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【原神】からかい上手のナヒーダさん #15 - 遺跡の守護者たち【二次創作小説】

地下水脈の滝で一息ついた後、俺たちは再び洞窟の深部へと歩みを進めた。水のせせらぎの音が徐々に遠ざかり、代わりに不気味な静寂が周囲を覆っていく。


 通路の形状も変わり始めた。これまでの自然な岩の洞窟から、徐々に人工的な造りへと変化している。壁面には古代文字らしき模様が刻まれ、天井は規則的なアーチ状になっていた。


「ここは…遺跡?」


 俺の問いかけに、ナヒーダは壁面の文字をじっと見つめながら頷いた。


「ええ、かなり古い時代のものね。スメールの歴史の中でも、初期の文明の痕跡かもしれないわ」


 彼女の指が壁の文様を優しくなぞる。草神として、この地の長い歴史を知る者としての表情だ。


 さらに進むと、通路は大きく開けた空間へと繋がっていた。天井は高く、円形の広場のような場所。周囲には柱が立ち並び、床には精緻な幾何学模様が刻まれている。


 かつての繁栄を想像させる遺跡だが、その美しさを損なうように、黒紫色の枝のような異物が壁や床を這い回っていた。死域の侵食だ。


「やはりここにも死域が…」


 ナヒーダの表情が険しくなる。彼女は周囲の死域の腫瘍を確認し、その広がりを見極めているようだ。


「かなり強力な死域ね。この遺跡全体に根を張っている」


 彼女の手から草元素の光が溢れ、周囲の状況を探っている。


「浄化するには、あの中央の腫瘍を破壊する必要があるわ」


 ナヒーダが指さす先には、遺跡の中央部に巨大な死域の腫瘍が見える。それは脈動するように膨らんだり縮んだりを繰り返し、周囲に紫の靄を撒き散らしていた。


「魔物も出てきそうだな」


 俺は剣を構え、警戒する。これまでの経験から、死域の浄化は決して容易ではないことを知っている。ナヒーダも草元素の力を集中させ始めた。


「準備はいい?」


 彼女の問いかけに、俺は無言で頷く。


 ナヒーダは草の種を集め、最初の死域の枝へと放った。種が枝に触れると、それはみるみるうちに芽吹き始める。枝を覆い尽くすように成長した草の力で、死域の一部が崩れ落ちた。


 しかし、同時に遺跡の床から異様な振動が走る。何かが目覚めたような音とともに、死域の力が結晶化したかのような姿が浮かび上がってきた。


「くる!」


 俺の警告と同時に、空中に浮かぶ機械のような魔物が出現した。それは複数の独立したパーツで構成された、ミツバチの群れのような見た目をしている。


「遺跡巡視者だわ!」


 ナヒーダの声に振り返ると、彼女は既に次の行動の準備を整えていた。


「こいつ、物理攻撃は効きにくいんだったよな」


 以前どこかで戦った記憶がある。固い装甲に覆われた魔物は、通常の剣撃ではダメージが小さい。


「元素攻撃を中心に!私がサポートするわ!」


 ナヒーダの指示に従い、俺は元素力を剣に集中させる。遺跡巡視者が放つ黄色いビームを避けながら、機会を窺う。


 ナヒーダが草元素でサポートし、飛来するビームから俺を守る。その隙に、俺は元素爆発を放った。草元素の波動が遺跡巡視者を襲い、そのパーツをいくつか破壊する。


「上手くいったわ!次よ!」


 ナヒーダがさらに草の種を別の死域の枝に放つ。前回と同様に草が成長し、死域の一部を浄化する。


 すると今度は、地面から蔓のような形状の魔物が現れた。それは地面に根を張り、まるで植物のように見えるが、明らかに機械的な構造を持っている。


「遺跡殲滅者!気をつけて!」


 彼女の警告通り、遺跡殲滅者は固定された位置から強力なビームを放射し始めた。俺は素早く位置を変え、攻撃を避ける。


 二体目との戦いは、より厳しいものとなった。地面に固定されているため動かないが、その分攻撃範囲が広く、避けにくい。


「俺が気をひく!チャンスを作るから!」


 俺が前に出て遺跡殲滅者の注意を引きつける。予想通り、魔物は俺めがけてビームを放ってきた。それを避けながら、少しずつ近づいていく。


 ナヒーダはその間に草元素を集中させ、強力な一撃を準備している。俺がさらに接近して遺跡殲滅者の注意を完全に引きつけたところで、ナヒーダの攻撃が放たれた。


 草元素の爆発が魔物を直撃し、その装甲を貫通する。俺もその隙に剣で止めを刺した。


 息つく間もなく、ナヒーダは三つ目の死域の枝に草の種を放った。


 今度現れたのは、昆虫をモチーフにした巨大な盾を持つ魔物だ。その盾は攻撃を完全に防ぎ、さらに対応がより難しくなる。


「遺跡防衛者!背後が弱点よ!」


 ナヒーダの指示に従い、俺たちは連携して攻略を試みる。彼女が草元素の罠を設置し、魔物の動きを制限する。その隙に俺が背後に回り込み、弱点を攻撃する。


 だが、予想以上に頑強な防御力を持つ遺跡防衛者は、なかなか倒れない。さらに続けざまに現れる二体目、三体目との戦いで、俺たちの体力も消耗していく。


「終わりが見えないな…」


 汗を拭いながら呟く。ナヒーダも少し息が上がっているが、決して諦める様子はない。


「最後の一つよ!あの大きな腫瘍に種を当てれば、すべての死域が浄化されるはず!」


 彼女の言葉に勇気づけられ、俺はさらに集中する。これまでの戦いの疲れは確かにあるが、ここで諦めるわけにはいかない。


 最後の死域の枝に草の種が当たると、最大の魔物が現れた。クラゲをモチーフにしたホバリングマシンだ。


「遺跡偵察者!」


 ナヒーダの声にハッとする。この魔物はフィールド上に危険なエネルギーオーブを設置し、動きを制限してくる厄介な敵だ。


「これが最後だ。全力で行くぞ!」


 俺の掛け声と共に、最終決戦が始まった。遺跡偵察者はオーブを次々と設置し、俺たちの動きを阻害してくる。そのオーブに触れれば大ダメージ、回避しようとすれば攻撃のチャンスが失われる。


 だが、これまでの戦いで培った連携が活きた。ナヒーダが草元素の力でオーブの一部を無効化し、俺が攻撃に専念する分担だ。


「右からのビームに気をつけて!」


 彼女の警告で間一髪、攻撃を回避する。その流れで反撃し、遺跡偵察者にダメージを与える。


 激しい戦いが続き、遺跡内に元素の光と爆発音が響き渡る。何度も危機的状況を迎えながらも、二人の連携で乗り越えていく。


 ついに、俺の渾身の一撃が遺跡偵察者を貫いた。魔物は爆発するように崩れ落ち、消滅した。


「やった!」


 勝利の声を上げる間もなく、ナヒーダは中央の巨大な腫瘍に向かって走り出した。


「急いで!これで死域を完全に浄化できるわ!」


 彼女の手から放たれた草元素の光が、腫瘍に向かって伸びていく。腫瘍に触れると、死域の物質が次々と浄化され始めた。


 しかし、その瞬間、遺跡全体が大きく揺れ動いた。


「なっ…!?」


 床に亀裂が走り、柱が崩れ始める。死域の力で支えられていた古代の遺跡は、浄化されることでその構造を維持できなくなったようだ。


「ナヒーダ、危ない!」


 彼女の近くの床が崩れ始めていた。俺は急いで駆け寄り、彼女の手を掴む。しかし、その動きが逆効果となり、二人の重みで床がさらに脆くなってしまう。


「うわっ…!」


 俺たちの足元が完全に崩れ落ちた。


 岩が崩れる低い轟音とともに、俺とナヒーダは急な足場の崩落に巻き込まれ、暗闇へと一気に落ちていった。災難すぎる展開に悲鳴を上げる間もなく、全身が宙を舞うような感覚を味わう。


 短い落下の後、俺は何かしら柔らかいものに着地した。衝撃は予想よりも小さい。


「いてて……助かったか? 土が柔らかくてよかった……」


 安堵の息を吐きながら体を起こそうとする。さすがに腰は痛いが、大怪我には至らなかったようだ。薄暗い中、手探りで確認する感触は確かに柔らかい。


 落ち着いて考えれば、こんな地下深くに柔らかい土があるのは不自然だ。疑問を抱きながらも下を見やると、さほど痛みを感じない柔らかい土の感触がある――と思った、そのときわずかに声が聞こえた。


「残念。実は土じゃなかったみたいね?」


 ナヒーダの静かな声が下から聞こえる。どういう意味だ、目を凝らすと、彼女が仰向けの状態でこちらをじっと見つめていた。まるで薄暗い洞窟の底で、目が合うたびに胸が高鳴る。


 そして突然、恐ろしい事実に気づいた。


「え……土じゃないって……まさか……!」


 慌ててもう一度、自分が押し付けているものを確認する。すると、そこにあるのは柔らかな布――いや、これはナヒーダの服。その奥の感触は……動揺が一気に爆発する。


「うわっ、俺、ナヒーダの上に乗ってたのか!」


 声が裏返るほどの衝撃だった。落下した際、ナヒーダの上に覆いかぶさるような形で着地していたのだ。


「ふふ、正解ね。あなたが落下してきた衝撃、中々すごかったわ」


 焦って彼女から体を引き離そうとするが、ほんの一瞬でも密着していた記憶が頭をぐるぐる回り、頬が熱くなっていく。ナヒーダは小さく息を整えながらも、特に怒った様子はない。


「ご、ごめん! 本当に悪かった……! ケガ、ないか?」


 まさかナヒーダの上に落ちるなんて。申し訳なさと恥ずかしさで頭が真っ白になる。


「平気よ。衝撃もそれほどじゃなかったわ。あなたこそ痛くない?」


 その言葉にほっと息をつきながら、急いで離れた俺は背中の痛みをなだめる。落下の衝撃は確かにあるが、致命的なものではなさそうだ。


 ナヒーダは微笑ましそうにこちらを見上げ、からかうように言った。


「あなたの顔が真っ赤になってるわ」


 落下のショックと彼女への意識が合わさり、心臓はまだ乱れっぱなしだ。先ほどの戦いの緊張感は何処へやら、今は別の種類の緊張に包まれている。


「と、とにかく、ここから出る方法を探そう。落ちた高さもあるし、抜け道があるはずだ」


 気まずさを誤魔化すように周囲を照らし、散乱した岩や湿った地面を踏みしめながら移動を始める。もう落ちてくることはないと願いつつ、今度こそナヒーダを巻き込まずに突破しようと心に決めた。


 周囲を見渡すと、どうやらここは遺跡の下層部分のようだ。上層とは異なり、さらに古い時代の造りに見える。死域の痕跡もなく、浄化は完了したようだ。


「さっきの戦い、かなり激しかったわね」


 ナヒーダが立ち上がりながら言った。彼女は衣服の埃を払い、周囲を観察し始める。


「ああ、でもお陰で死域は浄化できた。あの遺跡の魔物たち、結構厄介だったな」


 魔物との戦いを振り返りながら言う。実際、遺跡の守護者たちは通常の魔物よりも強力で、特に物理攻撃が効きにくい点が厄介だった。


「私たち、良いコンビネーションだったわね」


 ナヒーダの言葉に、少し照れくさい気持ちになる。確かに、互いの動きを読み合い、補完し合う連携は出来上がっていた。最初の死域浄化の時よりも、さらに息が合うようになっている。


「そうだな。君の支援があったから、あの魔物たちに対処できたよ」


 素直に感謝を伝えると、ナヒーダは嬉しそうに微笑んだ。


 そんな会話をしながら、俺たちは周囲を探索し、落下前の地点に登った。


 先ほどの命がけの戦いと、その後の恥ずかしい着地。様々な感情が交錯する中、俺たちの探索はまだ続いていく。

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