできないけれど、愛する人の眠る墓前で彼女は言った。
「こんなやり方しかできない私を、どうか愚かと詰ってください」
「愛に生きて死ぬ君を、誰が愚かと詰れるものか」
・本編に入らなかった説明
主人公が人外化したのは魔界で瘴気を浴びてかつ魔物になるだけの闇を溜めていたから。主人公視点だと判明する場面もなく主人公が勇者の魔界行きに着いていったと残せる人は皆殺しにされ・・・真実は闇の中。
主人公の国の国民は人外ばっかりだよ☆