第12話「月の引力、制御せよ」
「うあああああ!」
さくらの絶叫が、特訓場に響き渡る。彼女の体を包む银色の光が、まるで生き物のように暴れ回っていた。
「さくらちゃん!」
りんごが必死に呼びかけるが、さくらには届いていない。
周囲の重力が異常な値を示し、床のマットが浮き上がったり、逆に圧縮されて凹んだりしている。
「みんな、離れろ!」
ダイナマイト☆けんじが大声で指示を出す。特訓場にいた他のレスラーたちが慌てて避難する。
「これは...まずいぞ」
けんじの顔が青ざめる。これまで見たことのない規模の暴走だった。
それは、3日前から始まった美咲とりんごを交えた合同特訓での出来事だった。
◇◇◇
《3日前》
「よし、今日から3人での特訓を始めるわよ」
美咲が夜の裏庭で宣言する。
「はい!」
さくらとりんごが元気よく返事する。
「りんごちゃん、美咲さんの特訓は本当にキツイよ」
「大丈夫! 私も頑張る!」
りんごの意気込みに、美咲は微笑む。
「いい心意気ね。では、まずはさくらのムーンライトパワーの応用から始めましょう」
美咲がさくらに向き直る。
「前回、银色の光が出たでしょう? あれを安定させる練習をするの」
「はい!」
さくらが両手を前に突き出し、集中する。
「ムーンライトパワー...」
青白い光が現れ、徐々に银色へと変化していく。
「そう、その調子! でも、もっと力を込めて」
美咲の指示に従い、さくらがさらに集中する。
すると—
「うっ!」
突然、さくらの体を激しい痛みが襲う。
「さくらちゃん!」
りんごが心配そうに駆け寄る。
「大丈夫...まだやれる」
さくらが立ち上がり、再び力を込める。
しかし、その瞬間—
「きゃあ!」
银色の光が爆発的に増大し、さくら自身も宙に浮き上がってしまう。
「制御できない...!」
必死にもがくさくらを、美咲が炎で包み込んで暴走を止める。
「今日はここまでよ」
「でも、まだ...」
「無理をしてはダメ。力の制御は段階的に習得するものよ」
美咲の言葉に、さくらは不満そうな表情を浮かべる。
(でも、四天王との戦いが近づいてる...急がないと)
◇◇◇
《2日前》
「もう一度、挑戦させてください」
さくらが美咲に頼み込む。
「さくらちゃん、焦りすぎだよ」
りんごが心配そうに言うが、さくらは聞く耳を持たない。
「分かったわ。でも、今度は私とりんごで安全装置を作るから」
美咲とりんごが、さくらの周りに炎と光の障壁を張る。
「行きます!」
さくらが再びムーンライトパワーを発動。
今度は最初から银色の光を出そうとする。
「シルバームーン・モード!」
しかし—
「うわあああ!」
光が暴走し、障壁を突き破る。
「危ない!」
美咲が咄嗟にりんごを庇う。
「美咲さん!」
美咲の腕に火傷のような傷ができていた。
「すみません...すみません!」
さくらが泣きながら謝る。
「大丈夫よ。でも、もう今日は止めましょう」
美咲の優しい声に、さくらの罪悪感は増すばかりだった。
◇◇◇
《1日前》
「さくらちゃん、少し休もうよ」
りんごが提案するが、さくらは首を振る。
「ダメ。まだ制御できてない」
「でも、無理したら—」
「無理なんかじゃない!」
さくらが少し強い口調で言う。
りんごは、そんなさくらを心配そうに見つめる。
「私には時間がないの。四天王との戦いまで、あと少ししかない」
さくらが一人で特訓を続ける。
しかし、集中すればするほど、力は暴走しやすくなっていた。
「くそっ...なんで制御できないんだ」
さくらの苛立ちが、力の不安定さに拍車をかける。
◇◇◇
《現在》
「さくらちゃん、聞こえる!?」
りんごの必死の呼びかけに、ようやくさくらが反応する。
「り...りんごちゃん...?」
「そうよ! 私よ! 落ち着いて!」
しかし、さくらの周囲の银色の光は収まらない。
「制御...できない...」
さくらの声が震える。
その時、特訓場に美咲が飛び込んできた。
「さくら!」
美咲が炎の障壁を張りながら近づく。
「美咲さん...危険です...」
「馬鹿を言わないで。私があなたを見捨てるわけないでしょう」
美咲の言葉に、さくらの目に涙が浮かぶ。
「でも...私、制御できない...みんなを傷つけちゃう」
「大丈夫。一人じゃないから」
美咲がさくらの手を取る。
「りんごも来なさい」
「え? でも...」
「大丈夫よ。私たちで、さくらを支えるの」
りんごが勇気を出して、さくらの反対の手を取る。
「さくらちゃん、私たちがついてるよ」
二人の温かい手に触れた瞬間、さくらの心が落ち着き始める。
「みんな...」
「力を一人で抱え込む必要はないの」
美咲が優しく言う。
「私たちが一緒にいる。だから、恐れないで」
「そうだよ! 私たち、親友でしょ?」
りんごの言葉に、さくらは深く頷く。
「ありがとう...二人とも」
さくらが深呼吸をする。すると、暴走していた银色の光が、徐々に穏やかになっていく。
「そう、その調子。力をコントロールするんじゃない。力と調和するの」
美咲のアドバイスに、さくらは新たな気づきを得る。
(そうか...制御じゃなくて、調和...)
さくらがその感覚を掴んだ瞬間、银色の光が美しく輝き始める。
暴れ回っていた重力も、穏やかな流れに変わる。
「すごい...」
りんごが息を呑む。
さくらの周りを、银色の光の粒子が舞い踊っている。それはまるで、夜空の星のように美しかった。
「これが...シルバームーン・モードの真の姿」
美咲が感動した声で呟く。
「やったね、さくらちゃん!」
りんごが飛び跳ねて喜ぶ。
「うん...みんなのおかげ」
さくらが涙を流しながら笑う。
しかし、その時—
「ほう、面白いものを見せてもらった」
突然、低い声が響く。
三人が振り向くと、そこには見知らぬ男性が立っていた。
全身を青い電気が包み、その目は稲妻のように光っている。
「あなたは...」
美咲の顔が青ざめる。
「初めまして、ムーンライト☆フェアリーズ」
男性が不敵な笑みを浮かべる。
「俺は『雷神ドラグーン』。お前たちと戦うために来た」
その名前に、さくらとりんごは震え上がる。
「し、四天王の...」
「そうだ。そして今、お前のシルバームーン・モードを見せてもらった」
ドラグーンがさくらを見つめる。
「なかなか面白い力だ。だが、まだまだ未熟だな」
「未熟って...」
「本当の力を見せてやろう」
ドラグーンが手を上げると、特訓場全体に雷が走る。
「きゃあ!」
りんごが悲鳴を上げる。
「やめなさい!」
美咲が炎で対抗しようとするが、ドラグーンの雷はそれを上回る。
「美咲さん!」
さくらが立ち上がる。
「お前たちと本格的に戦うのは明後日だ」
ドラグーンが電撃を収める。
「それまでに、もっと力を磨いておけ。でないと、つまらない戦いになる」
そう言うと、ドラグーンは雷と共に消えていった。
「すごい威圧感...」
さくらが震え声で呟く。
「あれが四天王の力...」
美咲も顔を青ざめている。
「さくらちゃん...大丈夫?」
りんごが心配そうに声をかける。
「うん...でも、分かった」
さくらが立ち上がる。
「私、まだまだ弱い。シルバームーン・モードができたからって、調子に乗ってた」
「さくらちゃん...」
「でも、諦めない。みんながいてくれるから」
さくらがりんごと美咲を見つめる。
「一緒に、もっと強くなろう」
その言葉に、二人は笑顔で頷いた。
「そうね。まだ時間はある」
「うん! みんなで頑張ろう!」
こうして、さくらは新たな力を手に入れた。
しかし同時に、四天王の圧倒的な実力も知ることになった。
残された時間は僅か。
彼女たちに、奇跡を起こすことはできるのか。
月の光が、三人の決意を照らしている。
その光は、希望の象徴のように見えた—
しかし、真の試練は、これから始まるのだった。




