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下等勇者のはかりごと~泥啜る不断の努力とゲーム知識で、魔王を凌駕する~  作者: 笠鳴小雨


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第30話:魔王討伐2ー⑧/骸騎王の元へ

 あれから数日間、文楽たちはひたすらに魔核を集めていた。

 毎日毎日モンスターと戦い、彼らは血みどろになりながら魔核を採集し、しっかりとノルマの千を優に超える魔核を手に入れてくれたのであった。魔核は多ければ多いほど骸騎王戦を有利に戦えるので、彼らにはこれからも集めてもらうつもりだ。


 魔核の管理は、工事現場からでももってきたのか、複数のフレキシブルコンテナバッグに大量の魔核を詰め込んでいた。管理方法などなんでもよいが、心臓のように蠢く魔核がこれほど大量にあると圧巻の一言と同時に、なんとも言えぬキモさがあった。


 千を超えたことを確認すると、文楽は身支度を整えていた。

 彼らが調達してきてくれた戦いやすそうな衣服や運動用ブーツに着替え、最低限の食料を入れたポーチを腰に携えている。その準備を終えると、文楽は顔を上げた。


「あとは頼んだぞ、佐々原」


「任せてくれ。三日後、新宿でまた会おう」


 二人はドライに会話を終えると、それぞれ別の方角へと歩いていく。

 ここから先はそれぞれが役割を果たし、骸騎王を倒すための大立ち回りをしていくことになる。佐々原たちは大きな仕事を任され、そして文楽は最も過酷な役割を請け負った。


 これでいい。

 勝つためならば、自分の苦しみなんて考えなくていい。

 最後に勝っていれば、それでいいのだ。


 そう考えながら文楽は、一人新宿方面へと向かった。



 ◆



 新宿に近づけば近づくほどに、化け物みたいな植物が増えてきた。小さな可愛い植物ではなく、モンスター級の規格外な生い茂る植物がひしめいている。

 人よりも大きな薔薇や車を飲み込めそうなほど大きなラフレシア、電柱よりも太い蔦など、明らかに現代では見たことのない植物が、新宿を覆っていた。


 初台あたりまでは普通の都心の様相を残していた。

 だがひとたび新宿方面へ進んでいくと、廃墟化したといっても過言ではない状態の新宿になっていたのだ。アスファルトを突き破る蔦の群れに、ビルに寄生して毒液吐き続ける大型植物、車でも溶かしたのだろうか鉄臭く腐ったような匂いが新宿には充満していた。


 それだけではない。

 この一帯では植物型モンスターが人を見つけると、止まることなく襲い掛かってくるのだ。


(だいぶ骸騎王に近づいてきたな)


 このような植物地獄と表現できる過酷な環境に、骸騎王は必ずいる。

 むしろ植物の密度が濃くなればなるほどに、骸騎王のテリトリーということだ。

 力のない勇者であれば、骸騎王の姿すら見ることなく、搦手や奇襲を絶え間なく仕掛けてくる植物型モンスターにあっさり殺されることになるだろう。


「ギュイェェェェェェェェェェエエッッッ!!」


 警戒しながら歩いていた文楽の足元の道路が隆起した。

 勢いよく人ひとり呑み込めそうな巨大な口を持つ棘付き蔦が襲い掛かってきたのだ。


 文楽は事前に攻撃の予兆を察知していたため、難なく横っ飛びで回避する。天に昇っていく蔦の動体から弾丸のごとき種子が複数放たれるも、それも攻撃範囲外を容易に予測して躱して見せた。


 そのまま本体へ距離を詰めていき、無数の牙が生えたラフレシアの元にたどり着き、容赦なく口元に短剣を突き刺した。


「ギュイェェェェッ!?!?」


 呪いが付与された短剣から連鎖して、本体のみならずあたり一帯に広がっていた細い蔦までもが塵となって消えていった。どうやらここらにあった植物はすべて、こいつから派生していた体の一部であったらしい。


 それからも文楽は、何度も何度も植物型モンスターと戦い続けた。


 襲われた数は、もう数えきれない。

 十や二十では収まらない、それこそ一時間は戦いながら新宿を歩き、十歩歩けば毎度攻撃されるほどの回数を戦った。ようやく新宿駅の西口付近にたどり着いた。

 そこまで来ると、体が重たく感じるほどの重圧的な空気を感じた。どんよりとした重さと同時に、全身の鳥肌が止まらない圧力を感じる。


 間違いない。

 ようやく骸騎王のテリトリーに入った。


 そのまま東に向かって大通りを歩いていくと、向かい側から馬の蹄の音が聞こえてきた。

 パカラッ、パカラッ――と優雅で、落ち着いた音が徐々に近づいてくる。


 目を凝らすと、向かい側から異様な姿をした――魔王【骸騎王】がやってきた。


 薄暗い空間に浮かび上がる、白銀の鎧をまとった魔王。

 鍛え抜かれた鎧を纏う胴は、屈強な四足の馬のような脚で支えられている。鎧の隙間から見える銀色の毛並みが神々しく、蹄は黄金に輝いていた。


 その姿を現すのにふさわしい言葉は、白銀のケンタウロスだろう。


 だが、その頭部だけは神々しさとはかけ離れた印象がある。

 黒く落ち込んだ眼孔に、奥まで透けて見える口元。頭部だけは明らかに骸骨だった。

 胴体はこれほどまでに神々しいのに、首から上だけは禍々しい骸骨をむき出しにしている、ツギハギを感じる不気味な魔王がそこにいる。


 文楽は手に冷や汗を感じながらも、一歩また一歩と骸騎王の元へと向かっていく。

 骸騎王もこちらに向かってきていたので、二人が邂逅するまでにそう時間は掛からなかった。


 その距離、約五メートル。

 先に骸騎王が停止すると、あわせて文楽も歩みを止めて上を見上げる。


 見上げるほどに大きい体格は、見ているだけで自分が矮小な存在に感じるほどだった。何よりも屈強で筋肉質な体が鎧越しにもわかるのが、否応にも生存本能を刺激してくる。


 これが第二の魔王――骸騎王スメラ


 騎士のように洗練された動作をするケンタウロス型の魔王だ。

 王蛇と比べるとそこまで体格は大きくはないが、洗練された殺しの技術は、紛れもなく魔王に相応しいものを持っている。

 骸騎王が手に持つ銀の三角錐型の槍を一振りすれば、道路は容易に削ってしまうだろう。風圧だけでビルのガラスは割れ、車は横転する威力を持つ。


 人智を超えた魔王と真正面から戦うなんて、馬鹿でもしないだろう。

 もちろん真正面から戦って勝てるとも思っていない。


 まずはその精神力や魔力を地道に、ねちねちと消耗させてもらおうか。


「おい、馬だから人参は好きだろ?」


 挑発するようにそう言うと、文楽は腐った人参をケンタウロスへと放り投げた。

 当たり前だが骸騎王はそれを受取ろうとしない。人参は虚しく骸騎王を通り過ぎると、地面にごろごろと転がった。


 だが、挑発は効果てきめんだったようだ。

 骸騎王は前足を高くあげると、一気に文楽との距離を詰めようとしてきた。


 スキル――白共感覚、発動。

 文楽は馬が急に横に曲がれないことを逆手に取り、真横に逃げていたのだ。


「さて、三日間鬼ごっこでもしようか」


 そう言って、文楽はにやりと笑った。


「安心しろ、三日ぐらい寝なくたって死なないから」


 口元で嫌らしく弧を描くと、文楽は左手を握りしめ親指を下に向けた。


「ゲームスタートだ。お前が俺を殺すか、俺が逃げ切るかの勝負だ」


 下等な命をベットした、命がけの鬼ごっこが幕を開ける。

 それはここから三日間休みなく続くのであった。


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