第8話「勝利の余韻と新たな課題」
「やったね、さくらちゃん! 私たち、勝っちゃったよ!」
興奮冷めやらぬりんごの声に、さくらは我に返った。
「う、うん...本当だね」
さくらの頬を、汗と涙が伝う。デビュー戦での予想外の大逆転勝利。その実感が、ジワジワと体中に広がっていく。
「ムーンライト☆フェアリーズ、素晴らしい戦いでした!」
場内アナウンスが響き渡る中、観客からの歓声が鳴り止まない。
(すごい...こんな歓声、高校の試合では味わったことない)
さくらは、胸が熱くなるのを感じた。
「さくら、りんご、よくやった!」
ダイナマイト☆けんじが、リングサイドから二人を迎える。
「けんじさん! ありがとうございます!」
さくらとりんごは、リングを降りるとすぐにけんじに駆け寄った。
「お前たちの可能性は、まだまだこんなもんじゃない。これからが本番だ」
けんじの言葉に、さくらは力強く頷いた。
「はい! もっと強くなります!」
控室に戻ると、そこにはマイク・ファンタジアの姿があった。
「ブラボー! 素晴らしい戦いだったぞ、ムーンライト☆フェアリーズ!」
派手な身振り手振りで喜ぶマイクに、さくらたちは照れくさそうに笑う。
「さぁ、今夜は祝勝会だ! エターナル・リングスの面々も、お前たちの活躍を祝福したいと言っている」
「え? 祝勝会ですか?」
さくらが驚いた顔をすると、マイクは大きく頷いた。
「もちろんさ! 新人の大活躍は、団体の宝なんだ。さぁ、シャワーを浴びて、会場に向かおう!」
こうして、さくらとりんごは、思いがけない祝勝会へと向かうことになった。
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エターナル・リングスの本部ビル最上階。そこに設けられた大広間は、レスラーたちで賑わっていた。
「わぁ...」
さくらは、目の前の光景に圧倒される。
様々な種族のレスラーたちが、華やかな衣装に身を包んで歓談している。中には、動物のような外見の者や、半透明の体を持つ者までいる。
「さくらちゃん、あれ見て! 料理がたくさん!」
りんごが指さす先には、魔法で浮遊する料理の数々。
見たこともない色や形の料理が、宙を舞いながらゲストたちの皿に降り立つ。
「すごいね...」
二人が呆然としていると、見知った顔が近づいてきた。
「やぁ、ムーンライト☆フェアリーズ! 素晴らしい試合だったよ」
「あ、ありがとうございます!」
声をかけてきたのは、エターナル・リングスのベテランレスラー、サンダー・ゴリアテだった。全身の筋肉が唸りを上げそうな巨漢だ。
「特に最後の『ムーンライト・メテオ・クラッシュ』は見事だった。あんな技、初めて見たよ」
「え、えへへ...」
さくらは照れくさそうに頭を掻く。
「でもね」
サンダー・ゴリアテの表情が、急に真剣になる。
「まだまだ序の口だ。本当の強敵は、これからだよ」
「え?」
「今のお前たちじゃ、『四天王』には到底及ばない」
「四天王...?」
さくらが首を傾げると、サンダー・ゴリアテは不敵な笑みを浮かべた。
「エターナル・リングス最強の4人のレスラーさ。奴らと戦えば、お前たちが今どのレベルにいるのか、痛いほど分かるだろうな」
その言葉に、さくらは身震いした。
まだ見ぬ強敵の存在。そして、自分たちの実力不足。
(私たち...まだまだなんだ)
「おや、重苦しい顔をしているね、さくらちゃん」
不意に、軽やかな声が聞こえた。
「美咲さん!」
振り向くと、そこには「紅蓮の虎」美咲が立っていた。
「デビュー戦、おめでとう。予想以上の活躍だったわ」
「あ、ありがとうございます」
さくらは、少し緊張しながら答える。
「でも」
美咲の目が、鋭く光る。
「あの程度じゃ、私には全然及ばないわよ」
「...!」
さくらは、思わず息を飲む。
「ふふ、冗談よ。でも、本当に強くなりたいなら...」
美咲は、さくらの耳元で囁いた。
「明日の夜、裏庭に来なさい。特別に、私の特訓を受けさせてあげる」
そう言うと、美咲はくるりと背を向け、去っていった。
(美咲さんの...特訓?)
さくらの心臓が、高鳴る。
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祝勝会が終わり、さくらとりんごは自分たちの部屋に戻ってきた。
「ねぇ、さくらちゃん」
ベッドに腰掛けたりんごが、心配そうな顔で言う。
「私たち、このままじゃダメなのかな...」
さくらは、窓の外を見つめながら答えた。
「うん...もっと強くならないと」
「でも、どうすれば...」
その時、さくらの脳裏に、美咲の言葉が蘇る。
(明日の夜、裏庭に...)
「りんごちゃん」
さくらが、りんごに向き直る。
「明日から、もっと厳しい特訓をしよう。絶対に、もっと強くなるんだ」
「う、うん!」
りんごの目が、決意に満ちて輝く。
「私たち、きっと四天王にも勝てるようになるよ!」
「そうだね!」
二人は、固く握手を交わした。
その夜、さくらは眠れなかった。
頭の中では、デビュー戦の興奮と、これからの課題が入り混じっていた。
(もっと...もっと強くならないと)
窓から差し込む月の光を見つめながら、さくらは誓った。
(絶対に、トップレスラーになってみせる!)
翌日。
朝早くから、さくらとりんごの特訓が始まった。
「はぁっ!」
さくらの体が、青白い光に包まれる。
「ムーンライトパワー、集中させて...」
目の前に置かれた大きな岩を、重力操作で持ち上げようとする。
「うっ...!」
しかし、岩はわずかに揺れただけで、すぐに元の位置に戻ってしまう。
「くっ...まだダメか」
「大丈夫だよ、さくらちゃん! 少しずつ良くなってるもん!」
りんごが、励ますように言う。
「ありがとう、りんごちゃん」
さくらは、汗を拭いながら微笑んだ。
「よーし、今度は私の番!」
りんごが前に出る。
その小さな体から、かすかに光る粉が舞い散る。
「フェアリーダスト、もっと広範囲に...!」
しかし、光る粉はすぐに消えてしまった。
「むぅ...まだまだだね」
りんごが、頬を膨らませる。
「大丈夫、きっと上手くなるよ」
今度はさくらが、りんごを励ます番だ。
そうして、二人の特訓は昼過ぎまで続いた。
「はぁ...はぁ...」
木陰で休憩するさくらとりんご。
二人とも、疲れ切っていた。
「さくらちゃん、私たち...本当に強くなれるのかな」
不安そうな声で、りんごが言う。
「うん、きっとなれる」
さくらは、強く頷いた。
「だって、私たちにはまだ見ぬ可能性がある。それに...」
さくらは、美咲との約束を思い出す。
(tonight、裏庭で...)
「私たちには、助けてくれる仲間もいるんだ」
「うん! そうだね!」
りんごの表情が、明るくなる。
「よーし、午後からも頑張ろう!」
「そうだね!」
二人は、再び特訓を始めた。
そして、夜。
さくらは、こっそりと裏庭に向かった。
(美咲さん...来てくれるかな)
月明かりだけが照らす裏庭。
そこに、一つの影が佇んでいた。
「来たわね、さくら」
「美咲さん...!」
美咲が、月光に照らされて立っている。
「覚悟はできてる? 私の特訓は、とてもキツイわよ」
美咲の目が、赤く光る。
「は、はい! どんなことでも頑張ります!」
さくらは、固く握りしめた拳を前に突き出した。
美咲は、満足げに笑った。
「そう。じゃあ、始めましょうか」
美咲の体が、炎に包まれる。
「さぁ、お前の限界を超えるんだ!」
こうして、さくらの秘密の特訓が始まった。
彼女の成長の軌跡が、ここから大きく加速していく—
まだ見ぬ強敵、四天王。
そして、自分たちの限界。
さくらたちの前には、多くの壁が立ちはだかっている。
しかし、彼女たちの目は、未来への希望に満ちて輝いていた。
エターナル・リングスの新星、ムーンライト☆フェアリーズの物語は、
まだ序章に過ぎない。
真の戦いは、これからだ。