第13話「チームワークの真髄」
「はぁ...はぁ...」
朝の特訓場で、さくらとりんごは息を切らしながら立っていた。
四天王ドラグーンとの戦いまで、残り24時間。二人は最後の追い込みに必死だった。
「もう一回!」
さくらが立ち上がる。
「さくらちゃん、少し休もうよ...」
りんごが心配そうに声をかけるが、さくらは首を振る。
「ダメ。まだ完璧じゃない」
二人が取り組んでいるのは、新たな連携技の開発だった。シルバームーン・モードとりんごの妖精魔法を融合させた、究極の技。
「ムーンライト・シルバー・ストーム!」
さくらが银色の光を放ち、りんごがそれに呼応してフェアリーダストを撒く。
しかし—
「あっ!」
タイミングがずれ、二つの力がぶつかり合って小さな爆発を起こす。
「くそっ...!」
さくらが地面を叩く。
「なんで上手くいかないんだ!」
その苛立ちに、りんごは胸を痛める。
「さくらちゃん...」
「もう一回だ!」
さくらが再び立ち上がろうとするが、りんごが止めた。
「待って!」
「え?」
「このままじゃダメだよ。私たち、息が全然合ってない」
りんごの指摘に、さくらは困惑する。
「でも、練習すれば...」
「そうじゃないの!」
りんごが珍しく強い口調で言う。
「技の練習じゃなくて、心の練習が必要なのよ」
「心の...練習?」
その時、特訓場にダイナマイト☆けんじが現れた。
「おい、お前ら。朝からすげー音がしてたが、何やってるんだ?」
「けんじさん...」
さくらとりんごが振り向く。
「新しい連携技の練習ですが、全然上手くいかなくて...」
「ふーん」
けんじが二人の様子を観察する。
「お前ら、最近ギクシャクしてないか?」
「え?」
「特にさくら、お前は焦りすぎだ。りんごのことを信頼してるか?」
「信頼って...もちろんしてます」
「本当か?」
けんじの鋭い質問に、さくらは言葉に詰まる。
「だったら、なんで一人で技を決めようとするんだ?」
「一人で...?」
「さっきの技、お前が主導で、りんごは後追いだった。それじゃタッグじゃない」
けんじの指摘に、さくらははっとする。
「確かに...」
「タッグってのは、二人で一つの技を作り上げることだ。どっちかが主導するもんじゃない」
◇◇◇
けんじのアドバイスを受けて、二人は一旦特訓を中断した。
「さくらちゃん」
食堂で昼食を取りながら、りんごが口を開く。
「何?」
「私のこと、本当に信頼してくれてる?」
突然の質問に、さくらは驚く。
「え? もちろんだよ」
「でも、最近のさくらちゃん、私を置いてけぼりにしてる気がする」
りんごの言葉に、さくらは胸が痛む。
「そんなつもりは...」
「美咲さんとの特訓もそう。最初は隠してたし、一緒にやるようになっても、私はオマケみたいな感じ」
りんごの正直な気持ちに、さくらは何も言えない。
「私ね、さくらちゃんが強くなるのは嬉しいの。でも、一人で強くなろうとしてるのが寂しいんだ」
「りんごちゃん...」
「私たちはタッグよ。一緒に強くなろうよ」
りんごの涙声に、さくらは自分の行動を振り返る。
(確かに...私、りんごちゃんのことを考えずに突っ走ってた)
「ごめん、りんごちゃん」
さくらが深く頭を下げる。
「私、四天王のことで頭がいっぱいで、りんごちゃんの気持ちを考えてなかった」
「さくらちゃん...」
「一人で強くなろうとしてた。でも、それは間違いだった」
さくらがりんごの目を見つめる。
「私たちは一緒よ。これからは、本当の意味で一緒に戦おう」
その言葉に、りんごの顔が明るくなる。
「うん!」
◇◇◇
午後の特訓場。二人は改めて向き合っていた。
「今度は、私たちらしい技を作ろう」
さくらが提案する。
「さくらちゃんらしくて、私らしい技?」
「そう。どちらかが主導するんじゃなくて、二人の個性が融合した技」
二人は座り込んで、真剣に話し合い始めた。
「さくらちゃんの力は重力操作よね」
「うん。で、りんごちゃんは光と飛行」
「だったら...」
りんごが目を輝かせる。
「私が光の道を作って、さくらちゃんがその道に重力の流れを乗せるのはどう?」
「面白そう!」
さくらも興味を示す。
「でも、それだけじゃ攻撃にならないかも」
「なら、最後に二人で相手に突撃するとか?」
「いいね! 試してみよう!」
二人は立ち上がって、新しい技の練習を始めた。
「まず、私が光の道を...」
りんごが妖精魔法を発動。空中に虹色の光の帯が現れる。
「次に、私が重力の流れを...」
さくらがシルバームーン・モードを発動。光の帯に沿って、重力の流れが生まれる。
「そして、一緒に...」
「突撃!」
二人が同時に光の道を駆け上がる。
さくらの重力操作とりんごの飛行能力が完璧に調和し、信じられないスピードで空中を移動する。
「すごい!」
二人は手を取り合い、そのまま仮想的な敵に向かって突撃する。
「シンクロ・ムーンライト・レインボー・ドライブ!」
新技が決まった瞬間、特訓場に美しい光の軌跡が残った。
「やったー!」
りんごが飛び跳ねて喜ぶ。
「すごいね、これ!」
さくらも興奮している。
「今度は息がぴったり合ったね」
「うん! 心がつながってる感じがした」
二人が抱き合って喜んでいると、拍手の音が響いた。
「素晴らしい技ね」
振り向くと、美咲が立っていた。
「美咲さん!」
「見てたのですか?」
「ええ。最後の部分だけだけど、とても美しい技だった」
美咲が微笑む。
「あなたたち、本当のチームワークを見つけたわね」
「本当の...チームワーク?」
「そう。技術的な連携じゃなくて、心の連携」
美咲がさくらたちに近づく。
「最初の頃のあなたたちは、技を合わせることに必死だった。でも今の技は違う」
「どう違うんですか?」
「お互いを信じ合って、自然に技が生まれてる。それが本当のタッグよ」
美咲の言葉に、二人は深く頷く。
「でも」
美咲の表情が急に真剣になる。
「明日の相手は四天王。今の技だけでは足りないかもしれない」
「足りない...ですか?」
「四天王の『天空コンビ』は、エターナル・リングス史上最強のタッグチームの一つ。正攻法では勝てない」
その言葉に、さくらとりんごの表情が曇る。
「なら、どうすれば...」
「奇跡を起こすのよ」
美咲が二人を見つめる。
「あなたたちにしかできない、奇跡を」
「奇跡...」
「そのためには、今日見せたチームワークをさらに深める必要がある」
美咲が提案する。
「今夜、最後の特訓をしましょう。私も全力でサポートする」
「はい!」
二人が元気よく答える。
◇◇◇
その夜、月明かりの下で最後の特訓が始まった。
「今度は、相手がいることを想定して練習しましょう」
美咲が炎の分身を複数作り出す。
「この分身を相手に、新技を試してみて」
「はい!」
さくらとりんごが構える。
「行くよ、りんごちゃん!」
「うん!」
二人の連携は、もはや完璧だった。
りんごの光の道とさくらの重力操作が融合し、美しい軌跡を描きながら炎の分身を倒していく。
「素晴らしい...」
美咲が感動の声を上げる。
「でも、まだもう一つ何かが必要ね」
「もう一つ?」
「最後の決め技。相手を完全に倒すための」
美咲が考え込む。
「あなたたちの絆を形にした、究極の技が」
その時、さくらに閃きが降りてきた。
「りんごちゃん!」
「何?」
「私たちの絆って、友情よね」
「うん、そうだよ」
「だったら、その友情の力を技に込めるのはどう?」
りんごの目が輝く。
「それ、いいアイデア!」
二人は顔を見合わせ、同時に笑った。
「友情の力を込めた技...」
「私たちにしかできない技」
二人が手を取り合う瞬間、不思議な光が生まれた。
さくらの银色の光とりんごの虹色の光が混ざり合い、今まで見たことのない美しい色を作り出す。
「これは...」
美咲が息を呑む。
「友情の光...」
二人の周りを、温かい光が包み込む。
それは技術ではなく、純粋な心から生まれた力だった。
「明日、この力を信じて戦いなさい」
美咲の言葉に、二人は強く頷いた。
「はい!」
「絶対に勝ちます!」
こうして、さくらとりんごは真のチームワークを手に入れた。
技術的な連携を超えた、心の絆から生まれる力。
四天王との戦いを翌日に控え、二人の準備は整った。
果たして、友情の力は四天王を倒すことができるのか。
月が静かに、二人の挑戦を見守っている—
運命の戦いが、ついに始まろうとしていた。