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ページの切れ端  作者: 歌瑞
撃ち抜いたのは
9/13

【ホワイトディ】

【ホワイトディ】初出20120314

!未来のおはなしにつき、ネタバレ感満載です!

!リア充がイチャってるだけ!

 彼はいつも、わざわざ車から降りて待っていてくれる。

 風の冷たさが少しやわらいで、日差しに温もりを感じるようになってきてはいるけれど、まだ早春といえるこの時期、外は寒いのに。


「遅くなってごめんなさい!」

 せかせか走る自分の呼吸が白くなっているのが見える。こんなに寒いのに、終業のベルが鳴っても教授が喋り続けたりするから!

 わたしをみとめた翠の瞳がゆるく細められて、ほころぶ口元からこぼれた吐息が白く染まって風に流されていった。

 ああ寒そう!!


「本当に、ごめんなさい」

 急いで駆け寄って、頭を下げる。長身の彼はことりと首を横に曲げ、背中を丸めて脇からわたしを覗き込むように見つめてきた。

「大した時間じゃない。それに、ほら」

 それまでコートのポケットに納まっていた彼の両手が伸びてきて、私の頬を包む。大きくて、がっしりした、ちょっと厚めの皮がカサつく感じの、手のひら。

 どこからかふわりと華やかな香りがした。

  、暖かい。


「お前より冷えてないさ」

 あれ、ホントだ。

 彼の手のひらの上に自分の手を重ねてみて、頬だけでなくそこの温度も負けていたことにびっくりした。

 わたしの間抜けな反応が可笑しかったのか、くすりと笑った彼の白い吐息が鼻先をくすぐっていく。


 あ、 あれ、ちょっと待っていつの間に、近い近い近い───どうしてだろう、花の香りが───



 ちゅ。



 ぎゃ───!!


「な、ちょ、」

 鼻、鼻のあたま、なんか暖かいのが、柔らかいのがっ!!!

 こんな往来で!


 慌ててさっと視線を走らせた右側、ぱっちり目があった背広姿の男性が気まずそうに視線を反らして通り過ぎていく。

 すぐさまとって返して左側、たぶん同じ大学の女の子ふたりが、同じタイミングでものすごく素早く首を前方に振り戻して歩き去る後ろ姿があった。

 あれ、たぶん絶対見られてるううう!


 恥ずかしすぎる。

 顔にぐんぐん血流が集中していって、自分が今真っ赤になっているだろうってことは鏡をみなくてもわかるぐらいだった。


「ん、暖まったな?」

 いまだに両頬を包んだままの彼が、至近距離でにやりと笑うのが見えた。蜂蜜色の睫毛の向こうで、翠の瞳が悪戯っぽくきらめいている。

 もう、この人は───!


 恨めしく思って睨んでみせても、ちっとも堪えたふうじゃないのが憎たらしい。

 それどころか逆に笑みを深めて、親指で目尻のあたりをちいさく撫でられた。ぐずるこどもをあやすような雰囲気をまとって。

「この前は身体を使って暖めようとしたら怒られたからな」

 いきなりコートの中に抱き込まれたらびっくりするに決まってるじゃないですか、恥ずかしい!!!

 それに、

「こ、これだってダメですっ!!」

 頬の上に置かれたままの手をぺしぺし叩いて抗議したら、そこからふわっと花の香りがただよってくるのに気が付いた。

 わたしの攻撃でゆるんだてのひらに、つい鼻を寄せてくんと嗅ぐ。

「? どうした」

「…花の、匂いがします」

「ああ───」

 しくじったな、そう漏らしながら、彼は助手席のドアに手をかけた。

「驚かせようと思っていたんだが」


 そうして開いたとたんに、つよく香りが広がって。


 真っ白な花束がそこにあった。



 本当に、この人は。


 今日は3月14日だ。

 きっとこれからの一日は、彼のサプライズに振り回されることになるんだろうなあ。そう思うと、わくわくするような、どきどきするような。このくすぐったく感じる気持ちと向き合わなきゃいけないのは、すごく覚悟がいるんだけれど。


 とりあえず、わたしの顔が勝手に形作った表情は微笑みで、それを見た彼が満足そうに笑うから。

 頑張って闘ってみよう。逃げずに、彼と。


「ありがとう、ルダーさん」



 ───見上げたら、さっそく降りてきた金と翠の甘い色に、やっぱり逃げ出したくなった。





 往来で、くちは、やめてえええええええええ!!






(´∀`)ただのリア充だよ! 爆発しろ!!

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