第32話:魔王討伐2ー⑩/三種の神器
神話級スキル――呪い之王。
文楽の体からあふれ出た呪いの粒子は、骸騎王を完全に包み込んで視界を奪う。それは誰も掴むことのできない雲のような実態であるため、どれだけ骸騎王が暴れようとも呪いは鎧の隙間に入り込んでいき、体を蝕んでいった。
『――ッ!?!?!?」
苦しみのあまり骸騎王が暴れ出し、むやみやたらにゲイ・ボルグを振り回し始めた。乱心した馬のようだ、蹄を響かせながらそこらにあった車を押しつぶしていく。
文楽は慌てて鎧を蹴りだすと、骸騎王から距離を取っていた。
それとほぼ同時に、骸騎王を覆って蝕んでいた呪いが鎧から放たれた光によって霧散していく。視界を取り戻した骸騎王は、鎧のあちこちから黒い血を垂れ流している。しかし次の瞬間には体を白い光が包み込むと、そこには無傷の骸騎王が佇んでいた。
(完全回復能力もようやく登場か)
状況を冷静に分析し、文楽は嫌そうな顔をしていた。
これは骸騎王が有している、どんなダメージすらも一瞬で回復してしまう厄介極まりない能力だ。死闘の末にあと一歩の致命傷を与えたとしても、ほんの一瞬でも余暇を与えてしまえば、こうして完全回復されてしまう。まさに鬼畜ゲーの極みだ。
必中の神槍から放たれる無数の雷撃槍。
全ての攻撃を反射する白銀の鎧。
ダメージをなかったことにしてしまう全回復スキル。
これらの三種の神器が、骸騎王を魔王たらしめた真骨頂のスキルセットだ。
だがこれらの能力の使用は無限ではない。使えば使うほどにその使用回数は減っていき、威力も下がっていく。
だからこそ、今ここで地道に削っていくことが大事なのだ。
◆
二日目。
骸騎王はいまだ健在だ。
骸骨ゆえに睡眠を必要としない骸騎王は、むしろ初日よりも元気に暴れまわっている。
対して文楽は目の下に大きな隈を作りながら、死に物狂いで食らいついている死に体の状態だった。
衣服はすでに土で汚れ、汗が染みつき、戦争を思わせる風貌になっていた。腕周りに関しては雷撃槍の余波で焦げてボロボロで、服としての機能を果たせていない。髪の毛も土埃で軋んでいて、頬の汚れは黒く固まり始めていた。
(くそッ)
攻撃から逃げるために大きく地面を蹴りだして回避しようとした瞬間だった。
右脚が攣ってしまったのだ。丸一日以上命を天秤にかけた逃走と戦闘を繰り返してきたせいで、全身の筋肉はすでに悲鳴をあげ、感覚が無くなり始めていた。
文楽は腕に巻きつけていた玉結びの布を噛みしめる。
短剣を自分の右足に突き刺し、すぐに引き抜いた。それから間もなく傷口が癒えてくると、ついでに疲労でなくなっていた感覚が戻ってきた。間もなく走れる状態へと回復する。
脚が動かせないならば、スキルで動かせるようにすればいい。
それを体現するために、文楽は自傷を何度も繰り返していた。自傷による回復は便利だが、最初に伴う痛みだけはどうにも耐えられる辛さではない。早くどうにかならないものか。
そうして何度も何度も何度も自傷を繰り返し、その数が百を超えたときだった。
『条件達成――スキル【痛覚遅延】を獲得しました』
『条件達成――スキル【痛覚遅延】が【痛覚鈍化】に進化しました』
獲得可能欄にあったスキルの一つ、それが条件を達成し獲得できたのだ。
しかも同時に進化を遂げ、自傷による痛みがかなり緩和された。今までは絶望を感じるほどだった痛みが、コンパスで手を刺した程度の優しい痛みに変わった。
文楽はにやりと笑みを浮かべる。
「最高のタイミングだ。これでまだまだ戦える」
◆
三日目。
ようやく骸騎王の動きが鈍くなり始めた。
能力発動時の速度が鈍化していき、動き自体がのろくなってきた。
これは骸騎王の能力限界値がかなり近づいていることの証であった。
さすがの魔王と言えど、三日三晩戦い続ければほころびもでてくる。
それからさらに五時間ほど戦闘した頃だった。
『――必中の神槍』
骸騎王がいつも通り攻撃しようとしてきたが、雷撃槍が出現することはなかった。周囲をバチバチとさせてはいるが、一向に雷が槍の形を作れなくなる。それどころか徐々に雷がしぼんでいき、雷すら出せなくなってきた。
ゲイ・ボルグの電池が切れ始めた。
そこから骸騎王はゲイ・ボルグ本体で攻撃をしかけてくるようになった。
攻撃をなんとか短剣で弾くことを繰り返していると、再びスキル獲得のアナウンスが聞こえてくる。
『条件達成――スキル【武器防御】を獲得しました』
それを聞いて、文楽は笑みを浮かべていた。
ようやく欲しい武器スキルの一つが手に入った。
ゲイ・ボルグの攻撃に合わせて短剣を振るうと、カキンッと甲高い音を響かせてお互いの武器が後方へと大きく弾かれた。パリィスキルを獲得したのだ。
それからさらに三時間ほど戦った。
骸騎王はようやく全回復能力も電池切れになってきた。
残るは――白銀の全身鎧だけだ。
鎧の能力にも限界はあるが、あれが手元にあれば――。
「神々廻先輩ッッッ!! 受け取ってください!!」
そう考えていたその時だった。
どこかのビルから小神の声が聞こえてきたのだ。
声のした方向へ振り返ると、そこには小さな輝きを放つ指輪を持った小神の姿があった。それだけではない、そこには全身をボロボロにしていた迅や枯木、洞木らがいたのだ。彼らは、事前に文楽が話していた役割を全うしてくれたらしい。
(ナイスタイミングだ)
そう考えつつ、文楽は駆け出していた。
全力でビルを駆け上がると、小神とほんの一瞬だけ出会う。
その一瞬で小神は指輪を文楽に手渡すと、こう叫んできた。
「絶対に勝ってください!!」
その言葉に対し、文楽は笑みで返す。
ビルの外壁を強く蹴り、ビルから一気に距離を離す。
そうして動きが鈍くなっている骸騎王へと駆け寄っていく。
近づいてくる文楽に対し、骸騎王はゲイ・ボルグ本体で迎撃しようとしてくる。
それをなんとか短剣でパリィする。
攻撃の合間に生じた隙を狙い、文楽は指輪をはめた右手を鎧に触れさせた。
次の瞬間、骸騎王が纏っていた全身鎧がはじけ飛んだ。
白銀の鎧が細かな破片となって砕けちり、四方八方へと吹き飛んだのだ。
そうして骸騎王の本体、筋骨隆々な体が露わになる。
これで骸騎王が無防備になった。
ようやく無敵だった骸騎王が、倒せる対象へと変わったのだ。
「さて――長い三日間だったな骸騎王」
『――ッ!!』
「今日で終わりにしよう。さすがに眠たすぎる」
そう言って、文楽はずっと腰から取り出さなかった一本の剣を取り出した。
それは前回のクエストで手に入れた神話級武器――天叢雲剣だった。




