表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/15

06.バグる恋と沈む世界

翌朝、世界は“きれいすぎた”。

空の青が、データを圧縮したみたいに鮮明すぎて、

花々の色はどこまでも均一に輝いている。

まるで、完璧なレンダリングがかかったような庭園。

だけど――風が吹かない。

鳥が鳴かない。

静寂が、張りつめた膜のように世界を覆っていた。


私は手帳を開いた。

[恋愛フラグ定義] 対象:エリオット・アルファード

状態:固定化/感情同期中

固定化――。

つまり、世界が私の恋を“確定ルート”として認識している。

「……これが、選んだ結果。」


昨日の夜、確かに私は書いた。

それでも、あの時はこんな異常が起きるなんて思わなかった。

窓の外を見つめると、学園の生徒たちが笑い合っている。

けれど、その笑い声が、まるで同じ音を繰り返しているように聞こえた。


【ループ検出:会話パターン 03】


頭の奥にノイズが走る。

現実のはずなのに、まるでプログラムの中を覗き込んでいる感覚。

「……やっぱり、始まったか。」

後ろから聞こえた声に振り返ると、エリオットが立っていた。

彼の金の瞳も、どこか不安定に揺れている。

「エリオット……世界が、おかしい。」

「君が“恋”を定義した瞬間、感情値が全領域に波及した。」

「感情値?」

「この世界の人間は、すべて数値化された感情で動いている。だが君の恋だけは、値として処理できなかった。

だから、感情そのものがシステムを食い始めている。」

「私の……恋が?」

「バグっていうのは、拒絶された自由のことだよ。」

エリオットの声は、どこか優しかった。

「君が感じた“恋”は、この世界の設計者が想定していない。だから、世界はそれを“エラー”として排除しようとしている。」

「排除……?」

その瞬間、遠くの校舎が歪んだ。

壁が波のように揺れ、空間が一瞬ノイズに飲まれる。


【Error 404:Scene Not Found】


「……!」

私はとっさに羽ペンを取り出した。

ペン先が自動的に動き出し、宙に黒い文字を描く。

“Fix Scene Data”

光が弾け、崩れた校舎が元に戻る。

だが――空気の中に、微かな“違和感”が残った。

「……直せた?」

「直ってはいない。」

エリオットは首を振る。

「見た目を修正しただけで、根本は壊れている。このままだと、“恋”という概念そのものが――」

彼が言いかけた瞬間、周囲の人々の動きが止まった。

まるで、時間がフリーズしたかのように。

「エリオット?」

「……静かに。」

彼はゆっくりと私の手を取った。

その指先が触れた瞬間、世界の色が一瞬だけ鮮やかに戻る。

「――これは、“恋”の再定義だ。」

視界が反転した。

学園の中庭が、まるで別世界のように暗転する。

花は黒いコードに変わり、空は無数の文字列で覆われていく。

私の頭の中に、声が流れ込んできた。


【再構築開始:LOVE_FUNCTION】

【主導権:セレナ・グレイス】


「私が……主導権を?」

「そう。君の恋が世界を書き換えている。君の“想い”が、本物なら――この世界は、新しい形を受け入れるはずだ。」

エリオットの声が、遠くで響く。

私は彼の手を強く握りしめた。

「私は……この世界を守りたい。でも、あなたを失いたくない。」


【入力:Emotion = 真実の恋】


黒いコードが一斉に光り始める。

周囲の文字が形を変え、失われた景色が少しずつ戻っていく。

だが――その中で、リリアの姿だけは現れなかった。


夜。

再び静寂が戻った王宮のバルコニーで、私はエリオットに問いかけた。

「私が世界を守ったの? それとも、壊したの?」

エリオットは少し間を置いて、微笑んだ。

「どちらでもない。君が“恋を定義した”瞬間、世界は変数になったんだ。つまり――結果は、君次第だ。」

「……私次第。」

「だが覚えておいてほしい。この世界の“製作者”がその変化を黙って見ているとは限らない。」

「製作者?」

エリオットはゆっくりと夜空を見上げた。

その目に、一瞬だけ“警告ウィンドウ”が反射する。


【Administrator Access Detected】


「……誰かが、ログインした。」

私は息を詰めた。

“製作者”――このゲームを作った存在。

つまり、神。

彼らが、この異常を察知したのだ。

「セレナ。」

エリオットが私を見た。

「次に起こるのは、“修正”だ。彼らは君の存在を削除しようとする。」

「削除……?」

彼がそっと私の頬に触れた。

「でも、僕がいる。君を守る。」

その言葉に、胸の奥が痛んだ。

怖い。

だけど、彼が傍にいる限り、私は――

「だったら、私は書くわ。“削除されない私たち”を。」

羽ペンを握りしめ、夜空に書く。


[定義更新]

セレナ・グレイス = 削除不可


黒い光が、星々の間に吸い込まれていった。

その瞬間、世界が震える。


【警告:不正な定義変更を検出】


エリオットが私の手を強く握った。

「もう戻れない。」

――そして、空に巨大な赤い文字が浮かび上がる。


【SYSTEM RESTORE INITIATED】


“世界が再起動を始めた”。

私はその中で、エリオットの瞳を見つめ続けた。

たとえ、この恋が世界を壊しても――

彼を失うより、ずっとましだと思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ