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十二月二十九日

 昨日お父さんの部屋で見つけた花火のレシートを見て花火がしたくなり、花火をしたいとおじいちゃんに言ったら車を出してくれた。

 向かったのは町の雑貨屋で、その雑貨屋はお祭りの時期は花火屋として花火を売ったり打ち上げ花火を行ったりしているらしい。

 ただ、今はオフシーズンで花火が買えるかどうか怪しかった。

 雑貨屋に着くとおじいちゃんと同世代らしき店主が出てきて、おじいちゃんと雑談を始めた。

 十五分ぐらい雑談してやっと本題に入り、花火を探してくるからと奥の方に消えていった。

 店主が花火を探している間、雑貨屋の中をぐるぐると見て回る。

 洗剤、タオル、文房具、サンダル、Tシャツ、お菓子におにぎり、飲み物。

 雑貨屋という場所に来るのは初めてで、日用品多めで食品少なめのコンビニというような印象だった。

 外装も内装も綺麗とは言えなかったが、その古っぽさが味のある雰囲気を醸し出している。

 一周し終えて壁に貼ってあるいくつものポスターを見ていた時、店主さんがバケツいっぱいの花火を持って戻ってきた。

 おじいちゃんがお金を払おうとする。

 しかし、店主さんは湿気って駄目になっているかもしれないからとタダで花火を譲ってくれようとした。

 お互いに譲り合い、結局おじいちゃんが負け、代わりに数千円分の買い物をした。

 この思いやりの精神も田舎というか年寄りというか、私の知らない世界だった。

 買ったものを車に積んで一息ついたとき、喉が乾いた気がして雑貨屋に戻った。

 瓶のコーラと見たことない駄菓子を好奇心で選んでレジに持っていく。

 またもやタダでくれようとして、更に玩具クジもタダで引かせようとしてきた。

 なんとなくこの善意の塊から逃れることができないような気がしてクジを引いた。

 二十六番。当たったのは頭を押すと舌が伸びるカエルだった。

 ありがとうございますと軽いお辞儀をして店を出る。

 店主さんは儲かってないのにとても幸せそうにニコニコしていた。


 おじいちゃんの車に揺られて町を周る。

 移り変わる景色の中にふと見覚えのある橋が見えて、思わずそこに行きたいと言った。

 記憶の中の景色は川原から橋を見ていて、アングルを合わせる為に車を降りる。

 手持ち花火を三、四本抜き取って。

 おじいちゃんは仕事があるらしくここで別れた。

 土手を降りて川岸に立って橋を眺める。

 やっぱり見たことがある橋だった。

 目を瞑って思い出す。

 やかましい蝉時雨。

 町を橙色に染める夕焼け。

 緩やかに流れる川。

 懐かしい。

 すべてが真反対の世界だけれど、それもそれで趣があってよかった。

 確かに私はここに来た。お父さんに手を引かれて。

 早くお父さんに会いたくなった。


 記憶というものは美化されて主観的に残されていくものだった。

 記憶中の田舎町に比べて今見ている田舎町がしょぼく小さく見えたのはそのせいだろう。

 なんだか町への興味がなくなってしまい、町探索を早く終えて家に向かって川沿いを歩いた。

 歩きながら花火に火をつける。

 赤色の光を放ちながらパチパチと音を立てて燃えた。

 それを魔法の杖みたいに振り回しながらくるくる回っていたら知らない人と目が合った。

 恥ずかしくなって動きを止め、しゃがんで花火を見つめる。

 生まれては飛び出して消えていく火花の一つ一つが鮮明に見えて美しい。

 この爆発力と呆気ない終わり方が、生命みたいだなって。

 私にはこんな爆発力のような生命力なんて無いけれど。


 家への道中で現れた鳥居につられてお参りをしたり、真っ白な猫について行ったりして、家に着いたのは空が桃色掛かった紫色に染まった頃だった。

 おばあちゃんが庭に生えている花に水をやっていた。

 ただいまと言いながら近寄って花を眺める。

 薄く黄色掛かった花弁が綺麗に開いている。

 どの花も力強く咲いていて、生命力に溢れていた。

 どうやら寒牡丹という花らしい。

 おばあちゃんは生け花か押し花にでもして持ち帰っていいよって言ってくれた。

 確かに綺麗だし、持って帰りたい気持ちもある。

 けれど、茎を切ってしまったら、美しかった生命力がなくなってしまいそうな気がした。

 断った時のおばあちゃんの表情はなんだか残念そうで申し訳なかった。

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