表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/13

第2話「謎の光に包まれて」


眩い光が消え、さくらの目の前に広がったのは、見たこともない幻想的な景色だった。


「ここは...どこ?」


周囲を見回すさくらの足元には、柔らかな青緑色の草が広がっていた。その草は、踏むとかすかに光を放つ。頭上には、紫がかった空に二つの月が浮かんでいる。一つは青く、もう一つは赤い。


(夢...? いや、違う)


自分の腕をつねってみる。痛みはちゃんとある。現実だ。

突然の状況に戸惑いながらも、さくらの心の中で小さな期待が膨らみ始めていた。


(これが...異世界? まさか本当に...)


スマートフォンに表示されていた「NEW WORLD」。冗談のように思えたアプリが、本当に彼女を別の世界に連れてきたのだ。


恐れと興奮が入り混じる中、さくらは深呼吸をした。

懐かしい練習前のルーティン。それを思い出し、少し落ち着きを取り戻す。


周囲をよく観察してみると、遠くに未来的な街並みが見えてきた。

光る建物が立ち並び、空中を飛ぶ車のようなものも見える。建物の間を縫うように、巨大なローラーコースターのような軌道が張り巡らされている。


(すごい...まるでSFの世界)


呆然と立ち尽くすさくらの耳に、突然、轟音が響いた。


「ガオォォォ!」


振り向くと、巨大な獣が目の前に立っていた。

全身が青い鱗で覆われ、背中には鋭い棘が並ぶ。牙をむき出しにし、赤い目でさくらを睨みつけている。


「ひっ!」


思わず後ずさりするさくら。しかし、獣は一歩一歩近づいてくる。


(どうしよう...逃げても追いつかれる)


さくらの頭の中で、様々な思考が駆け巡る。

そして、ふと気づいた。


(そうだ...私には、レスリングがある!)


長らく忘れかけていた闘志が、さくらの中で再び燃え上がる。

あの日の挫折。それを乗り越える機会が、今ここにある。


獣が飛びかかってきた瞬間、さくらは体を捻って避け、獣の脚に抱きついた。


「せいっ!」


鍛え上げた腕の力で、獣の体を持ち上げる。

そして、大きく後ろに反り返り、獣を頭から地面に叩きつけた。


完璧な背負い投げだった。


「ガクッ」


獣は地面に激突し、動かなくなった。


「はぁ...はぁ...」


激しい呼吸を繰り返すさくら。しかし、その顔には久しぶりの高揚感が浮かんでいた。


(やった...やれた!)


右手首の痛みもない。むしろ、体が軽く感じる。

まるで、あの怪我が嘘だったかのように。


「ブラボー! マニフィセント!」


突然の大声と拍手に、さくらは驚いて振り向いた。


そこには、派手な衣装を身にまとった男性が立っていた。

金色に輝くスーツに身を包み、頭には王冠のような帽子。手には杖を持っている。


「君、素晴らしいねぇ。あんな大型獣を素手で倒すなんて! 実に痛快だ!」


男性は、まるでショーの司会者のように大げさなジェスチャーで話す。


「え...あの、あなたは?」


さくらが尋ねると、男性は華麗にクルリと回転してから一礼した。


「失礼、自己紹介が遅れました。私はマイク・ファンタジア。この世界最高のプロレス団体、『エターナル・リングス』のオーナーにして、夢と希望の伝道師さ!」


「プロレス...?」


さくらの頭の中で、様々な疑問が渦巻く。

地球とは違う世界。なのに、プロレスがある?


しかし、マイクは楽しそうに話を続けた。


「君のような才能ある選手を探していたんだ。どうだい? うちでプロレスラーになってみない? 君なら、きっと観客を熱狂させられる!」


「え? でも、私はレスリング選手で...」


突然の誘いに、さくらは戸惑いを隠せない。

プロレスは、レスリングとは違う。ショー要素が強い。

それに、まだレスリングへの未練も...


マイクは、にっこりと笑いながら手を差し伸べる。


「さあ、新しい世界で、新しい夢を掴もうじゃないか。君の持つ力を、もっと多くの人に見せられる。そして、君自身も新しい可能性を見出せる。それがプロレスさ!」


その言葉に、さくらの心が大きく揺れ動いた。


(プロレス...か)


レスリングとは違う。でも、格闘技としては近い。

そして何より、この異世界で新しい一歩を踏み出せる。


(もしかしたら、ここなら...)


地球では叶わなかった夢。

それを、別の形で実現できるかもしれない。


深く息を吸い、さくらはゆっくりとマイクに手を差し伸べた。


「お願いします。プロレスラーになります!」


マイクの笑顔が更に広がる。


「イエース! これから君の新しい人生が始まるよ。さあ、『エターナル・リングス』へ行こう! 君を待つ、熱狂の舞台へ!」


マイクが杖を高く掲げると、二人の周りに光の粒子が舞い始めた。


こうして、さくらの異世界プロレス生活が幕を開けた。

彼女の目には、新たな希望の光が宿っていた。


異世界で、プロレスラーとして生きていく。

予想もしなかった展開に、さくらの心は期待と不安で満ちていた。


しかし、この選択が彼女の人生を大きく変えることになるとは、

まだ誰も知る由もなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ