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下等勇者のはかりごと~泥啜る不断の努力とゲーム知識で、魔王を凌駕する~  作者: 笠鳴小雨


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第28話:魔王討伐2ー⑥/手駒の使い方

 鬼人のごとき表情で文楽は、佐々原の顔面を鷲掴んでいた。


 力加減などせずに、佐々原の後頭部をアスファルトに打ち付ける。

 めり込んだ衝撃で地面が割れた。佐々原は強すぎた衝撃に口元から泡を吹き出し、地面にぐったりと倒れ込んでいた。


 ここにいた全員が、驚きで言葉を失っていた。

 先ほどまで優勢だと思っていた自分たちのリーダーが、たったの一撃で戦闘不能になってしまったのだ。それも圧倒的な速度に、見せつけるような力技でねじ伏せられた。


(まさか一撃とはな。やはり白共共感は序盤ではほぼチートだな)


 文楽はゆっくりと手を離して、佐々原の状態を確認する。

 口元に手をかざすと微かな息遣いを感じる。さすが初期から高いステータス値を持つ特等勇者だけに、これしきの攻撃では死にはしなかったようだ。とはいえさっきまでの威勢はなく、阿呆な顔して失神していた。


(特等勇者と言えど、クエスト2程度で燻っている奴はこの程度の実力だろうな)


 今の文楽に一撃で失神させられる程度の実力では、確かに骸騎王を倒すことは難しいだろう。

 彼らが魔王討伐2で立ち往生している理由が判明し、文楽は少し胸を撫でおろしていた。相手が特等勇者ということで少し不安はあったが、どうやら徒労だったようだ。

 人と喧嘩なんてしたことないというのに、序盤からこんな展開だと先が思いやられる。


 文楽はゆっくりと立ち上がると、周りにいた勇者たちを睨みつける。


「回復スキル持ちはどこだ? 早くしないとこいつが死ぬぞ」


「……わ、私です!」


 一人の女性がおそるおそる手を上げ、佐々原の元へと駆け寄ってくる。

 膝を着いて即座に回復スキルを発動すると、徐々に佐々原の息が平常へと戻っていく。一分もすれば、佐々原が目を覚ました。


 焦ることなくゆったりと瞼を開いた佐々原は、冷静につぶやく。


「…………負けたのか、オレは」


 介抱しようとした女性の手をはねのけ、佐々原は自力で上半身を起き上がらせる。そのとき文楽へ少しだけ目線をやるが、その瞳は先ほどまでの血気盛んな闘志が消え失せたように見えた。


「傭兵時代にはそれなりに強いと自覚していたんだがな……戦ったこともないような奴に負かされるとは、夢にも思わなかった」


 そう愚痴を零しながら、佐々原は片膝を着いて苦しそうに起き上がる。

 打ちつけられた頭を痛そうに押さえつけながら、佐々原は文楽に向かって言った。


「安心しろ、約束は守る」


 無表情でそう伝えてくると、佐々原は背中を向けてきた。

 仲間たちに向き直ると、大きく息を吸い込んで声を聞かせる。


「オレたちは今後一切勇者狩りを行わない! こいつとの約束だ」


 佐々原の仲間たちは未だ現実を受け止められていないのか、皆が一様に動揺していた。

 

 特等勇者――この世界で最上級の位を持つ勇者が、どこの馬の骨とも知らないぽっと出の男に呆気なく負けたのだ。自分たちでは足元にも及ばなかった佐々原という偉大な男が負けを認めた。それが彼らにとっては、受け入れがたい現実だったのだ。


 佐々原の後ろ盾があって、彼らはこれほど成長できた。

 手段を厭わない姿勢のおかげで、彼らはここまで生き残ってこれたのだ。

 それを真っ向から否定され、自分たちの行く末がわからなくなっていた。


(あんなにどんちゃん騒いでいたのに、急に静かになったな)


 先ほどの威勢はどこへ行ったのか、そう文楽は問いたくなった。

 そんな文楽の考えなど考慮せず、佐々原はこちらに視線を向けてきた。


「これでいいな?」


「別にそんなことしなくても良かったけどな」


 文楽がそう答えた数秒後だった。

 彼ら佐々原の拠点の勇者全員へ、システムウィンドウが表示された。

 そこには『契約に従い、今後一切あなた方の拠点では特定の目的による勇者殺しを許可いたしません。(スキルや武器の入手目的のみに適用)これに従わない場合、即刻死刑を執行いたします』という命令文言が記載されていた。


 その内容を見て、全員が顔を青白く染めていく。

 そんな彼らの中で、先ほどまで死に体だった住吉が仲間の肩を借りて立ち上がる。


「さ、佐々原さん……」


「住吉、生きていたか」


「はい。彼……には殺意はなかったようです。軽症で済みました」


「そうか。無事でよかった」


「それよりも佐々原さん、これから私たちはどうやって生きていけばいいんですか? 勇者狩りを制限されたら、弱い私たちはすぐに死んでしまいます。過去に死んでいった仲間のように、命で弄ばれる側にまたなるんですよ? 佐々原さんは知らないかもしれないですが、佐々原さんが来るまでは私たちの拠点はボロボロだったんです。毎週のように死人が出ていました」


 佐々原へ投げかけられた問いは、彼らの切実な思いだったようだ。

 それがきっかけとなって、堰をきったように彼らの思いが佐々原へぶつけられる。


 彼らは最強であった佐々原を中心として薄氷の上に成り立った組織だったのだ。その薄氷が小さなトンカチ一つで崩壊してしまった今、組織は崩壊の兆しを見せていた。

 それを理解していたのか、佐々原の瞳から滾っていた炎が消えていた。らしくない弱気な表情になっていた。


 佐々原は先ほど言った、元傭兵である出自を。

 そんな彼にとっては、召喚と同時に押し付けられた期待と五十人規模の命を預かるリーダーという王座は、あまりに重すぎたのだ。彼は皆をまとめる王の器ではなかった。


 ただの、頑張っていただけの小さな男だったのだ。


(まるで道を誤った俺自身を見ているようだ)


 先日、文楽も見合わないリーダーという地位を押し付けられそうになった。

 薄氷の上の王座には座りたくなかったので、すぐに断った。そのおかげもあって実質彼らをまとめていたのは小神と洞木、そしてムードメーカーとして枯木や亜崎、三須原だ。そこに知識というエッセンスを少し落としていくのが、今の文楽の立ち位置だ。


 佐々原には知識というエッセンスがなかったので、がむしゃらに強くなる手段を選んだ。

 結果、薄氷の上の王座に座らされた、張りぼての王に君臨していたのだ。


 だからこう言ってやりたかった――そんな悲しい顔するなと。


 佐々原は申し訳なさそうに頭を下げようとしていた。

 だが文楽はそれを無理やり阻止していた。下げようとした首根っこを掴んで持ち上げる。お前は頭を下げる必要はないと、言葉ではなく行動で伝えたのだ。


 悪いのは、薄氷にしがみついていた弱い連中だ。

 文楽は眉間に皺を寄せながら、住吉の前で立ち止まっていた。そのまま短剣を突き出し、住吉の眼前で寸止めする。


「死にたくなきゃ自分たちで抗えよ。人に頼るな」


「そんなこと言ったって! 弱い私たちが生き抜くためには、手段など選んでいられない!」


 反抗的な目で、住吉は言ってきた。

 どの口が言っているんだと言いたくなったが、その言葉をぐっとこらえて文楽は冷静に伝える。


「ちなみにお前たちはこの魔王討伐が六回目らしいが、あと四回もやれば全員システムに殺されるぞ? 各魔王討伐の挑戦回数は十回までだ」


「え? そんなまさか……魔王討伐1ではそんな制約はなかった、嘘よ!」


「信じなくてもいいが、それで死んでも俺を恨むなよ。信じなかった自分を恨め」


 未だに文楽を睨みつけ、感情を爆発させようとする住吉。

 すでに武器を強く握りしめており、今にも襲い掛かってきそうな雰囲気だった。


 そんな住吉の手を、横から佐々原が抑え込む。


「やめろ。システムは絶対だ。さっきの内容を忘れたのか?」


「で、でも佐々原さん! こいつのせいで私たちは死ぬかもしれないんですよ!」


「オレがもっと強くなればいい。それだけだ」


 そういうや否や、佐々原は躊躇なく文楽へ頭を下げてきた。

 さっき頭を下げるなと伝えたばかりなのに、本当に頑固なやつだ。


「なんの真似だ?」


「オレに強くなる方法を教えてほしい。この通りだ」


「なぜ俺に言うんだ?」


「俺より強いから。それとさっきの戦いで気がついたことがある、おまえ……あんたはオレがどんな攻撃をするか最初からわかっていたような振舞いだった。だから最初からその身体能力向上系のスキルは使わずに、素の肉体能力で戦っていた」


「よく見てるな」


「元傭兵なものでな。それで気がついた、あんたはおそらくこの世界にかなり詳しい。そこであんた……いや、そろそろ名前を教えてくれないか? あんた呼ばわりは失礼だ」


「神々廻だ」


「…………なんと、そうか」


 名前を聞いて、佐々原は今まで以上に驚いた顔をしていた。

 神々廻という名前を聞いて心当たりがあったのだろう。


 佐々原は少しだがゲームの知識があった。

 そこから単純に推測できた、たぶんゲーム攻略者の【シシバ】を知っていたのだろう。


「名前を聞いて確信した。オレを弟子にしてほしい」


「断る」


「わかった。せめてオレたちが生き残る最低限の術を教えてくれ」


 ふむ、と文楽は考え込む。

 どうせやろうと思っていたことを、人海戦術でやれば数日は短縮できるだろうか。


 そう思って、文楽は彼らを使うことに決めた。


「いいだろう。だが、その前にやってもらいたいことがある。その成果によって多少は知識を分けてやろう」


「助かる。で、オレたちは何をすればいい?」


 悪魔のように口元で弧を描く文楽は、言った。


「最低でも千個の魔核を集めてこい。骸騎王を倒すのに必要な供物だ」


 こうして文楽は、五十人近くの手駒を手に入れたのであった。

 使える物は、徹底的に使ってやる。それによって魔王を倒せる確率が一ミリでもあがるならば、人殺しだって、阿呆だって使って勝ってみせる。それが文楽のスタンスだ。


 最期に笑っているのが自分であれば、それでいい。


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