勇者以外は攻略済み
女→男でファンタジー世界にTS転生。全年齢。
特にBL描写はない。
「どうしてこうなった……」
目の前の顔ぶれを見て、思わず呟いてしまった。
誰が予想できただろうか。今から旅立つパーティなのに、1人を除き、全員に手を出したことがあるなんて。
これは――そう、私がこの世界に転生したことから始まった。
プロローグ
ありふれた転生を提案され、私はそれを受けた。
指定した性別は男、特別に望んだのは思うままに行動できる仮面。
それではなんだから、と神様から贈られたのは【付与する力】だった。
今まで女として生きてきた。しかし、次は男として生きてみたかった。
仮面を望んだのは、私がチキンだから他ならない。新しい人生を、自分の心のままに楽しみたかった。
どうしても頭の中でうだうだ考えてしまうので、仮面を付ける間くらいは行動的になりたかった。
ファンタジー世界に生まれて十九年。楽しませてもらっていました。
とある田舎に生まれ育ち、髪は少しくせ毛で茶色、目も茶色。個々の地方によくある色だ。
背丈も少し高めで、体付きはしっかりしている。美形度は残念ながら……少しかっこいい程度ではなかろうか。
まあ、それは置いといて。
まずはエンチャンターとしての能力を活かすべく村内の鍛冶師に弟子入りした。
エンチャンターとは付与系魔法を用い、武器や防具等の能力を上げたり特殊な効果を持たせることが出来る。即ち、魔術師の一種である。
魔術師に弟子入りするのが普通なんじゃねえの?
俺もそう思った。でも、こんな田舎に魔術師なんかいないんだよ。
むしろ鍛冶師がいることも奇跡。
ただ、武器や防具に能力を与えることが多いなら、自分で作れたり治せた方が今後良いんじゃないか?そう考えた結果である。
幸いなことに、生まれた隣に工房があった。
師匠は父親の親友で、俺にエンチャンターの才能があると分かると喜んで弟子にしてくれた。
ただ、”鍛冶師は剣士でならなければならぬ”というモットーに基づいて、剣術の修行もさせられたが。
途中、何度も脱走して捕まったことは良い思い出です。
さて。皆さんも気になっている仮面のことですが。
あれは素晴らしいアイテムです。
十歳の誕生日に使用できることになったのだが、実に素晴らしい。
俺の体の一部で、使用したい時に念じれば顔に装着されるという仕組みだ。
目の周りを隠すように現れる。
装着すると、髪の色が茶から黒になり、服装が剣士のようなデザインになる。
着替えなくても、一瞬で服が変わるのがすごく便利だ。
それを付けた時の俺は、心の動くままに行動することが出来る。
思ったことは口にするし、やりたいこともやってしまう。
お気付きかと思いますが、今の性別が男だろうと俺の恋愛対象は男。
要するに、女の時の夢であった好みの男に手を出しまくったのである。
仮面を付けた俺が、ですが。
それが、この状況を招いたのであった。
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改めて、俺の名前はレン=カッセル。カッセル村のレン君だ。
どうもこの世界の文化では、国民の苗字は大抵出身地を意味するらしい。それ以外は貴族や、何か褒美や褒賞として、苗字を与えられるみたいだ。
この村ではあまり学業に取り組まないから分からないが。
さて、カッセル村のレン君である俺には幼馴染がいる。その手のかかる幼馴染が、俗に言う勇者様になったことからこの受難が始まった。
ある日いつもの様に、工房の休憩時間に裏でボーっとしていた。
鍛冶作業ではどうしても目が疲れるから、時間がある時は緑を眺めることにしている。
「あ! レン兄ちゃんいたー!!」
「おー。なんだ、カイト」
何かを振り回しながら駆け寄ってくるカイト。カイトは四歳下で、嬉恥ずかしの十五歳。可愛い弟的存在だ。
カッセル村に住むカイトは、俺と似通った色をしていた。髪も眼も茶色だ。ただ、俺より少し明るいか。
髪型もやんちゃ坊主、といった感じで自然にツンツンと逆立っている。
カイトは釣り上った目を細めながら、
「ほら、これ!」
「これって、主語も何もない……って、オイ!」
「ん?」
「ん? じゃないよ。お前、これ何か分かってる?」
「分かってるよー。流石にそこまで馬鹿にゃねーにょ」
膨らんだ頬を両手で押し潰し、横に引っ張る。
カイトが見せてきたのは、この村の最奥に刺さっていた剣だった。
ありがちな伝説のほにゃららで、それをこいつが持っていることが問題だ。
「お前、これが何だか言ってみろ」
「しぇいけん」
大きなため息をつき、手を離す。
そう、これはどこからどう見ても聖なる剣、クラウ・ソラスである。
自慢そうに見せてくる幼馴染に不安を覚えることしか出来ない。
カイトは意味を分かっているのだろうか。
「カイト」
「なに?」
ニッコリ!
そんな擬音が付きそうな笑み。分かってねえな、これは。
「勇者になるのか?」
「うん」
きっぱりとした返答に、覚悟を感じた。
「だからレン兄ちゃんもついてきてな!」
気がしただけだった。
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旅立ち当日、勇者のおまけである俺はパーティメンバーを話でしか聞いていない。
城から帰った幼馴染が言うには、選ばれた騎士・魔術師・神官だと言う。
ちなみに俺は、エンチャンター・鍛冶師見習だからいると便利、という認識でOKです。
本当は行きたくないのだけれど、生まれた時から知っている幼馴染のお願いで、且つ勇者の冒険に加われる嬉しさで了承してしまった。
旅支度を終え、出発地点へ向かう。
出発地点に選ばれたのは聖剣が刺さっていたカッセル村の入口。
そこには、カイトの他に三人の人影が見えた。
近づくにつれ、見慣れた顔触れに冷や汗をかく。
あと二・三メートルというところで、足が止まった。
カイトと目が合う。嬉しそうに手を振る姿に、思わずやめてくれ!と叫びそうになる。
「レン兄ちゃーん!」
明るい呼び声に笑顔を返すが、それにつられて振り返る三人に笑みが凍った。
動かない俺に焦れたのか、カイトが走り寄ってくる。当然、三人も。
甲冑を着た騎士、黒のローブを纏う魔術師、白いケープを羽織った神官。
ばれたらころされる。
仮面の俺=レンだとばれてはいけない。
仮面のレンだからカレン、なんて恥ずかしい名前にしなきゃよかった。
「初めまして。カイトとは幼馴染の、レンです。
エンチャンターで鍛冶師見習いですが、まだまだ勉強中です。
足手まといにならないよう頑張りますんで、よろしくお願いします」
未だ感じたことのない緊張に、言葉が硬くなる。
その様子に騎士のアルベルが
「そんなに硬くなることはない。
カイトからは付与魔術師として優秀だと聞いている。
僕の名前はアルベル=リ=ハイウィンド。これからよろしく頼む」
肩までの金髪と凪いだ湖のような瞳。
カレンの時には滅多に見せてもらえない、穏やかな笑顔だった。
えええええ。
アルベルの隣にいた魔術師リーツェは、騎士に促されて無感情に頷いただけ。
サラサラな髪を撫でたいよ。リーツェたん、他人にはそんな感じなんだ……。
前世の俺と同じ色合いは一番のお気に入りなのに、そんな態度は辛いです。
「アルベルさんの仰る通りです。
私も回復や防御にしか特化していませんが、こうしてパーティに選ばれたのです。
これからよろしくお願いしますね」
少しウェーブな緑髪を背中で一つにまとめ、柔らかくほほ笑む神官さん。
「ファス殿、肝心な名前を忘れている」
アルベルに指摘され、慌てたように、
「あ、そうですね、すみません。
私はファス=フェン=ハイリヤと申します。
改めて、よろしくお願いします」
焦った表情に、とても癒される俺は変態ですか。
ほんわかする。それが表情にも表れていたのか、ファスもへらっと笑ってくれた。
「アルベルさん、リーツェさん、ファスさん。
よろしくお願いします。
カイトも、頑張ろうな」
横で拗ねたように俺のマントの裾を掴むカイト。その頭を撫でながら心の中で祈った。
どうかばれませんように、と。
キャラごとに出会いとか、ストーリー的なものがあります。
書けたら投稿したいな、と思ってます。
そんなにBLにはならない予定。予定は未定だけど。
なって、15くらい……もわかりません。
読んで下さり、ありがとうございました!