神秘の泉に斧を落としたら女神様が授けてくれたのは歴史的に無双な斧でした
穏やかな日差しが降り注ぐ昼下がり、泉の女神は絶好の昼寝タイムを満喫していた。だが、その静寂は、外から聞こえる騒がしい声によって無情にも破られた。
「うるさいのう。何事じゃ!」
泉の縁には、木こりがしゃがみ込み、顔をぐしゃぐしゃにして泣いていた。
「女神様、私の唯一の斧が泉に落ちてしまいました。この斧がなければ、明日からおまんまの食い上げです! どうか、斧を返してくださいませ!」
「ふむ、仕方ないのう……わらわの大切な昼寝の時間を邪魔しおって」
そう言って、女神は泉の中に潜り込み、探し始めた。しかし、底の隅々まで探しても木こりの斧は見つからない。
「お前の斧は見つからなかったぞ。その代わり、昔お前の祖先が沈めた斧があったので、それをやろう」
「昔に沈んだ斧では錆て、ボロボロでしょう」
「それが全然錆びておらん」
木こりの顔がぱっと明るくなった。
しめた!きっと、金の斧に違いないよ。木こりは大喜びでその斧を貰うことにした。
女神は少し困惑した表情で、泉から出てきた物を木こりに渡した。それは、ずっしりとした石の斧だった。
「これじゃ。 1500年前に沈んだ石斧じゃ」
木こりは目を丸くして斧をじっくりと観察した。
「うはっ! 旧石器時代のハンドアックスじゃないですか! 表面にコケがびっしり生えてますよ! しかも持ち手の木が残っているなんて奇跡的です!」
女神はあっけにとられた。
「お前、考古学者か?」
木こりは、女神の言葉を聞き流しながら石斧を愛で始めた。
「いやあ、木材は、水中に浸かっている状態では腐りにくいという特徴があるんですよ。これは、木材が腐る原因である白ありや菌の繁殖が、空気と湿気が十分でない水の中では発生しないためなんです」
女神は眉をひそめた。
「わらわにそんな講義をしてどうする? 博物館の学芸員にでもなるつもりか?」
木こりは急に真剣な顔になり、石斧を頭上に掲げた。
「いいえ、女神様! この石斧は木を伐るためだけでなく、歴史を伐り開くための武器でもあります!」
「何を言ってるか、さっぱりわからん……」
よろしければ、第五弾も読んでください。
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