十二月二十四日
十八歳の誕生日に父親と喧嘩をして、衝動的にマンションを飛び出した。
あちらこちらから聞こえてくるクリスマスソングや電飾された街路樹に刺激された五感が悲鳴を上げている。
街の喧騒に苛々しながら歩いていると屋台から肉の焼けるいい匂いがした。
その匂いにつられてほぼボッタクリ価格のローストビーフを買ってしまった。
その場で作ったやつを食べられると思っていたのに、渡されたのは随分前に作られて並べられたやつだった。
冷めていて脂っぽい。
やっぱり屋台の売り物は高い割に低品質だ。
終わっている。
街を歩いていると時々友達と遭遇するけれど、みんな恋人といたり親といたりしていて虚しくなる。
この街から抜け出したい。
気づいた時には衝動的に交通系ICカードで電車に乗り、街を出ていた。
車内は定時帰りのサラリーマンだったり、クリスマスを満喫していそうな男女だったりで溢れている。
今、世界は幸せなんだろう。
その幸せが私には惨めで、気を紛らわせたくてスマホを見る。
一瞬黒い画面に反射した自分の顔がしょぼくれていて嫌になる。
SNSのタイムラインの有り様も散々だった。
国会議員の不祥事。移民による治安の悪化。下がる手取りと上がる物価。コメント欄で争う人々。
未来に希望が持てなくなる。
鬱陶しくて仕方がなくて、スマホを閉じるのでは飽き足らずSNSアプリをアンインストールした。
一時間ほど経った頃には車内もガラガラになっていた。
車内案内表示装置には知らない駅の名前が書いてあって、未知の世界に踏み込んだようで少しわくわくする。
なんとなく名前が気に入った駅で降りて街に出たとき、雪が降り出してきた。
最高のクリスマス日和だと思う。
振ったあとのスノードームみたいだ。
やっぱりこの街でもクリスマスソングは流れまくっているし街路樹はピッカピカのクリスマスカラーだ。
この街も私の街と変わらない。
だけど、違っているところもあった。
私はこの街を知らない。
この街は私を知らない。
そんな世界の冷たさが心地いい。
冷たい世界に冷たく返すようにイヤホンをして自分の世界に入る。
自動再生で流れてきたポップな曲に沈んでいた気分を無理矢理明るくされ、ヤケクソで街を歩いた。
ヒトカラで喉をからし、ゲームセンターでゾンビを蹂躙する。
思う存分ストレスを発散したけれど、それでも家に帰る気にはなれなくてネットカフェに立ち寄った。
漫画を積み、お盆いっぱいのドリンクを運び、カレーを食べながら青春アニメを見る。
そんな不足ないどころか溢れまくっている惰性に心をどっぷりと漬けて時間を潰した。
気づくと二十四時を過ぎて二十六時に差し掛かろうとしていた。
眠気がしてきて目を瞑る。
目を瞑ったら、自然と父親のことが思い浮かんてきた。
父は母が死んでからずっと一人で私を育ててくれた。
数年前から仕事の関係で全国を転々とするようになっても、どうにか時間を作って会いにきてくれた。
今日も私の誕生日を祝いに帰ってきてくれたのに、勉強のこととか進路のことで揉めて飛び出してしまった。
せっかくの再会なのに悪いことをしたと思う。
もっと喧嘩しないようにできたはずなのに。
意見や価値観が違うことはよくあることだ。
大切なのはそれを許し合って認めることができるかどうかだと思う。
明日、すぐに帰って謝ろう。




