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ページの切れ端  作者: 歌瑞
撃ち抜いたのは
8/13

【バレンタイン】

【バレンタイン】初出20120213


!くっついた後のおはなしなのでネタバレ感満載です!





 明日は、バレンタイン、な、わけです。

 今年のこれはわたしにとって、ものすごくハードルの高いイベントだ。


 だって今まで、義理チョコ以外のものを誰かにあげたことなんてなかったから。

 それなのに、初めてあげる、その───ほんめい、が、こ、こここここい、こ



 ダメ無理、心の中でだってそんな単語言えない。


 ただでさえプレッシャーなのに。 …先日、電話ごしに言われてしまった。

「期待してる」

 って。


 …ご丁寧に、リップ音つきで。

 あの人、普段はそういうことしないくせに、わたしをからかう時だけはいつも全力でなりふり構わない勢いなのは、どうしてなんだろう。


 絶対、なにか企んでいる。そう思ったから。


 逃げることにした。




 彼は14日に休みをとったって言ってたから、今日───13日の夜、日付が変わった後に自分の部屋へ帰ってくるだろう。

 それなら、今日中に彼の部屋にチョコレートを置いておいたら、時間的にもいいタイミングで彼の手に渡るはず。あとは、14日の間は逃げてやる。

 そう考えて、借りたキーを使って彼の部屋へお邪魔した。


 どこへ置けばいいだろう?

 ダイニングは素通りしてしまうかもしれないし、やっぱり寝室のローテーブルかな。


 誰もいないってわかっているけれど、やっぱり後ろめたい気持ちがあるから、自然と忍び足になった。

 そーっと。

 寝室のドアも、そーっと。

 細く開けた隙間から、テーブル脇のソファとベッドに誰もいないのを確認して、ほっと安堵の溜息を吐く。

 はやく済ませてしまおう。

 一直線にテーブルへ向かってしゃがみこみ、バッグから精魂込めてラッピングしたチョコレートを取り出した。

 テーブルの真ん中に置いて、角度を調節する。


 …なにか企んでるとか、本当は、言い訳なんだ。

 ただ、わたしが逃げ出したいだけ。

 逃げちゃうけど、気持ちがないわけではない。むしろ精一杯こめて作ったつもりだし、それを伝えたいとも思っている。

 ただ、伝えかたがよくわからなくて、慣れていなくて、いっぱいいっぱいになって、わけがわからなくなってしまうから。


 ぴしっと満足のいく角度に調節し終えて、よし、とひとり頷いた。

 それから、両手をあわせて頭を下げる。

「ごめんなさいっ」


「何の謝罪だ?」

「ひっ───?!」

 今あるはずのないバリトンボイスに飛び上がりそうなくらいびっくりして振り向いた。

「る、る、る、るだー、さ」

 どうしてええええええええ!!!

 お休みなのは明日のはず、なんでいるの!!?


 彼が、ドアの横の壁に寄りかかって腕を組み、こちらを睥睨していた。

 ひどい、そこドアの死角───!!


 彼は組んでいた腕を解いて薄く開いたままだったドアを押し閉じた。そのまま、するりと手を滑らせて、ノブの近くの鍵が、かちりって───あ、あああ開けにくくするための処置だよね、それ。


「何の、謝罪?」

 に、と彼のふっくらした唇の両端が持ち上がった。 …笑ってない。目が笑ってない。翠の瞳がミントの葉っぱみたいにすごくクール。

「あああああの、あの、ど、どどどどうし、て、」

「どうして? そうだな。最近、我が愛しの恋人は何か重大な悩み事があって───友人に相談をしていたらしいじゃないか。逃げ出したい、と。あまりにも思い煩っているようだから、あなたからも相談にのってやってと、君の友人がね」


 チ ク ら れ た !


 ああああああどうしようどうしよう、どうしよう───


 動揺して何も考えられなくなったわたしに、彼が一歩、一歩、近付いてくる。

「さて、ゆっくり聞こうか。そのために連休を取ってきたからな」

「ごごご、ごめ、ごめん、な、さい」

「何を謝るんだ? こうして俺を頼ってきてくれて、嬉しいよ。 ───一日早いバレンタインも。少し性急だとは思うが、それだけ俺を愛してくれている証拠だろう?」


 あああ、あいとか、いわないでえええええええええ!


 顔が熱い、火がでそう。

 恥ずかしい、どうかえしていいかわからない、でも、否定するのは、うそになる───どうしよう。


 半泣きになって見上げた彼の笑みが、いつのまにかからかいの混じった、にやりとしたものに変わっていた。


 ……わざと、だ! わたしがそういうの、自分から口にできない、から───!

 また! もう! どうして!

 いっつも先回りして!


「───ごめんなさい……逃げようと、したりして」

「いや。シャイなのは知ってる、俺も悪かった。つい、な」

 それまでの笑い方とがらりと変わって、彼は柔らかく微笑みながら、わたしの横に座り込んだ。

「言えないなら、頷いてくれればいい」

 優しく、諭すようにそう言われて、ぎくしゃくと頷いてかえす。

 何気ない動作で、彼がわたしの手をとった。

「チョコレートを作るのは苦労した?」

 …うん。

 親指の腹で、労わるように手の甲をなぞられた。


「後で一緒に喰おうか」

 うん。

 ぽんぽん、と、弾むリズムで大きな手のひらの上を跳ねさせられる。


「これからの予定は空いてるよな」

 うん。

 つくりの違いを比べるように、指先が絡められる。


「俺のことは愛してる?」

 ……うん。

 包み込むように、握られた。


「じゃキスしていいか」

 う ……っえ。


 ぐっと、両手首を捕らえられている。




 ───逃げられない。










彼はオトナなので(大人気ないですが)惑わされるよりも惑わせ…舌噛むわつまるとこ余裕ぶった押せ押せの攻めでござる。てぐすねひいて獲物を待ち構えてる系。

油断して向こうから近づいて来るのを待って突然がばっとおいしくいただくタイプです。はい。なのでもうちょっと油断させる。

気が付いたら糸の張り巡らされた巣の中だったぎゃー! ってなればいいと思います。(20111027活動報告より

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