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エーちゃんと奇妙な戸棚

作者: 蓑田しと

とある2階建ての一軒家に、エーちゃんとシーちゃんがいました。

2人は双子で、仲良く家の中で遊んで過ごしていました。ある時は2階でおままごとをしたり、またある時は1階をぐるぐると周りながら追いかけっこをしていました。


そんなある日のことでした。2階で遊んでいたエーちゃんがふと一階に降りてみると、リビングに見慣れない大きな戸棚が置かれていました。

一体いつ、誰が置いたのでしょうか? 昨夜はこんな戸棚はありませんでした。

不思議に思ったエーちゃんは、そっと戸棚に近付いてみました。


戸棚は古くて質素な造りをしています。上部にはガラス張りの取っ手のついた扉があり、下には扉はなく、ただ物を置けるだけの空間があるのみでした。

エーちゃんは戸棚を覗こうとしましたが、ガラス戸が曇っていて中がよく見えませんでした。


―― 中に何が入っているんだろう?


興味を惹かれたエーちゃんは、ガラス戸を開けてみました。

すると中には小さな女の子の人形が置かれていました。

人形は赤い着物を着てちょこんと座っており、長い黒髪を垂らして(うつむ)いています。


エーちゃんが不思議そうに見ていると、人形がギギギギと音を立ててゆっくりと顔を上げました。

顔には二つの大きな赤い目玉がついており、エーちゃんを鋭く睨みました。

そして口を醜く歪ませてケタケタと笑い出しました。口からはヨダレのような赤い液体がこぼれています。

その様子を見て怖くなったエーちゃんは、バタンと戸棚を閉めてしまいました。

人形は曇ったガラス戸の向こうに隠れて見えなくなり、勝手に戸棚を開けて出てくることもありません。

エーちゃんはすぐに2階へ駆け出してシーちゃんを呼びました。


「シーちゃん、シーちゃん、不思議な戸棚があるよ」


「戸棚ってなあに? エーちゃん」


エーちゃんは、興味津々なシーちゃんを1階の戸棚の前へ連れて来ました。


「この戸棚の中には、何が入っているの?」


「知らなぁい」


エーちゃんは意地悪そうにシーちゃんに答えました。シーちゃんの驚く顔が見たかったのです。

シーちゃんは不思議そうな表情を浮かべたまま戸棚を開きました。エーちゃんは少し離れた所で様子を見ています。

ガチャリと戸棚を開け、中にいた人形を見たシーちゃんは少し驚きながらも、戸棚の中に手を伸ばそうとしました。

すると突然、シーちゃんの体が勢いよく戸棚の中に吸い込まれてしまいました。

エーちゃんが驚いていると、戸棚からのっそりと人形が出て来ました。

戸棚から出て来た人形は、あっという間にエーちゃんと同じ背丈まで大きくなり、エーちゃんを睨みながら呟きました。


「喰ってやる……喰ってやる……」


人形は頭を振り乱し、恐ろしい形相でエーちゃんに襲いかかってきました。

エーちゃんはビックリして逃げ出しました。人形は歩き慣れていないのか、つまずきながらヨタヨタとしています。

エーちゃんはリビングから玄関へ行って外に逃げようとしましたが、シーちゃんがまだ戸棚に入ったままだという事を思い出します。


―― シーちゃんを助けなきゃ!


エーちゃんは勇気を振り絞って家の中へと戻りました。


この家の1階の間取りは中央に階段があり、リビングから玄関、脱衣所、キッチンそして再びリビングへと、ぐるりと一周する事が出来ます。


歩くのに慣れてきた人形が玄関にたどり着く前に、エーちゃんは脱衣所へ行き、キッチンを通ってリビングへと戻ってきました。エーちゃんを追っている人形は、まだ脱衣所にいます。

エーちゃんは戸棚に駆け寄って中を覗きました。そこには小さくなってうずくまっているシーちゃんがいました。エーちゃんは不安そうに話しかけます。


「ねえ、だいじょうぶ?」


シーちゃんが顔をあげて答えます。


「だいじょうぶ! ここから出して!」


エーちゃんはシーちゃんの腕を掴んで引っ張り出そうとしますが、とても重くて上手く引っ張れません。

そうしていると人形がキッチンを通ってリビングへと戻ってきました。

エーちゃんは慌ててもう一度家を一周して戸棚へと戻ってきました。


「シーちゃん、人形のこと、黙っててごめんなさい」


「ううん、許してあげる。だからここから出して」


「うん! いくよ、せーのっ」


エーちゃんは一気に引っ張り上げました。すると戸棚からシーちゃんが勢いよく飛び出してきました。

戸棚から出てあっという間に元の大きさに戻ったシーちゃんは、すぐ側まで迫ってきた人形を前にして、エーちゃんに合図を送ります。


「エーちゃん、やるよ!」


「うん、シーちゃん。2人なら、できるよ!」


2人は息を合わせて人形に向けて両手をのばしました。

すると2人の手から(まばゆ)い光が放たれて、人形を包み込みました。


「ギャアアァァァ!」


光に包まれた人形は、けたたましい悲鳴をあげて燃え上がりました。

人形は必死にもがいていますが、あっという間に燃え尽きてしまいました。


「やったー!」


2人は手を合わせて喜びました。



◇◇◇



「アレェ? おっかしいなあ」


「ディーさん、どうされました?」


ディーさんと呼ばれた青年は首を傾げながらリビングと戸棚を調べています。

その隣で配送業者が不思議そうにディーさんを見ています。


「いやね、実はこの空き家なんだけど、悪霊が棲みついているって話を聞いてね。…何でも子供の声が聞こえたり、ドタバタ走り回る音が聞こえたりしていたらしいんだ。そこでこの除霊効果のある戸棚を設置してみたんだけれども、なんだか変だなぁ…」


「えっ? この空き家に悪霊、ですか…」


配送業者はぎょっとした顔をしました。

このディーさんという青年は少しだけ霊感を持っていました。彼はその能力を活かしてお祓いの仕事をしていたのです。


「戸棚にいたのは座敷(ざしき)童子(わらし)だよ。この霊は人間には害は無いんだ。むしろ幸運を呼んだり、悪い霊から守ってくれたりするんだよ。でも、どうやら戸棚から霊の気配が消えちゃってるみたいなんだ。ただ空き家からも悪霊の気配がしないから、ひょっとしたら相討ちになって対消滅してしまったのかもしれないな…」


「じゃあ、もう幽霊はいないってことなんですね?」


配送業者は少しほっとした様子で尋ねました。


「そうだね。この戸棚はただの家具になっちゃったけど、まあ依頼は達成出来たみたいだし、これで良かったのかもね。…よし、それじゃ戸棚を片付けてしまいましょう」


そう言って2人は戸棚を外へと運び出し始めました。





2人の後ろに双子の女の子が立っていました。

座敷童子である彼女達は、戸棚の悪霊を退治した達成感から、満面の笑みを浮かべています。

2人は静かに並んで、戸棚を片付ける人間達をそうっと見守っているのでした。






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