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下等勇者のはかりごと~泥啜る不断の努力とゲーム知識で、魔王を凌駕する~  作者: 笠鳴小雨


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第24話:魔王討伐2ー②/人狩りの勇者

 笹塚の住宅街を、文楽は駆け抜けていく。

 魔王討伐1の報酬で手に入れた外套が風で靡いている。

 文楽が急いでいた理由は、なるべく早く魔核を大量に手に入れる必要があったからだった。


 少し先にモンスターの群れを発見した。数にしておよそ七体。

 特徴を確認すると、狼の形をした四足歩行型のD級モンスターだった。


 王蛇との戦闘中に起こった乱戦と比べれば、こんな群れなど苦ではない。

 そもそも今の文楽には、魔王討伐1よりも心に余裕があった。

 本来はこの段階で手に入れることのできないスキルを二つに、武器を一つ、それに信頼できる仲間を手に入れたことが要因だった。


 腰に携えていた短剣を取り出し、走りながら構える。


「ついでだ、検証させてもらおうか」


 神話級スキル――呪い之王(ダ・オヌ)を発動する。

 文楽の背中から勢いよく黒い呪いの煙幕が解き放たれ、あたり一帯を包み込んだ。思ったより勢いよくでたことに、驚き黒い煙幕を体内にひっこめる。そうして、呪いの煙は――短剣に纏わりつくように集約されていた。


 こうして魔王の呪いが付与された、殺傷能力全振りの短剣が誕生した。


 想像通りにスキルを操作できたことに、文楽は思わず口角を上げて喜んでいた。


「やればできるもんだな。原理はよくわからんが」


 王蛇は体内に大量の呪いを内包し、必要に応じて適度に出力し戦っていた。

 だからこそ、このスキルはコントロールできるものだと思っていた。


 だけど、ただ単に「使う」と思いながら無意識に発動してしまうと、体から無造作に呪いの煙が噴出されるじゃじゃ馬スキルでもあった。元上司に対して怒りで使用した際には、自分でも膨大な量が出て少し焦っ覚えがある。そこで初めて、スキルを操作するという感覚を覚えた。


 絶対に人に向けてはならないスキルだと、そのとき自覚した。


 人に向けられないならば、モンスター相手に試してみればいい。

 そう考えたので意識的に不要な呪いは体内に押し込めて、必要な量だけ必要な場所から出力すると、上手く短剣の刃先に纏ってくれたのだ。人がたくさんいる拠点でむやみやたらに試行錯誤するわけにもいかなかったので、一人になって、モンスターと邂逅するこのときを待っていた。

 これなら周りへの被害を最小限に、神話級スキルを使いこなす訓練ができる。


「シリュァァァァァァァッッ!」

「シリュェェァァァァァッッッ!」


 二体の個体が同時に気がついた。

 殺傷能力の高そうな犬歯に涎を貯めながら、鋭い獣の咆哮を上げてきた。

 それが合図となり七体が一斉に襲い掛かってくる。

 四足歩行の獣らしく、四肢を目一杯に回転させて徐々に加速してきた。


「画面で見るよりも速いな、お前ら」


 額に僅かな冷や汗を感じながら、文楽はスキルを発動する。


 スキル――白共感覚、発動。

 スキルで強化された身体能力を駆使して、一気にモンスターとの距離を詰める。


 視界から消えたと思った瞬間、文楽はモンスターたちの間に立っていた。

 ほんの一瞬の動揺の隙に、三体の首が同時に宙に舞っていた。


 回転しながら、手の届く範囲に短剣を薙ぎ払ったのだ。


「残り四体」


 血飛沫を浴びながら、文楽は次の個体の首元に呪いを纏った短剣を突き刺す。

 動脈から激しく血が飛び散り、致命傷を負うモンスター。最後に弱々しい鳴き声を上げながら、短剣を抜こうと暴れまわる。


 抜いてほしいなら抜いてやると言わんばかりに、文楽は短剣を引き抜いた。


 抜いた瞬間だった。

 傷口から一気に呪いが広がり、全身が壊死してモンスターは瞬く間に絶命したのであった。


(なるほど。呪いの出力を押さえても、D級レベルなら即死か)


 そんなことを考えながらも、文楽は動きを止めなかった。

 次のモンスターの元へと一足でたどり着くと、短剣を振りかぶる。


「シリュァッ!?!?」


「俺と出会ったことを不運だと思ってくれ」


 ほんの僅かな時間で仲間を四体も失ったモンスターの瞳は、恐怖で揺れ動いていた。

 それでも文楽は躊躇せず、足の付け根を短剣で切りつける。次はすぐに絶命することはなかった。切りつけた脚だけが壊死したように黒く濁り、足が不自由になる。


(攻撃が浅いと、壊死になるのか)


 一番知りたいことを知れたので、文楽は残った三体を呆気なく屠った。

 戦闘を終えた文楽はスキル――鹵獲解体を発動し、モンスターの体内から魔核を抽出していく。それらを事前に見繕っておいたバッグの中に詰め込み、再び街を駆け抜けていく。


 そうして一キロほど進んだ。


「キャーッ!?!?」


 女性の叫び声が聞こえてきた。


 その声を聞いても文楽は眉一つ動かすことはなかった。

 助けたいとかそんな殊勝な心掛けがあるわけではなく、単にそこにモンスターがいるとわかったから向かった――ただそれだけのことだった。


 声のした場所にたどり着いた。


 小さな公園内の端には、モンスターに襲われる寸前の絶体絶命な女性の姿があった。

 三体のリザードマン型モンスターはぞれぞれ手に三又の槍を握っており、その攻撃によって女性は足を怪我している様子だった。足を引き摺りながら、地べたを這いつくばって必死に逃げようと足掻いている。


 運がいいのか、悪いのかと考える文楽。

 運が悪いのはモンスターに襲われて今にも死にそうなこと、運がいいのは文楽に見つかったこと。


 咄嗟に、文楽は短剣を投擲して今にも攻撃しようとしていた個体を討伐した。

 さて他の個体はどうするか――そう考えていた、その時だった。


瑠璃子るりこぉぉぉぉぉぉッ!」


 上背のある男性が勢いよく現れると、モンスターに体当たりをしたのだ。

 無謀にも思えた行動だったが、三体のモンスターはボーリングのピンのように一気に押し倒され、方々へと吹き飛ばされていく。


(ほお……なかなか珍しいスキルだな)


 男性が使ったスキルは肉塊猛進。

 取得難易度が才能に左右されるという点は厄介だが、手に入れれば序盤だけならばほぼ無双できるだろう。なにせ、突進時の攻撃無効状態がかなり優秀だ。とはいえ、モーションが大きすぎるゆえに中盤以降では諸刃の剣すぎて、文楽にとっては不要なスキルの一つだった。


「か、和弥かずやくん! 助けに来てくれたの!?」


「もちろんだ。仲間を見捨てるわけがないだろう」


 背の高い男が笑顔でそう答えると、遅れて二人の勇者たちが合流した。

 背は低いが筋肉質な男と、大学生のようなチャラさが残る男だった。そのチャラい男が女性の怪我に手をかざすと、みるみると怪我が治っていく。なかなかバランスの良さそうなチームだ。


 これ以上関わる必要はないだろう。

 そう考えて彼らを見届けると、文楽は静かに踵を返す。


「お兄さん、ちょっと待ってください!」


 そんな文楽を発見したのか、大きな声で誰かが引き留めてきた。

 あまりの声を大きさに、文楽も無視するわけにはいかなかった。聞こえないふりでもしようと思ったが、いかんせん声が大きすぎた。聞こえない体は少し無理がある。


「はあ。なんだ」


 明らかにため息をつきながら、振り返る。

 そこにはなぜか臨戦態勢を取る、彼らの姿があった。


 別に周囲にモンスターがいるとか、そういう理由ではない。

 明らかに彼らは、文楽に対して刃を向けていた。


 先ほどまで絶体絶命だった女性が、殺意むき出しの笑みを浮かべる。



「運が悪いと思いな、救世主気取りのお兄さん」



 気がついたときには、公園の周囲からぞろぞろと他の勇者たちが現れてくる。

 彼らは文楽を囲い、逃げ道を完全に閉ざしていた。


 一連の行動を見て、文楽は深いため息をついていた。


「はぁ……なんの冗談だ」


「冗談? ははっ、これはゲームを生き抜くための知恵ですよ」


「やめておけ、後悔するぞ」


 その言葉を聞いて、女性はさらに獰猛な笑みを浮かべる。


「後悔なんてしませんよ! だって、これはお兄さんのような正義感のある人を釣るただのエサなんですから! そして……大人しく私たちに殺されてください、お願いします♡」


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