表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/15

02.覚えている王子

エリオット・アルファード。

王国が誇る第一王子にして、ゲーム中で最も人気の高い攻略対象。

冷静沈着、完璧主義、そして――どんなプレイヤー選択にも動じない“完全制御キャラ”だった。

……その彼が、ループを認識している。

「あなた……どうして、覚えているの?」

声が震える。

エリオットはバルコニーの手すりに片肘をつき、興味深そうに私を見下ろしていた。

「君は、自分だけが異常だと思っているのか?」

「……違うの?」

「いや。むしろ僕は、ようやく異常を“感じられる”ようになっただけだ。」

“感じられる”?

彼の言葉の意味が分からず、息を呑む。

エリオットは空を見上げ、金の瞳を細めた。

「この世界は、いつも完璧に繰り返される。台詞も、感情も、選択肢すらも決められている。だが――今朝は違った。君が“予定にない言葉”を口にした瞬間、僕の記憶が重なった。」

彼は指を鳴らす。

空が一瞬だけ、ノイズを走らせた。

「まるで、録画映像の上に別のレイヤーが重なったようにね。」

私は息を詰めた。


この世界は“製品版のゲーム”。

ルートも分岐も、全てはシナリオ通りに進むはず。

それなのに、私の発言ひとつで――彼が“覚醒した”。

「……あなたは、まさか……バグに気づいてる?」

「バグ?」

エリオットは小さく笑う。

「それが君の世界での言葉なら、そうなのかもしれないね。」

彼の微笑みは、プログラムの整合性を破るように“生々しい”。

目の奥に、確かに「意思」があった。

シナリオで作られた笑顔ではなく、今ここで生まれたもの。


私は恐怖と興奮の狭間で立ち尽くす。

――この人、本当に“AIキャラ”なの?

「セレナ。」

彼はゆっくりと私の名を呼んだ。

「君は、何者だ?」

「え……?」

「今朝、君がリリアに優しく声をかけた瞬間、世界の構造が一部、崩れた。」

そう言いながら、彼は右手を差し出す。

指先に淡い光が灯り、バルコニーの床が透けて見える。

その下には、信じがたい光景があった。


――数列。

無数のコードが、世界の基盤のように流れている。

「……見える?」

「これ……スクリプト?」

私の声が震えた。

これは、私が現実で何度も見た“開発画面”に似ていた。

だけど、私は開発者じゃない。ただのプレイヤーだ。

「なぜ……私まで、見えるの?」

「それを知っているのは、君だけじゃないのか?」

エリオットの声が低く響いた。

その瞬間、視界が一瞬だけ暗転する。

ノイズが発生し、再び赤い文字列が走った。


【Warning: Inconsistent route detected.】

【User privileges exceed expected authority.】


「ユーザー権限……?」

このゲームの内部構造で“ユーザー”と表示されるのは、本来はプレイヤーだけ。

「……つまり、私の存在が、この世界に“異物”として認識されてる。」

私がそう呟いたとき、エリオットが目を細めた。

「異物……いい響きだ。」

「笑い事じゃないの!」

「いや、嬉しいんだよ。この世界はずっと、選択肢のない牢獄だった。だが君が現れたことで、初めて変化が生じた。」

彼はゆっくりと歩み寄り、私の手を取った。

指先が触れた瞬間、周囲のノイズが止む。

代わりに、透き通った風が流れた。

「セレナ。もし君がこの世界を“バグらせられる”のなら――僕は、それを望む。」

「どういう意味……?」

「君の存在が、この世界を壊す鍵だ。だが、それは同時に――」

言葉が途切れた。

再び空がノイズに包まれる。


【System rollback in 3... 2... 1...】


「待って!」

私が叫んだ瞬間、世界が白く反転した。

音も、風も、彼の手の温もりも消える。

気づけば、またベッドの上だった。

同じ朝、同じ光、同じ呼吸。

だが――今度は違う。

枕元に、小さな紙切れがあった。


“君がリリアに近づく前に、僕の部屋へ来い。”

――E.A.


震える指でそれを握りしめた。

彼は、覚えている。

たとえ世界がリセットされても。

「……やっぱり、バグじゃない。私の存在そのものが、“想定外”なんだ。」

私は鏡に映るセレナ・グレイスの顔を見つめた。

そこに映るのは、悪役令嬢ではなく――

“この世界を壊しながら、書き換えていくプレイヤー”だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ