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下等勇者のはかりごと~泥啜る不断の努力とゲーム知識で、魔王を凌駕する~  作者: 笠鳴小雨


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第35話:魔王討伐2ー⑬/希望の勇者


 歌舞伎町にあるビルの一角。

 そこには何十人もの勇者が一堂に集い、文楽の戦いを見つめていた。


「佐々原さん……あの人、私たちと同じ下等勇者なんですよね?」


「そうらしいな」


「私の目がおかしいんでしょうか。彼は三日三晩休まずに戦い続けて、たったの一人で魔王と対等に戦ってますよ」


「対等ではないかもしれないな。骸騎王と違って、神々廻はまだ一度も攻撃を受けていない。全ての攻撃を予測して、事前に回避している。この三日間ずっとだ」


「……神技ですね。私はいまだにこの光景が現実だって信じられません」


 再び、二人は静かに文楽の戦いの行く末を見守り始めた。

 彼らは多くを語らない。語れば骸騎王に勘づかれる可能性があったから、息を潜めて文楽の戦いを見守るしかできなかったのだ。


(神技……という言葉では、表し切れないな。奴の異常性は)


 佐々原はそう静かに考えていた。


 佐々原たちは指示されたとおりに全員でモンスターの魔核を集め、指定の場所にどんどん魔核を配置していった。五十六人を三チームに分け、一つのチームが魔核を集め、二つ目のチームは新宿で魔核を配置し、三つ目のチームは休むというルーティーンを組んだ。


 佐々原だけは万が一の時を考えて、寝ずに新宿で文楽の行く末を見守っていた。

 場合によっては、助太刀に入るくらいの手助けはできるつもりだった。だが結局、佐々原に入る余地のない完璧な攻略を見続けるだけの期間となってしまった。


 三日目の昼頃には魔核の在庫が切れかけたと、嬉野より報告が入ってきた。

 そこからは佐々原も魔核集めに注力し、新宿から遠い場所でその剛腕を振るった。途中それだけでは魔核を補えないと気がつくと、すぐに勇者総出で寝ずに魔核を必死に集め始め、何とか足りない魔核は確保することができた。


 その強行突破の果てに少なくない死傷者を出してしまった。

 睡眠不足がもたらしたのは、集中力を欠き、判断の鈍った者から離脱するという結果だった。


 そう、普通の人間は一日寝なければ精彩を欠く生き物だ。

 元々中東で傭兵として戦場を歩き回った佐々原であればともかく、並みの人間に寝ずの戦闘というものはできないものである。


 だというのに、あの男は三日三晩戦って一度もミスをしていない。

 それどころか精巧な動きを続け、反撃で骸騎王を圧倒しているようにすら見える。

 彼には突出した知識があるとはいえど、あの異常な精神性には佐々原も驚いていた。


(あの強さがどこから湧き出てくるのか……不思議な奴だ)


 佐々原は静かに、遠くから文楽を称賛していた。


 骸騎王の電撃攻撃は目視できない。

 並みの下等勇者では、発射後に着弾を観測するのは至難の業だろう。特等勇者である佐々原でギリギリ事象を判断でき、回避できるかどうかというところなのだ。実際佐々原は骸騎王と一度戦い敗れているからこそ、電撃槍での攻撃の超速度を知っている。


 文楽は下等勇者だと、自認していた。

 おそらく文楽でさえ電撃攻撃を見て回避しているとは、思えなかった。遠くで見ていて気がついたことがある、文楽は電撃が放たれるよりも前、生み出された瞬間には魔核を的確な位置に出して攻撃を回避していたのだ。


 奴は今までの経験と蓄積、そして異常なまでの集中力を駆使して、見えない攻撃を避け続けているのだ。それだけではない――攻勢にも出て何度も何度も骸騎王に黒い血を吐かせている。


 あの男はイカレている。


 それと同時に、皆に希望を与えるかけがえのない存在だ。


 死が当たり前の世界で、死に屈せずたった一人で魔王を圧倒する下等勇者。

 この世界で下等勇者など本当にいつ死んでもおかしくない。昨日まで一緒に飯を食っていたやつが、次の日には冷たくなって反応しないなんてことざらにあることだ。愛する人が翌日には「愛した人」と過去の人物になってしまうことも、何度か見てきた。


 だからこそ下等勇者である彼らは、文楽に希望を抱いていることだろう。

 このまま彼についていけば、自分の未来さえも明るいと感じてしまうものだ。

 おかげで佐々原の拠点の下等勇者たちは、最近生き生きとしている。彼らは恐怖でも、先の見えない薄氷に座る王でもなく、未来を明るく照らす希望が必要だったのだ。


 だから最近思う。

 この男が死ぬことは、絶対に許されない。


 佐々原は珍しく拳を握りしめ、他人を応援していた。


(だが、オレもお前に期待している。嫁にもう一度会うまでは死ねないから、地獄まで付き合うぞ――神々廻)


 そう考えていた――その時だった。



 文楽たちの仲間が例の指輪を文楽へと渡し、骸騎王の鎧が吹き飛んだのだ。



 その光景を見た瞬間に、佐々原はポケットから無線機を取り出していた。


「全員、戦闘の準備をしてくれ。もうすぐオレたちの番がくるぞ」


 そう端的に伝えると、佐々原は持っていた無線機を傍にいた女性へと渡す。

 そのまま佐々原は壁に立てかけていた剣と戦斧を両手に持ち、自分の責務を全うしようと歩き出す。その道中で、ついてきた女性に対し佐々原は言う。


「鮎屋はここで待機だ。お前はまだスキルを上手く使えないだろ?」


「……わかりました。佐々原さんはどうするんですか?」


「好機があれば、骸騎王に一矢報いてくる」


 そう言って、佐々原はスキルを発動する。


 スキル――存在消失、発動。

 自分の存在自体を、限りなく薄くして感知しにくくする能力だ。

 簡単に言えばこの時、この瞬間だけ、佐々原という男から発せられる音、他者から見たときの存在感、匂いなど、全てを感知しにくくするスキルだ。よっぽど索敵能力が高くなければ、気づかれることはまずない。


 ビルの階段を下りていく佐々原は、傭兵時代の逞しく、怯えた表情を浮かべていた。


 この先は佐々原でさえ、いつ死んでもおかしくない戦場だ。

 文楽が今立っている戦場を怖いと思っていた。


 いつぶりかの冷や汗が、首を伝って服の中に入ってきた。


(……恐怖なんていつぶりだろうか)


 自嘲するように口角を上げ、それでも佐々原は歩みを止めなかった。


 少し前、骸騎王に殺されかけた思い出があるからこそ、一矢報いたいという気持ちもある。

 だが今はそれ以上に神々廻文楽という男を死なせてはいけない、という使命を感じていた。


 彼が窮地に陥ったときに、傍で戦えるのは佐々原しかいない。

 他の連中にこの大役は任せられない。


 たとえ、それが合理性に欠ける判断であったとしてもだ。



 ◆



 文楽の「今だッッッ!!」という合図で、二人の強力な勇者が加勢に来た。


 樹魔法を操る中等勇者の洞木波音、そして精鋭暗殺者の佐々原だ。

 彼らはそれぞれ事前に仕込んでいた最強の一撃を骸騎王へ放ち、巨木のように太い四足の脚に致命傷を負わせることに成功した。骸騎王は苦悶の表情を浮かべて地面に膝を着き、強襲のありかを探すように周囲を何度も見渡している。


 結果を見るよりも先に――文楽は骸騎王へと駆け出していた。

 天叢雲剣を振り上げ、骸騎王の首元へと鋭く振り下ろす。



 ――そのときだった。



 骸騎王の瞳が、螺旋を描き歪んだのだ。

 不意に掌をこちらへ向け、聞こえないほどの小声で何かを言ってきた。



『――■■■■』



 刹那、世界が暗転した。


 藍色の夜空が白くなり、骸騎王の黒い体毛が白く見えた。飛び散った鎧は黒く汚れる。

 世界の色が完全に反転したような、明らかに骸騎王が起こした現象ではない極大の違和感。


 瞬きよりも速いコンマ一秒の世界で、骸騎王が向けてきた掌に黒い球体が生まれ、それが文楽に向かって解き放たれた。


 人間の認識を超える一瞬の出来事に、文楽は防御する術を持っていなかった。

 コンマ一秒もすれば、その黒い球体は胸に到達する。


 やばい――死ぬ。




「ゴホッ…………」




 死を覚悟した文楽は、なぜか生きていた。


 目の前には、胸に大きな穴を開けた佐々原の姿があった。




「希望を殺されてたまるか」




 最期に口角を上げて、佐々原はそう言ったのであった。

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