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ページの切れ端  作者: 歌瑞
晦冥の底から
5/13

【ハロウィン1・2】

【ハロウィン1】初出201111あたり

【ハロウィン2】初出20121012



【ハロウィン1】



「ギィ、とりっくおあとりーと!」

「『策略か差し出すか』?」

 …しまった翻訳機と伝わってない文化のせいで意味が通じてない!

「…お菓子をくれないといたずらするぞっていう、ことです」

「菓子はないな」

 ですよねー!

 むなしい。お祭りに参加したい気分だったんだけどなあ。

「悪戯をするのか?」

 そう言いながら半歩身を引き、くっと微妙に首を傾けたギィが、なんだか「来い」って言ってくれてるみたいだったので。

「…しちゃいます!」

 後先考えずに、とりあえずびょっとジャンプしてその大きな身体に飛びついた。








【ハロウィン2】



「ギィ、とりっくおあとりーと!」


 今年は最初からいたずらする気満々で、そう声をかけた。もちろん仮装もばっちりだ。

 両耳の翻訳機に工夫して布を巻いて、耳を作った。

 爪のかわりにフリップさんの作業用グローブを借りてきた。先は尖ってないけど、これで手はだいぶおっきくみえる。

 ごついブーツも借りて履いてるから、背もちょっと高くなった。

 残念ながら牙は用意できなかった。この世界ではほとんどの人が自前の牙を持っているから、仮装用のフェイクもない。むねん。

 ないものは仕方がないので、あとはロールケーキみたいに巻いてまるめた日除けのショールを腰の後ろに垂らして尻尾にした。

 今のわたしは狼女なのである。がおー。


 両手を高く掲げ、威嚇の意味をこめて、指をわきわき。

 お菓子はないって言われたら、ギィの顔にらくがきをする。フリップさんのものを借りる代償として、わたしが請け負った任務だ。そういう裏取引きをしたのだ。がおー。




 ギィは無言のまま、じっとわたしを見下ろしてきた。

 そうしておもむろにコートのポケットへ手を突っ込むと、何かをつまんでわたしの目の前にぶら下げる。


 ───?


 反射的に差し出した両手のひらへ、ぽとりと落ちたそれは、指の先くらいのちいさな包みだった。


 ……これ、飴だ。


 信じがたい思いでギィを振り仰ぐ。

「どうして飴を持ってるの? ギィ」

 だって彼には必要ないはずのものだ。


 彼はいつも通り、人とは違うつくりの顔に感情をあらわすことなくそこに立っている。

「菓子を渡さなければ悪戯をされる。そういう決まりだったな」

 電子ノイズの混じった声に、わたしは頷いてかえしながら、一年前の記憶を掘り起こした。


 あの時は誰もハロウィンのことなんて知らなくて、ちょっぴりがっかりしちゃったんだっけ。

 ……ギィ、覚えててくれたんだ。

 これは嬉しくなってにやにや笑ってもしかたないよね。えへへ飴もらった!

「ありがとう!」

 手の中のものを握り締めてお礼を言うと、ギィはぐっと首の角度を深くして、頭を下げた。

 頷いた……んじゃなくて、足元を見てるっぽい?




「その靴は脱げ。転倒の危険性がある」




 ……せっかく仮装したのにー!







このあとギィの示唆にそそのかされたミオの「とりっくおあとりーと」に

手持ちがなかったフリップがらくがきされるオチ。

たぶんきっとミオのために用意はしてたよ!



おまけ



「Trick or Treat」

「……えっ」

「Trick or Treat」

「……ギ、ギィ?」

「Trick or Treat」

 ぱたぱたと身体のあちこちのポケットを叩いて確認したけど、お菓子なんかもってない。

 貰った飴も、さっき食べちゃった。

「Trick or Treat」

 ───もう、口の中にしか、残ってない。



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