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01.ループする開幕

まぶしい光が目を刺した。

瞼を開けると、そこは見知らぬ――けれど、どこか懐かしい部屋だった。

高い天井、金糸のカーテン、淡い香水の香り。

そして、鏡台の前に座る自分を見て、私は凍りついた。

「……うそ。セレナ・グレイス?」


金髪に碧い瞳。完璧なドレス姿。

それは、乙女ゲーム《セレスティアル・メモリー》に登場する悪役令嬢だ。

つい昨晩までプレイしていたキャラの名前。

――よりによって、破滅確定の悪役。

「なんで私がゲームの中に……?」

現実での記憶は断片的だった。


深夜、最終ルートの“バッドエンド回避条件”を検証していた。

全実績を解除したあと、ある選択肢でボタンを押した瞬間――

画面がフリーズした。

真っ白になって、音も消えて……気づけば、ここにいた。


息を整えて部屋を見回す。

どう見ても《セレスティアル・メモリー》の世界だ。

セーブロードもチートも使えない現実のような感触。

私は唇を噛んだ。

「でも……ここがゲームの中なら、シナリオは全部知ってる。」

セレナ・グレイスは、王子に恋するヒロインを妬み、陰謀を企て、最後は断罪される。

プレイヤーの選択では回避不能なバッドエンド。

けれど、実際に“動く”ことができるなら、破滅なんて避けられるかもしれない。

「よし……今日は優しくしてみよう。」


朝の庭園。

噴水のそばで、バラを抱える少女がいた。

彼女はこのゲームの主人公――リリア・フィーネ。

ここでセレナがぶつかり、花を踏みつけ、悪役フラグが立つ。

でも、私は知っている。

“踏まなければいい”。

「ごきげんよう、リリアさん。」

私は微笑んでみせた。

「その花、とても綺麗ね。あなたに似合っているわ。」

リリアは目を丸くし、頬を染めた。

「セレナ様が……そんな……ありがとうございます!」

やった。

これで初期フラグは回避できた。

シナリオを知っている私が動けば、この世界だって変わる。


そう思った――ほんの数秒後。

世界が揺れた。

「……なに、これ……?」

空がザザッとノイズを走らせ、リリアの輪郭が崩れていく。

目の前の景色が歪み、視界の端に赤い文字列が流れた。


【Error: Undefined branch flag detected.】

【Reverting to last stable state...】


「エラー? ちょっと、嘘でしょ……?」

風が止まり、噴水が固まり、音が消える。

リリアの笑顔がノイズとともに溶けた。

そして、暗転。

次の瞬間、私は再びベッドの上にいた。

「っ……!」

見慣れた天井、同じ朝の光。

まったく同じ瞬間に、戻っている。

「リセット……された?」

頭が真っ白になる。

私の知る限り、《セレスティアル・メモリー》にループ要素は存在しない。

これは完成版の完全な一本道シナリオ。

“選択肢を外れることすらできない”はずの世界。

なのに、私が行動を変えた途端、ゲームはエラーを起こして――時間を巻き戻した。

「……製品版で、こんなバグ……聞いたことない。」

私は額を押さえた。

おかしい。

おかしすぎる。

この世界が完成されたはずの“製品”なら、想定外の行動で壊れるはずがない。

私が、何か“開発者も予期しなかった行動”をしたというの?


コンコン。

ノックの音がして、執事が顔を出した。

「セレナ様、殿下がお呼びです。」

その名を聞いた瞬間、背筋が凍った。

エリオット・アルファード。

このゲームのメイン攻略対象であり、王国の第一王子。

セレナを最終的に断罪する男。

私は慎重にドレスを整え、彼のもとへ向かった。


王宮のバルコニー。

光を受けて、エリオットの金の瞳がきらめく。

ゲームで何度も見た美しくも冷たい笑顔。

「セレナ・グレイス。今朝のご機嫌はいかがかな?」

「ええ、とても……穏やかですわ。」

慎重に言葉を選ぶ。

これ以上、バグは起こさせない。

けれど、彼は不思議そうに微笑んだ。

「穏やか……か。だが、君のその返答、二回目だね。」

「……え?」

「先ほどとまったく同じ言葉を同じ場所で聞いた。まるで、時間が巻き戻ったみたいに。」

心臓が跳ねた。

彼――覚えている?

「どうして、あなたが……」

エリオットは一歩近づき、私の瞳を覗き込む。

「教えてあげよう。この世界に“再生ボタン”を押せるのは、君だけじゃない。」

息が止まる。

彼の金の瞳が、一瞬だけノイズを走らせた。

まるで、プログラムの亀裂のように。

「ようこそ、セレナ。――完璧なはずの世界へ、壊しに来たプレイヤー。」

風が吹いた。

バルコニーの花弁が、逆再生するように宙に戻っていく。

私は、理解した。

世界がバグっている。

でも、それを“見ている”のは、私だけじゃない。

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