プロローグ 新たなる世界より
人類はいつから、自分達がこの惑星の支配者であると勘違いしていたのだろう。
人類はいつから、この惑星では何をしても許されると勘違いしていたのだろう。
そしてその行為が、これから先も許されると……なぜ勘違いしていたのだろう。
人類の業によって。
この惑星が蹂躙されて。
その果てに。
神話の彼方より…………“かの者”が現れるまで。
※
西暦二〇XX年。
世界は混沌の時代を迎えていた。
国家間の緊張は高まり。
全国家が疑心暗鬼となり。
ついに戦争が始まったのだ。
世界を終わらせかねない大戦が。
様々な兵器――温存していた兵器のみならず、新たに開発された兵器をも大戦の中で使用され、この惑星で生きる者のみならず、惑星そのものの命も脅かされた。
だがしかし、天はこの惑星を見捨てていなかった。
一人の救世主――多くの仲間を引き連れた存在が人類の前に現れた。
ただしそれは、人類のためではない。
人類が散々蹂躙してきたこの惑星のために現れたのだ。
そして、再び虐殺は始まった。
救世主の手による選別ともとれる大虐殺が。
※
一人の破壊者の登場により世界が変わって、数年が過ぎた。
今までこの惑星の支配者であると信じて疑わなかった人類は、破壊者が率いる大軍勢との大戦で敗北を喫し、今やこの惑星の片隅で細々と……人類に代わってこの惑星を支配しているヤツらに見つからないように生きている。
見つかれば、即座に殺されるから。
ヤツらからすれば、俺達こそが害虫だから。
でも、それで諦める俺達じゃない。
この惑星を、再び俺達の手に取り戻すため。
遠い過去に失われたハズの技術を復活させ。
さらには人ならざる者と契約を交わしたりもした。
でも、いまだに俺達はこの惑星を取り戻せていない。
ヤツらの力は強いから。
何人もの戦士が殺されたから。
でもだからって…………諦めるワケにはいかない。
「クソッ! あんなにいやがる!」
「しっ。まだ声を出すな……陽動するにもまだその時じゃない」
この惑星を支配しているヤツらとの戦いの中。
俺と同じく、本作戦における陽動の役割を与えられた隊員の一人を注意する。
ヤツらは感覚器官の塊のような存在なんだ。
下手に声を出したら陽動作戦が台なしになる。
「す、すみません」
小声でその隊員が謝罪する。
だが別の隊員が「ですが」と小声で質問してきた。
「こんな作戦、意味あるんですか? 彼女達だってもう――」
「バカ野郎ッ」
そう小声で怒鳴るなり、俺は質問者を小突く。
それだけその質問は、この場においては不適切だった。
というか俺が言わなかったら、別の誰かが質問者を殴ってたかもしれない。
なぜならば、本作戦の参加者のほとんどが未来のために参加しているのだから。
そして先ほどの質問は。
そんな俺達の否定に他ならない。
「彼女達は彼女達で命を張ってるというのに……お前みたいな腰抜けはとっとt」
次……の瞬、間。
俺の、意識が……薄、れ始め……た……。
いったい、何……が起こっ……たのか……それは、分か……らない。
た、だ……視界の半……分が、見えなく……なって…………隊員た、ちが、恐怖を……覚、えてい…………たのだ……k……h…………。
※
後方から叫び声と銃声が聞こえてきた。
本命である私達をより前に進めるための陽動部隊の出してる音だ。
予定より早い。
思ったよりも早く見つかってしまったらしい。
そしてその事実に思い至った瞬間。
私と、私の相棒である少女は同時に叫ぶ。
「「カジュー、ヒャクパーセントッッッッ!!!!」」
それは、変身のトリガーとなる呪文。
戦時中に開発された専用の装置も使わなければ、昔のように使えなくなった変身デバイス――果物型変身装置の目覚めのキーワード。
次の瞬間。
果物型変身装置から溢れる力が、それとは別の変身装置を介して、私達を一瞬で超人戦士に変身させる。
私は赤い東洋風の騎士服に。
私の相棒は青い西洋風の騎士服に。
それと同時に、私達は高速で飛んだ。
超人戦士――世界が変わる前はそれなりに喋れていた私の果物型変身装置いわくフルーツプリンセス……略してフルプリという名称の魔法少女になった私達は、常人の数倍の身体能力や飛行能力などを得られる。
そしてその能力を、今回は限界まで引き出す。
敵にすでに、見つかってしまっただろうから。
出し惜しみなんてしたら、私達はすぐに殺されるだろうから。
戦い続けなければ生き残れないのだから。
騒ぎを聞きつけ、敵の戦闘員が立ちはだかる。
幸いな事に下級戦闘員――人型にすらなれていないが、それでも二足歩行は可能となった戦闘員だ。
私達は即座に攻撃した。
それぞれの専用武器で。
私の斬馬刀が。
相棒の騎槍が。
それぞれ敵を屠る。
初動すら許さない。
許したらさらに厄介な事になる。
だからこそ不意打ちで屠る。
敵が立てているらしい計画を止めるためにも速攻で。
※
私達は、ヤツらの計画を止めるために動いていた。
いったいどういう計画なのかは、よく分からないけれど。
偵察部隊が仲間の大半の死と引き換えに持ち帰った情報によれば、どうやら人類を滅ぼす寸前まで追い詰めた敵のボスが、支配地域を拡大するために、何かをするつもりらしい。
そしてそれを、私と、私の相棒は見過ごせるワケがなく。
数人の、普通の人間の戦闘員も引き連れて。
ヤツらの計画の拠点となる場所へと攻め込んだ。
ヤツらとの戦争で廃墟ばかりとなった場所の中心。
それが私達の目指す場所――ヤツらの計画の拠点だ。
とにかくそれは、潰さなくてはいけない。
潰せなければ、待っているのはおそらくさらなる絶望。
今度こそ、人類が殲滅させられるかもしれない――そんな未来だ。
それに、人類の命運以前に。
私と、私の相棒にはあとがない。
少なくとも、この日本では。
「うあああああああッッッッ!!!! 死ねェ!!!!」
だから私達は、死ぬ気で立ち向かう。
私達がここにいる……その理由のためにも。
途中、何度も戦闘員が襲いかかってきた。
おかげで私も相棒もボロボロ……だけど、なんとか目的の場所――計画を進めている存在がいる場所に辿り着いて、
「ッ!? ま、さか……」
「お、お前は……オマエはぁッッッッ!!!!」
まさかの存在と、遭遇した。
※
中東の某国。
吹雪のせいで前が見えないそこを進む命知らずな一団があった。
構成員はほとんどが女性だった。
なにせ、この惑星を現在支配しているヤツらと戦えるのは主に女性なのだから。
しかし、男手がなければできない事もある。
なのでその一団には、ほんの数人の男性もまざっている。
彼女達の任務は、この国にて目撃された敵勢力の偵察だった。
確かに現在、人類は絶滅寸前まで追い詰められてはいるものの。
だからといって、素直に絶滅させられる事を選ぶほど愚かではないのだから。
「ダァァァァーーーーーーッッッッ!!!! どこを見ても、雪!! 雪!! 雪やないかいッッッッ!!!!」
しかし、どうやらその一団には例外がいるようだった。
声の主は、一団の先頭を歩いている女性こと一団のリーダーだった。
「敵の生態からして連中がこんなとこ来るワケないやろうが!!? なのになんでうちらはこんなとこにおんねん!!?」
「お、落ち着いてくださいよリーダー」
その後ろにいる、リーダーの部下が宥める。
「叫んだところでどうしようもないでしょう」
「そうそう。怪しきは調査せよ、が私達のやり方でしょ?」
「私達がやらなかったら、いったい誰がやるというのですか?」
さらには他の部下も意見を出す。
しかしそれで止まるようなリーダーではなかった。
「あかん!! もうあかんて!! こんな変わらん風景をずぅっと見続けたら頭がおかしゅうなるわ!! ていうかそんな風景を主に先頭でずぅっと見続けなあかんリーダーなんてもう嫌やぁ!! 誰かリーダー代わってぇ!!?」
リーダーはもはや発狂していた。
だがそれも仕方がない事かもしれない。
無意味ともいえる行動をずっとできる存在など、もはやロボットくらいであるのだから。
一方で彼女は人間。
発狂できただけ幸せかもしれない。
無論、リーダーの器ではないと思うが。
それを異常だと疑いもせずに働き続ける者より少しはマシである。
「あの……じゃあ私、代わりましょうか?」
するとその時だった。
一団の前から六番目にいる少女が挙手したのは。
「私、ダン・レンカというのですが」
「いやなんでおんねん!?」
人としてあんまりなツッコミ。
だが読者全員の意見でもある。
「ていうかホンマにここに敵がいたんか!!? その情報、絶対間違う、とる……や……ろ……」
だがしかし、リーダーはさらなる言葉を紡げない。
途端に、彼女の部下達は『いったいどうしたのか』と怪訝に思い、リーダーの視線の先を見て――絶句した。
そこには、ヒトがいた。
いや、ヒトと呼んでいいのだろうか。
しかし、だからといって敵ではない。
敵の特徴を備えているようなヒトではない。
そのヒトは、白い着物を着ていた。
中東のこの地域ではありえない、日本の死装束である。
そしてそのヒトは、女性。
しかも顔色が、気味が悪いほど白い。
誰が見ても彼女は、雪女だった。
「ぎゃあああああああッッッッ!! 出たァァァァーーーーッッッッ!!」
部下より先にリーダーが絶叫する。
相手のせいで状況への怒りは消え代わりに恐怖に支配される。
「あかーーん!! うちらはここでなぜか日本の妖怪に殺されるんやァァァァーーーーッッッッ!! フルプリには対処できへんバケモンに殺されてしまうんやァァァァーーーーッッッッ!! 死ぬ前に一度でええからソース顔のイケメンで満員のランダードームでもみくちゃにされながらアニソン歌ってみたかったーーーーッッッッ!!!!」
「Shut up」
そしてリーダーがどこかで聞いたような台詞を発した時だった。
まるで自分は人間ではない(妖怪である雪女かもしれないから当然かもしれないが)かのように、その一団が発見した存在が英語を喋ったのは。
まさかの事態を前に、全団員が凍ったように沈黙した。
まさか相手が、日本語以外を話すと誰が予想した事か。
「あ、あの……」
だがしかし、そんな中で一人だけ……あのダン・レンカがひと足先に復活し、命知らずにも相手に英語で話しかけた。まさか本気で、リーダーの座を簒奪しようというのか。自分の方が優れていると周囲にアピールしようとでもいうのか。
なんにしても、心臓に毛が生えているとしか言いようがない。
「すみません、うるさくて。あ、私達は旅の者です」
もしかすると敵かもしれないため、一応身分は明かさないレンカである。
「世界中を旅していて……ところでこの辺で変なモノを見ませんでしたか? とにかくこの場には似つかわしくない、私たち以外の何かを……えっと?」
「ユシャク」
すると何を思ったか。
もしかして、レンカが何と呼べばいいのか迷っていたからなのか……その相手が名乗りを上げた。
「冬の巫女……ユシャク」
途端に、吹雪が強くなる。
もはや周囲が見えなくなるほどに。
彼女達の存在を、消さんとするかのように。
中東のこの季節ではありえない……季節外れの吹雪だった。
ランダードームとは。
タイ王国にあるスタジアムがモデルのスタジアムである。
彼女は長い戦いの中で性癖が歪んだんです(意味深




