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【原神】からかい上手のナヒーダさん #07 - 一つ目の死域【二次創作小説】

しばらく進むと、空気が急激に淀んだ。洞窟の壁にモヤがかかっているように見え、踏み込むほどにその色合いが濃くなる。息苦しささえ感じる独特の瘴気が充満し、ナヒーダの表情もさすがに険しくなった。


「……ここが最初の死域みたい。警戒して」


 彼女の声音が、いつもより低く響く。俺も自然と身構えた。


「ああ、どうやら歓迎されてないみたいだな」


 光るキノコの明かりが、この空間では不気味に揺らめいている。黄金色や赤、紫などが混じり合う光のグラデーションが、通常なら美しいはずなのに、死域の影響か、どこか歪んで見える。


 洞窟の壁面には、太い木の根のような黒赤色の枝が這い回っていた。それは明らかに自然のものではない——死域の異常な成長が生み出した「腫瘍」だ。


「あれが死域の核ね」


 ナヒーダが指さす先に、特に大きく膨れ上がった腫瘍が見えた。それは脈打つように蠢き、周囲に赤黒がかった気を放っている。


「あの腫瘍を破壊すれば、死域が浄化できるわ」


 しかし、話している間にも、視界の片隅で影が走った。


「…!」


 魔物だ。俺が剣を構えると同時に、ナヒーダが草元素をまとって警戒姿勢を取る。キノコのような形状をした小型の魔物——キノコンが複数体、こちらへ向かって群れをなして押し寄せてきた。


「こいつら……手強そうだな」


 死域の影響を受けたキノコンは、通常のものより一回り大きく、体から放つ胞子も毒々しい色をしている。


「二人なら大丈夫よ。いきましょう!」


 ナヒーダが草元素の力で、周囲に点在する草の種を集めると、それを死域の枝へと飛ばした。種は枝に付着すると、みるみるうちに芽吹き始める。


「あの芽が花を咲かせる前に、死域の枝を破壊して!」


 ナヒーダの指示に従い、俺は素早く剣を振るって枝を切り裂いた。枝が砕け散ると同時に、キノコンの群れが周囲から湧き出るように出現する。


「来るぞ!」


 声を合わせると同時に駆け出す。俺は前衛を務めて気を引きつけ、ナヒーダはその背後から草の蔦を操って魔物の動きを封じる。キノコンは素早い動きで飛び回り、時折毒の胞子を散布してくる。


「旅人、右からも来てるわ!」


 ナヒーダの警告に反応して振り向くと、確かに数体のキノコンが横から襲いかかってきていた。俺は剣を大きく振りかぶり、一気に薙ぎ払う。


「よし、これで一掃——」


 しかし安心したのも束の間、ナヒーダが次の草の種を死域の枝に付けると、新たな魔物が出現した。今度は扇子のような形状をした草元素の魔物——パタパタ草マッシュロンだ。


「次は風を操る魔物ね。注意して」


 パタパタ草マッシュロンは羽のような部位を震わせ、周囲に風の刃を放つ。俺はその攻撃を避けながら接近し、連続で剣を叩き込む。背後ではナヒーダが草元素の蔦を伸ばし、魔物の動きを制限していた。


「この連携、悪くないわね!」


 ナヒーダの声に、俺も思わず笑みがこぼれる。確かに、お互いの動きを補完し合う感覚は心地よい。彼女が魔物を拘束し、俺が倒す——シンプルだが効果的な戦法だ。


 次々と現れるパタパタ草マッシュロンを撃破していく。ナヒーダの精密な草元素操作のおかげで、俺は思う存分剣を振るえた。最後の一体を倒し終えると、ナヒーダは微笑んだ。


「まだよ。最後の死域の枝があそこに」


 彼女が指し示した先には、より太く強固な死域の枝があった。その周りには赤色の瘴気が濃く渦巻いている。


「これは強敵かも。最後の草の種を使うわ」


 ナヒーダが集めた最後の草の種を枝に付けると、それは一瞬で芽吹き、枝を覆い始めた。俺はすかさず駆け寄り、剣で枝を切り裂く。


 轟音と共に枝が粉々に砕け散った瞬間、周囲の空気が一瞬凍りついたように感じた。そして——


「っ!これは……」


 獣の咆哮が響き渡る。黒い影が壁を這うように現れた。どうやら死域最後の守護者が現れたようだ。


「獣域ウルブズ!」


 狼のような姿をした魔物——獣域ウルブズが俺たちの前に降り立った。通常のウルブズより一回り大きく、全身から禍々しい紫の気を放っている。その目は死域の汚染によって赤く染まり、悪意に満ちた光を放っていた。


「こいつが死域の最後の守り手か……」


 獣域ウルブズは突如、俺に向かって突進してきた。その速度は目を見張るものがある。咄嗟に剣を構えて防御姿勢を取るが、衝撃の強さに足が地面を滑る。


「くっ……!」


「旅人!」


 ナヒーダの声が聞こえ、獣域ウルブズの足元に草の蔦が絡みついた。一瞬だけ動きが鈍る。その隙を逃さず、俺は剣を振り下ろす。しかし、獣域ウルブズは尻尾を振るって攻撃をいなすと、再び距離を取った。


「こいつ、通常より賢いぞ」


「死域の影響で、知性が高まっているのかも……」


 獣域ウルブズは低く唸ると、今度はナヒーダに向かって飛びかかった。


「ナヒーダ、危ない!」


 俺は咄嗟に彼女の前に立ちはだかり、剣で獣域ウルブズの攻撃を受け止める。しかし、その勢いに耐えきれず、二人とも後方に吹き飛ばされた。


「大丈夫?」


 倒れた彼女を抱き起こしながら尋ねる。ナヒーダは少し息を切らしているものの、頷いた。


「えぇ。でも、普通の戦い方では勝てないわ」


 獣域ウルブズは二人を見据え、次の攻撃の機会を窺っている。その紫の瘴気はますます濃くなり、周囲の空気まで汚染しているようだ。


「ナヒーダ、何か策はあるか?」


「あるわ。私が草元素の力で一時的に拘束する。その隙に、あなたは死域の腫瘍を破壊して」


 彼女の言葉に、俺は頷いた。作戦は単純だが、タイミングが重要だ。


「準備はいい?」


「いつでも行けるよ」


 ナヒーダが両手を広げると、周囲の草元素が集まり始めた。光るキノコからも草元素のエネルギーが引き寄せられ、彼女の周りに緑の光の球体が形成される。


「今よ!」


 彼女が手を前に突き出すと、草元素の力が獣域ウルブズに向かって放たれた。獣域ウルブズの体に触れると、魔物の体を絡め取った。


 この隙だ!俺は死域の腫瘍に向かって駆け出した。獣域ウルブズは激しく暴れ、拘束を振り切ろうとする。


「急いで!私の力だけでは長く押さえられないわ!」


 ナヒーダの声に背中を押され、俺は剣を振り上げた。


「はあっ!」


 渾身の一撃が獣域ウルブズを貫いた瞬間、その咆哮が洞窟中に響き渡る。


「やった……!」


 獣域ウルブズも力を失ったように地面に倒れ込む。そのまま体が透明になり、消失していった。


 死域の腫瘍を破壊できるようになり、破壊すると、洞窟内に満ちていた死域の瘴気も、みるみるうちに薄れていく。


「これで……終わったのか?」


「えぇ、この死域は完全に浄化されたわ」


 ナヒーダが近づいてきて、安堵の表情を浮かべている。しかし、その瞬間——


「っ……痛っ!」


 突然、脚に鋭い痛みが走った。よく見ると、戦闘中に気づかなかったが、獣域ウルブズの爪が脚に傷をつけていたらしい。それも普通の傷ではなく、死域の影響を受けているのか、傷口の周りが赤黒色に変色している。


「大変!汚染が傷から入り込んでいるわ」


 ナヒーダが俺の傷を見て、驚いた表情になる。確かに、傷口から広がる筋が、肌の下を這うように進んでいる。


「どうすればいい?」


「落ち着いて。早く処置すれば大丈夫よ」


 ナヒーダが傷に近づき、じっと観察する。


「傷口から死域の汚染が入り込んでいるわ。これを浄化しないと、どんどん広がってしまう」


 彼女は真剣な表情で言った。


「ズボンをめくって、傷を見せて」


 少し恥ずかしいが、今はそんなことを言っている場合ではない。俺は言われるままにズボンの裾をめくり上げた。傷は膝の下、ふくらはぎの辺りにある。


「うーん、これじゃ見づらいわね……」


 ナヒーダが少し悩むような表情をしている。


「もう少し上まで見せないと……汚染の広がりが確認できないわ」


 躊躇う俺に、彼女は真剣な面持ちで言った。


「今は恥ずかしがってる場合じゃないわ。死域の汚染は急速に広がる。早く処置しないと取り返しがつかなくなるかも」


 その言葉に、俺は観念した。


「わ、わかった……」


 俺はためらいながらも、ズボンを降ろし始めた。いくら緊急事態とはいえ、ナヒーダの前でこんなことをするのは心臓に悪い。しかも相手は見た目は幼く、そしてスメールの草神だ。


「焦らなくていいわ。ゆっくりで大丈夫」


 ナヒーダの声は意外にも落ち着いていて、どこか安心感を与えてくれる。


「えぇっと……見ればいいだけなら、このくらいで……」


 膝上まで露わになった脚を見せる。傷口から広がる紫の筋は、既に太ももの方向へと伸びていた。


「これは……予想以上に広がっているわ」


 ナヒーダが手のひらを傷の上にかざすと、淡い緑色の光が彼女の指先から溢れ出した。草元素の治癒力だ。


「少し痛むかもしれないけど、耐えてね」


 光が傷に触れた瞬間、鋭い痺れのような痛みが走る。思わず顔をしかめた。


「くっ……!」


「ごめんなさい。汚染を引き抜いているの」


 ナヒーダの手から放たれる緑の光が、傷口の汚染と交わり、小さな光の粒子となって空中に昇っていく。まるで浄化される過程が視覚化されているようだ。


 光が消えると、傷跡はほとんど見えないほどに癒えていた。わずかに赤みを帯びた痕が残るだけだ。


「はい、これで完了よ。どう?痛みは?」


 試しに足を動かしてみる。先ほどまでの痛みや痺れは完全に消えていた。


「ああ、もう大丈夫みたいだ。完全に治ったみたいだな……ありがとう」


 そう言いながら、慌ててズボンを上げる。ナヒーダは少し疲れた様子だが、満足げに微笑んでいた。


「死域の浄化と汚染の治療、両方できて良かったわ」


 彼女は手を膝について立ち上がり、周囲を見渡した。


「この洞窟の死域は他にもあるはずだけど、一つ目は完全に浄化されたわ」


 俺も立ち上がり、治った脚を踏みしめてみる。痛みも違和感も全くない。さすが神様の治療力だ。


「本当に完璧に治ってる……ありがとう」


 心からの感謝と感嘆の気持ちを込めて言うと、ナヒーダは少し照れたような表情を見せた。


「どういたしまして」


 謙遜するその姿に、なんとも言えない親しみを感じる。神としての強大な力を持ちながらも、どこか謙虚で、優しさに満ちている。


「それにしても、さっきは良い連携だったな」


 戦闘のことを思い出しながら言うと、ナヒーダも嬉しそうに頷いた。


「そうね。あなたの剣の腕前と私の草元素操作、相性が良かったわ」


 彼女の言葉に、少し誇らしい気持ちが湧いてくる。スメールの草神と肩を並べて戦い、しかも良い連携が取れたというのは、なかなかの自信になる。


「次の死域も、あの調子でいければ大丈夫だな」


「そうね。でも油断は禁物よ。次はもっと強力な死域かもしれないわ」


 ナヒーダは少し休息を取るように、近くの岩に腰掛けた。その姿は神としての威厳よりも、少女らしい疲れを見せている。


「少し休憩する?」


 俺も彼女の隣に座り、一息つく。死域が浄化されたせいか、洞窟の空気も清々しく感じられるようになった。周囲のキノコの光も、より鮮やかに輝いているように見える。


「あの死域の腫瘍、すごく強固だったわ」


 ナヒーダが物思いにふける様子で言った。


「でも私たちの力を合わせれば、残りの死域も必ず浄化できるはず」


 彼女は自信に満ちた表情で言い、そっと俺の方を見た。その目には、信頼の色が宿っている。


「今後も協力してくれるかしら?」


 突然の言葉に、少し驚く。


「当然だろ。俺たちはパートナーなんだから」


 そう答えると、ナヒーダは小さく笑った。


「パートナー……そうね、良い響きね」


 彼女の言葉に、なぜか胸がドキリとする。単なる同行者以上の何かを、その言葉に感じたからだろうか。


「さあ、休憩はこのくらいにして先に進みましょう」


 ナヒーダが立ち上がり、手を差し伸べた。俺はその手を取って立ち上がる。小さな手だが、確かな力強さを感じる。


「ああ、行こう。次の死域も必ず浄化してみせる」


 そう言って、俺たちは洞窟の奥へと歩み始めた。先の戦いで得た連携と信頼感は、二人の間に新たな絆を育んでいるようだった。


 光るキノコの間を縫うように進みながら、俺はチラリとナヒーダを見た。彼女の横顔は、この薄暗い洞窟の中でも神々しく輝いている。それと同時に、どこか近づきやすく、親しみやすい雰囲気も漂わせている。


 こんな彼女と共に戦えることに、俺は静かな誇りを感じていた。

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