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ページの切れ端  作者: 歌瑞
撃ち抜いたのは
10/13

【エイプリルフール】

【エイプリルフール】初出20130401




「ルダーさん」


「ん?」


「今日は何の日か知ってますか?」


「今日? ……四月一日だな」

 知っているが、それで?

 そんな雰囲気で、彼はふっくらした形のよい唇の片方だけを持ち上げた。唐突な話題を持ち出したわたしの様子をうかがっている。


 おかしな誤解は招きたくないから、先に宣言しておこう。

「エイプリルフールです。今日だけは嘘をついてもいい日です」

「うん」

 彼の翠の瞳が、ふ、と細められる。笑っているようにも、何かを画策しているようにも見えた。

 ルダーさんはいつもわたしよりずっと先を読んでいて、それがどっちに向くかわからない。何もかも知っている大人の余裕なのか、それとも悪戯に仕返ししようとするこどもみたいな企みなのか。

 でも、ま、負けないんだから。


「だ、だから───」

 じい、っと視線をこっちに据えられて、少し怯みそうになったけれど、今日こそは。

「だ、だ、だい、 」


「だい?」


「だい、きらいです!」



「───ふうん?」

 今度は間違いなく、ルダーさんは笑った。でもにやりとつり上がったのは唇の端だけじゃなくて、まなじりもだった。

 えっ、ど、どうして怒ってる、の?


 思わず後退りしたわたしに、ルダーさんはその長身を利用して上から迫ってくる。

「俺は大、 好 き だが」


 ───え。

 それは、嘘と真実、どっちの意味で───


 大きな手のひらが伸びてきて、がっ、とわたしの頭を両側から掴みあげた。

 ちょっ、まままま待って近い近いちかいいい!


 近すぎて、わたしの視界はルダーさんの唇と、顎と、喉仏の浮き上がった首筋だけで埋められる。

「冗談でも嫌いだと言う気は無いな」


 ……、あ───!

「ご、ごめんなさい」

 どうしよう、ひどいことを口にしたのかもしれない。

 しっかり捕まえられた頭は一ミリも動かせなくなっている。彼が今どんな顔をしているのか、見ることができなかった。

 怒らせた? 悲しませた? それとも呆れてしまっただろうか。

「ごめんなさい! 違うんです、本当は、 」


「本当は?」

 ささやくようなバリトンが、至近距離でわたしの髪をくすぐった。


 本当は、わたしだって大好きなのに。


 それをなかなか言葉にできないから、エイプリルフールを利用してさかさまの言葉で言ってみようなんて、馬鹿なことを考えた。

「ほん、とうは───」

 言わなくちゃ。そう思っても、いざ口に出そうとすると、心臓の鼓動が一気に跳ね上がる。

 どくどく脈打つ早いリズムに気ばかり焦って、思考はさっぱり働かない。


 たった一言、それが言えなくて喘いでいたら、ルダーさんの唇からくすりと笑いがもれた。

「やっぱり駄目か」


 ……やっぱりって。

「ルダーさん、ま、またからかいましたね!」

 くやしい。彼の手をはずそうと、目一杯力を込めてその腕を引っぱったけど、びくともしない。

「いいや、からかってない。本気だからな」


 ルダーさんが鼻先でわたしの前髪をかきわけて、あらわになった額にキスを落とす。

「今はこれで許してやるが、あまり焦らすと後悔するぞ」



 ───何を、ですかー!?


 いつだって後悔しっぱなしだと思う、だって結局また惨敗なんだもの。



 今日こそはって、思ったのにー!



(´・ω・`)額は友情のキス。友情なわけないのだぞミハルさん。

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