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下等勇者のはかりごと~泥啜る不断の努力とゲーム知識で、魔王を凌駕する~  作者: 笠鳴小雨


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第23話:魔王討伐2ー①/都会フィールド


 目を開けると、そこは人工物で溢れかえっていた。

 車一つ通らない高速道路、ETCゲートの紫色の明かり、高く聳える高層ビルに、巨大な意味不明な看板、そして高速道路を囲う防壁。


 明らかに魔王討伐1とは様相が違った。


 目の前の情報を少しでもインプットしようと、皆が辺りを見渡している。


「ここは…………東京?」


 三須原が瞠って驚いていた。

 その言葉を聞いて何かを察した洞木は、遠くにある道路標識を指さす。


「あそこの標識に三キロ先に初台と書いてあるな。つまり――ここは新宿の近くだ」


 その言葉に皆がどよめく。

 この中には東京の地理感もなければ、都心の高速道路に乗ったことのない人たちも多くいた。彼らのためにわかりやすく、洞木は新宿という言葉に言い換えたのだ。


 とはいえ、文楽だけは違った。

 この地点からのスタートは初めてだったが、都心マップは割とHero's Ringの王道マップだったのだ。だからこそ、地理感が他のフィールドよりも多かった。

 それに気がついた瞬間、文楽は行動に移す。


 魔王が判明し、マップが判明すれば、やることは決まっている。


骸騎王スメラに新宿マップか。小神、あとは計画通りに頼んだぞ」


「はい! 神々廻先輩こそ気をつけて」


「ああ、行ってくる」


 真剣な眼差しでそう答えると、文楽はスキルを発動する。

 身体を極限まで向上させる――白共感覚。それを駆使して、高速道路を囲う五メートルを超えの防壁をひとっ飛びに超えて、都心の街へと消えていくのであった。


 それを見送った小神は、ふぅっと息を吐いて気持ちを切り替える。

 懐疑派閥の面々に向き直って話し始める。


「みなさんは今まで通り、この世界から帰る方法を探してください。魔王との戦いは私たちが受け持ちます」


 そう言うと、今日まで訓練を続けてきた面々が自信満々な表情を浮かべた。

 元気な三須原は「任せてくださいよ!」と、はつらつにサムズアップをしてみせた。


 彼らの表情を見て、これは取引ではなく、善意だと気がついた。

 宇京は一歩前に出ると、躊躇なく軽く頭を下げる。


「ありがとうございます。そしてお願いします」


「はい、頑張ります! 私たちも早く家に帰りたいですからね。何かわかったらぜひ教えてくださいね」


「もちろんです。皆さんも怪我のないように」


「ありがとうございます。ただ、歌舞伎町の方には絶対に近づかないでください」


「……それはなぜですか?」


「神々廻先輩の推測ですが。フィールドが都心に設定されていて、なおかつ魔王が骸騎王スメラであったならば、十中八九その都市で一番栄えている場所に魔王はいるそうです。なので、新宿が近いことを考えて歌舞伎町だと私が判断しました」


「なるほど……情報感謝いたします」


 そう短くお互いの目的をすり合わせると、二人は力強く握手を交わした。

 これ以上の言葉は不要だった。

 ここから先はそれぞれの役割を果たすまでだ。


 そうして二つの派閥はそれぞれ別の方向へ歩みを進めていく。


 懐疑派閥のメンバーは、都心とは逆の八王子方面へ、警戒しながら歩いていく。

 順応派閥のメンバーは、新宿方面へと走り始めた。


 その道中で、三須原みすはらが隣にいた仲のいい亜崎あざきへと話しかける。


「にしても……あらためて凄いよな。神々廻さんは、なんでこの壁を軽々乗り越えられるんだ? あれ見たとき、まじでちびりそうになったんだけど。あれもスキルなのかな」


「まあ、そうだろうな。スキルってのはつくづくよくわからんよ」


 そう言って、亜崎は手に持っていた新品の木製長弓を見つめる。


 亜崎の適性は【弓兵】というものだった。

 人生で一度も弓矢なんて握ったことがないのに、自分の適性が弓にあると自覚した瞬間に、なぜか弓矢の使い方がわかるようになったのだ。そこから毎日弓矢を扱い、走り続ける訓練を延々と繰り返してきた。


 適性やスキルってのは、本当に理論で説明できない現象だ――と亜崎は思う。

 科学や数学では説明できない、人類の観測範疇を超えた謎の力が自分たちには働いている。


「わかんないけど、わかることもあるじゃん! 確実に俺たちは強くなってるってこと。てことで、あそこの敵よろしく!」


 亜崎の肩に、三須原は元気よく手を置いていた。

 もう片方の手は、高速道路の防壁のてっぺんに止まっている鳥型のモンスターを指さしていた。


 体はコンドルのような見た目だが、顔は青い鬼のような歪な造形をしている。

 何よりも特徴的なのは、体中に無数に埋め込まれた青い瞳の数々だった。


 その瞳の一つが、亜崎たちを捉えた。


「ピエルィィィィィッッッ!!」


 甲高い声を響かせると、モンスターは飛び上がった。

 そのまま勢いよく高度を上げると、空中で体を翻し、亜崎たちに迫ってくる。


 その光景を見て、亜崎は僅かに額に汗を滲ませた。


「初戦闘なんだからあんまり期待すんな」


「訓練のときは百発百中だったじゃん」


「それは訓練だろ。そもそもなんで自分がこんなに弓上手いのかもよくわかってないんだ」


 そう言いつつも、亜崎は冷静に地面に片膝を着いて弓を準備しはじめた。

 他の皆もこの距離であれば、亜崎が適任だとわかっていたので静観している。


 腰に携えた空の矢筒に手を伸ばすと、小さく呟く。


「スキル――魔矢召喚Lv.1」


 発動の過程を終えると、青くオーラを纏った木矢が矢筒に一本装填された。

 それを手際よく取り出すと、矢を番え、力いっぱい弦を引く。


「青矢じゃん! アタリ!」


「三須原うるさい。気が散るから」


 緊張を解くために息を吐く。

 亜崎の瞳は、静かに青い炎を燃やしていた。

 気がついたときには精神が静まり返り、冷や汗も気にならなくなった。


 そうして――矢を解き放った。


 青い矢は、綺麗な放物線を描いてモンスターへと直撃した。

 矢は容易にモンスターの体を貫通し、遠目でもわかるほどの風穴を開けていた。着弾点からモンスターは真っ逆さまに落ちていき、道路に亡骸が打ちつけられたのであった。


 絶命を確認すると、亜崎はすぐに弓矢を仕舞う。


「皆さんお待たせしました。急ぎましょう」


 亜崎は前々から冷静だったが、初戦でさえ冷静なことには皆が驚いていた。


 今、彼は一つの命を自分の手で奪ったのだ。

 若い日本人にとっては馴染みのない命のやり取りだ。

 それなのに、亜崎は終始淡々と作業をしているだけのようにも見えた。

 亜崎の冷静さと芯の強さ、何よりも環境適応能力の高さが伺えた瞬間だった。


「亜崎、よくやった」

「さすがですね! 私たちの遠距離番長!」


 洞木と小神が、ほぼ同時に称賛の声を上げた。


「いえ、これも全部神々廻さんのおかげです」


「そうだな。あいつのためにも、私たちの役割を進めよう」


 最後に洞木がそう締めると、九人の戦闘部隊は再び走り始めた。


 亜崎や洞木にとっては、クラッツォを除けば今日がほぼ初めての対モンスター戦だ。

 だからこそ緊張していた者も多かったが、訓練通りに矢を的中させた亜崎を見て、皆が気持ちを引き締めた。これからは命のやり取りが当たり前となる数日間を過ごすことになる。この数日間で自分を順応させよう、と。


 走りながら、亜崎は言った。


「改めて気がつきました。拠点でたったの二日半しか過ごしていない中で、あんなモンスターを俺には倒せなかったと思います。小神さん、枯木さん、迅くん、そして神々廻さんってやっぱりすごいですね。普通に尊敬しました」


 手放しの称賛に、三人は少し照れくさそうな表情をしていた。


 彼ら――二陣の勇者たちは、拠点で二週間ほどを過ごしてきた。

 ざっくりと文楽たちの五倍以上、拠点で長く過ごしてきたことになる。

 それだけの準備期間があって、ようやくこの実力――逆に考えれば二日半たった頃の亜崎は弓どころかスキル一つ使えず、武器も持っていなかった。


 一陣の彼らは、そんな状況を覆してここに立っているのだ。

 その凄さを亜崎は今さらながら実感していた。

 手に残る生き物を殺した感触を握りしめて。


「聞いてくれ」


 新宿に走って向かいながら、洞木はちらりと後ろを走る面々の顔を見る。

 彼らは全員毎日走り続けたことによって、ステータス値が上昇し、この程度の走り込みでへばるような連中はここにはいなかった。

 たったの二週間で、人はこうも変われるものか――と洞木は思う。


「あらためて作戦を確認するぞ」


 先頭を走りながら、洞木は声を張り上げる。


「はい!」

「うっす!」

「お願いします!」


「私たちの役割は、早期に他拠点の人たちと合流することだ。文楽が魔王を倒す材料を手に入れる前に、他の拠点の奴らが魔王に挑まないよう阻止する。いいな?」


「はいっす!」


「必ず成功させよう」


 こうして文楽を除く順応派閥の九名は、文楽とは別の道へと進んでいくのであった。

 新宿にいち早く着くために全力で走りながら、モンスターと戦い始めた。



 ◆



 笹塚の繁華街。

 そこには十人ほどの人影があった。


「さ、佐々原さん! コーラ見つけました!」


「おお~! これこれ、これがずっと飲みたかったんだよなぁ」


「はい! なんとか飲めそうなものを見つけました!」


「ほう……………………で、その一本だけか?」


 最初は笑顔だった佐々原。

 だがその男の顔は次第に凶悪なものへと変貌していく。


「す、すみません! すぐに他のコンビニを探してきます!」


「ああ……頼んだよお~奥名くん。コーラがなきゃ、オレは魔王と戦えないんだよぉ。それに東京なんて怖くて怖くて、田舎者のオレには歩けないよ」


 ウソ泣きの演技をしたあとに、横柄なその男は奥名という高校生のお尻を蹴り上げた。

 最初は痛そうにお尻を押さえるも、佐々原の鬼の形相を見て踵を返す。


「い、今すぐに! 僕たちには佐々原さんがいないといけませんから」


「ああ、頼んだよ。奥名く~ん」


 奥名を見送った佐々原は、周囲にあるまる面々へと顔を向ける。


「にしても早々に二拠点合同とはついてるなぁ」


「ですねぇ、佐々原くん」


「ほんと儲け儲け。よし、お前ら魔王討伐の前に――経験値狩りと行こうじゃないか」


「はい!」

「よっしゃあ~、いっちょやりますか」

「ふ~」


 そうして、彼らは進み始めた。

 魔王のいる方角ではなく、別の方角へと。

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