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エピローグ

「ユベールとは何を話していたんだ?」


 兄と二人で執務室に戻ると、エドガルドが少し拗ねたような表情でレリアに尋ねてきた。


「兄妹の秘密だよ。エド。っていうか、兄の僕にまで嫉妬する必要はないんじゃない?」


 兄の嫉妬という言葉にレリアはまさかと思うけれどエドガルドの反応は違った。


「仕方ないだろう。レリアはお前が大好きなんだから。わかっていても面白くない」


 エドガルドがむすっと答える。なんだかレリアは胸がくすぐったくなるのを感じた。

 もしかして、今まで兄の話をするとちょっと機嫌が悪くなっていたのは全部嫉妬だったのだろうか。――そんな必要ないというのに。


「心配しなくて大丈夫ですよ。兄は兄ですし、そのエドガルド様はエドガルド様なので」


 レリアはエドガルドに笑いかけると、彼の手をそっと手に取った。あまりレリアが見せない行動だったからだろう。エドガルドが驚いている。


「レリア」

「ほら、帰りましょう。明日の準備もありますし」


 それに言いたいこともある。


「そうだな。ユベール。今日は時間を作ってくれてありがとう」

「気にしないで。僕も君たちとは話したかったし。明日の建国祭に行けなくて残念だよ。次は僕の即位が早いか、君の立太子の儀が早いか」

「さすがに俺の立太子だろう」

「そうだね。レリア。そのときには君の幸せな姿を楽しみにしているよ」


 兄はレリアに向かってとびきりの笑みを見せた。

 エドガルドが眉を寄せたのがわかる。

 余計なことを、とレリアは兄をにらみつけるけれど兄はどこ吹く風だ。

 ただ兄の言うとおり、次に会うときはきっとレリアとエドガルドの関係は変わっている、はずだ。そうなっているといい。






 転移魔法で戻ってきたのは王宮の一室だった。

 転移魔法のために、エドガルドに抱きしめられるような形になっていたレリアだが、転移後しばらくして、背中に回されたエドガルドの力が緩んだ。

 レリアは名残惜しい気持ちを感じながらエドガルドから離れる。

 エドガルドはレリアに微笑みかけた。


「今日は君はこれから特に予定はないだろう。明日もあるしゆっくりするといい」


 そう言って去ろうとするエドガルドをレリアは慌てて呼び止める。


「待ってください。エドガルド様」

「どうした?」


 エドガルドがこちらを振り返って不思議そうな顔をする。レリアは勇気を振り絞って彼の顔を見た。


「その、少しだけお時間をいただいてもいいでしょうか?」


 レリアの様子にただならぬものを感じたのだろう。エドガルドがうなずいた。


「……わかった。どこか移動でもするか?」

「いえ。ここでかまいません。その、いつかいただいた求婚のお返事をさせてください」


 エドガルドがピタリと止まったのがわかった。かすれた声でレリアの名を呼ぶ。


「レリア」


 どこか期待のこもった、でもどこか不安そうなエドガルドの表情。

 心臓がバクバクする。でも、彼をこれ以上待たせるわけにはいかない。

 彼が王太子になるという正式発表の前に、きちんと自分の気持ちを伝えておきたかった。


(勇気を出すのよ、レリア)


 レリアは自分を鼓舞して、エドガルドの方をまっすぐに見つめた。


「――エドガルド様。私はあなたをお慕いしております。あなたの隣であなたを支えるための資格を私にくだ……」


 最後まで言えなかったのは、エドガルドが強い力でレリアを抱き寄せたからだ。

 痛いくらいの力が、彼の強い思いを伝えてくる。


「レリア」

「エドガルド様。ちょっと……苦しいです」


 レリアが身をよじると、慌ててエドガルドが力を緩めた。


「すまない。嬉しくて少し我を忘れてしまったようだ」


 それでもレリアを離すつもりはないらしい。先ほどより力は緩いものの、レリアは抱きしめられたままだ。でもそれがとても嬉しい。


「君が隣にいてくれるなら、俺は、どんなに辛いことでも乗り越えられる。君は俺がユベールの負けない素晴らしい王になれるよう、隣で支えてほしい」

「はい。もちろんです。精霊術ももっとたくさん勉強します」

「ありがとう。レリア。――愛している」

「私も……愛しています。答えが遅くなってすみません」

「かまわない。君が俺を選んでくれただけで十分だ」


 レリアは甘えるようにエドガルドの胸に頭を埋めた。

 彼の温もりが心地よくて、とても幸せな気分になる。

 だから、彼がレリアから離れたときは少しだけさみしい気持ちになってしまった。思わず引き留めるように手が出てしまって、それを見てエドガルドが幸せそうにふわりと笑う。


「可愛いな」


 その細められた琥珀色の瞳があまりにも甘くて、レリアは恥ずかしくなってしまう。どうにかエドガルドの意識をそらしたくて、別のことを口にした。


「その、兄に聞いたんですけど、私とエドガルド様は親が決めた婚約者同士だったって本当ですか?」

「――ああ。少なくとも俺も俺の両親もそういう認識だった。ただ、余計な横やりを入れられないように直前まで黙っておくことになったんだ。初めて会ったときの君は凜とした女の子で、こんなきれいな女の子が将来自分の妻になるのかと思うと、とても幸せな気分になった」

「私も覚えていればよかったのに」


 今でもきれいな顔をしているエドガルドだ。きっととびきりの美少年だったのだろう。

「しょうがない。君にはいろいろあったから。まあ、俺の方もいろいろあって――だから迎えに行くのが遅れてすまなかった」

「いえ。結局迎えに来てくださったからいいんです。エドガルド様は――」

「エド。婚約者――将来は夫婦になるんだから、愛称で呼んでくれないか?」


 うっ、とレリアは言葉に詰まった。エドガルドの表情が期待値に満ちている。


「レリア。俺の愛称は知っているだろう?」


 重ねて甘く名前を呼ばれて、レリアは決意を固めた。かあっと頬が赤くなる。


「エド、は、親が決めた婚約者だから私を選んでくれたんですか?」


 エドガルドは微笑みながら首を振る。


「違う。君は俺が魔法無効化することを、痛そうだって言ってくれただろう? そんなことを言ってくれた人は他にいなかった。同時にとても嬉しかったんだ。こんな風に俺のことを思っている人を手放してはいけないと思った。――君は? ユベールに言われたから俺を選んでくれたのか?」


 違うだろ? という言葉が聞こえてきそうだ。おそらくレリアも正直に言わないといけないのだろう。


「私は、あなたが自分の役目を把握してその通りに行動しているのを見てすごいなって思ったのがきっかけだと思います。でも、一番嬉しかったのは、ヴィオレーヌよりも私を信じてくれたこと。いつのまにか、ピンチに陥ったとき、一番初めに思うのは兄じゃなくてエドになってました。ヴィオレーヌが火炎球を向けてきたときだって、頭に思い浮かべたのはエドでした」

「ユベールに勝てたのは嬉しいな」


 エドガルドは本当に嬉しそうに笑う。


「『お守り』の話を持ちかけたときの君は特にユベールのことなら何でも聞くっていう感じだったから」


 その自覚はあるので、レリアは何も言えない。

 アブストラートにくるまで、レリアの世界はほとんどが兄だった。


「でも、今はエドが一番です」

「ああ。わかってる」


 エドガルドはもう一度レリアのことを抱きしめた。


「――このままでいたい。が、明日の準備をしなくてはいけないな」


 すっぽりとレリアを自分の腕の中に閉じ込めたままエドガルドが言う。


「そうですね。明日はエドの晴れ舞台――」

「立太子と同時に君との婚約も正式発表する」

「え? 急すぎませんか?」


 レリアは思わず顔を上げてエドガルドを見てしまった。


「大丈夫だ。もともと一緒に発表したいと思っていたんだ。ある程度準備は進めている。無駄にならなくてよかった」


 エドガルドはにんまりと笑った。


「でも!」

「君は俺の隣で支えてくれるんだろう?」


 ああ。エドガルドの笑顔に弱い自分を発見してしまう。その顔を見せられたら、全部レリアはうなずいてしまいそうだ。


「わかりました」


 折れたレリアをエドガルドは満面の笑みで抱きしめた。





 翌日、国王陛下の建国祭の最後にエドガルドの立太子と婚約が同時に発表された。

 アブストラート王宮はしばらくお祝いムード一色だった。

 後継者教育を受けていないエドガルドにとって、これから大変なこともあるだろう。

 レリアはそんなエドガルドを支えたいと思っている。

『お守り』として、そして、婚約者として。


 それは、紛れもなく、レリアが自分で選んだ道だ。


読んでいただきありがとうございました。

魔法無効の最強男にに唯一ヒロインの魔法だけ効いたらどうなるかなと考えたのが始まりの話です。

少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。

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