第11話「タッグの絆、試される時」
「えー、本日の試合は、ムーンライト☆フェアリーズ対サイバー・ツインズです!」
場内アナウンスが響く中、さくらとりんごは控室で最後の準備をしていた。
「さくらちゃん、大丈夫?」
りんごが心配そうに声をかける。さくらの表情は、いつもより硬く見えた。
「うん、大丈夫だよ」
そう答えるさくらだったが、実際は昨夜の美咲との特訓の疲れが残っていた。そして何より、りんごに秘密を隠し続けていることの罪悪感が重くのしかかっている。
「本当に? なんだか元気ないよ」
「心配しないで。試合になれば大丈夫だから」
しかし、その言葉とは裏腹に、さくらの心は複雑だった。
(りんごちゃんとの連携...上手くいくかな)
◇◇◇
リングサイドでは、観客たちが熱い声援を送っている。
「がんばれー! ムーンライト☆フェアリーズ!」
「りんごちゃーん! かわいいよー!」
その声援に、りんごは嬉しそうに手を振る。しかし、さくらは上の空だった。
「おい、さくら」
ダイナマイト☆けんじが近づいてくる。
「けんじさん」
「顔色が悪いぞ。体調は大丈夫か?」
「はい、問題ありません」
「そうか...ならいいが」
けんじは心配そうにさくらを見つめる。
「今日の相手のサイバー・ツインズは手強いぞ。お前たちの連携技を封じてくる可能性が高い」
「連携技...」
さくらの表情が曇る。最近、りんごとの息が合わないことが多い。
「大丈夫です! 私たち、ちゃんと練習してますから!」
りんごが元気よく答える。しかし、その言葉にさくらは少し罪悪感を覚えた。
(練習...最近、りんごちゃんとの練習時間、減ってるかも)
「よし、じゃあ行ってこい。お前たちなら必ず勝てる」
けんじに送り出され、二人はリングへと向かう。
◇◇◇
「さあ、対するはサイバー・ツインズ! エリカとミカの双子コンビです!」
相手チームが登場する。全身をメタリックなコスチュームで身を包んだ双子の少女たち。その目は機械のように冷たく光っている。
「データ収集完了」
「ムーンライト☆フェアリーズの弱点、把握済み」
二人が機械的な声で話す。
「え...弱点って」
りんごが不安そうにつぶやく。
「大丈夫、負けないよ」
さくらが答えるが、その声にいつもの力強さがない。
「試合開始!」
ゴングが鳴り響く。
エリカが最初にさくらに向かってくる。機械のように正確な動きで、連続パンチを繰り出す。
「くっ!」
さくらは必死にかわすが、相手の動きは予想以上に速い。
「さくらちゃん!」
りんごが援護に入ろうとするが、ミカに阻まれる。
「フェアリーは後回し。まずはムーンライトを潰す」
「計算通り」
サイバー・ツインズの冷静な連携に、さくらたちは困惑する。
「ムーンライト・グラビティ!」
さくらがムーンライトパワーを発動するが—
「回避行動開始」
エリカが機械のような動きで、重力操作を完全に回避する。
「そんな...!」
「データ分析の結果、あなたたちの連携には0.3秒のタイムラグがある」
「それを突けば、勝利は確実」
サイバー・ツインズの冷酷な分析に、さくらとりんごは青ざめる。
「0.3秒のタイムラグって...」
りんごが困惑する。確かに最近、息が合わないことが多かった。
「りんごちゃん、いつものやつを—」
「うん!」
りんごがフェアリーダストを撒く。しかし、タイミングがずれている。
「タイムラグ確認。今だ」
エリカとミカが同時に攻撃を仕掛ける。
「きゃあ!」
りんごが吹き飛ばされ、リングの外に落ちる。
「りんごちゃん!」
さくらが駆け寄ろうとするが、エリカに阻まれる。
「サイバー・インパクト!」
電撃を纏った拳が、さくらの腹部を直撃する。
「ぐはっ!」
さくらがマットに倒れ込む。
「第一段階完了。次は...」
ミカがりんごに近づく。
「フェアリーには電撃が効果的」
「やめて!」
さくらが立ち上がろうとするが、体が動かない。
その時—
「さくらちゃん! 私のこと、信じて!」
りんごの声が響く。
「え?」
「私たちは親友でしょ! だから、お互いを信じよう!」
りんごの真っすぐな瞳に、さくらは衝撃を受ける。
(そうだ...りんごちゃんは、いつも私を信じてくれてる)
「りんごちゃん...ごめん!」
さくらが立ち上がる。体に力が戻ってくる。
「今度こそ、息を合わせよう!」
「うん!」
二人が見つめ合う瞬間、何かが変わった。
「データエラー。パラメータに変化」
サイバー・ツインズが戸惑う。
「行くよ、りんごちゃん!」
「うん!」
今度は完璧に息が合った。
りんごのフェアリーダストが舞い、さくらのムーンライトパワーがそれを包み込む。
「ムーンライト・フェアリー・ストーム!」
光る粉が重力操作によって竜巻状になり、サイバー・ツインズを包み込む。
「システムエラー...視界不良...」
「計算外の事態...」
混乱するサイバー・ツインズ。
「今だ!」
さくらとりんごが同時に飛び上がる。
「ムーンライト・フェアリー・ボンバー!」
さくらの重力操作とりんごの飛行能力が完璧に融合した新技が炸裂する。
「システム...ダウン...」
サイバー・ツインズが倒れる。
「勝者、ムーンライト☆フェアリーズ!」
場内が大歓声に包まれる。
◇◇◇
控室に戻ると、二人は抱き合って喜んだ。
「やったね、さくらちゃん! 新しい技、すごかったよ!」
「りんごちゃんこそ! あの時、信じてって言ってくれたから...」
さくらの目に涙が浮かぶ。
「実は...最近、ちょっと悩んでることがあって」
「やっぱり! 私、分かってたよ」
「え?」
「さくらちゃん、隠し事してるでしょ?」
りんごの言葉に、さくらは驚く。
「り、りんごちゃん...」
「でも、いいの。今は話せないこともあるって、分かってるから」
りんごの優しい笑顔に、さくらは胸が熱くなる。
「ただ一つだけ、約束して」
「何?」
「困った時は、一人で抱え込まないで。私はさくらちゃんの親友だから、いつでも力になるよ」
その言葉に、さくらは深く頷いた。
「うん...ありがとう、りんごちゃん」
「えへへ、それでいいの!」
りんごの屈託のない笑顔に、さくらの心が軽くなる。
(そうだ...りんごちゃんがいれば、どんな困難も乗り越えられる)
その時、ノックの音が響いた。
「おめでとう、いい試合だったわ」
美咲が入ってくる。
「美咲さん!」
「特に最後の新技、見事だった。お互いを信じ合っているからこそできる技ね」
美咲の言葉に、さくらとりんごは嬉しそうに笑う。
「でも」
美咲の表情が急に真剣になる。
「次の相手は、もっと手強いわよ」
「次の相手?」
「四天王の一人、『雷神ドラグーン』があなたたちに挑戦状を送ってきた」
その言葉に、さくらとりんごは青ざめる。
「し、四天王!?」
「正確には、雷神ドラグーンと彼のパートナー『疾風カミカゼ』とのタッグ戦よ」
美咲が深刻な表情で続ける。
「彼らは『天空コンビ』と呼ばれていて、エターナル・リングス最強のタッグチームの一つ」
「最強の...」
さくらが息を呑む。
「でも、逃げるわけにはいかない。向こうから指名してきたということは、あなたたちの実力を認めているということでもある」
「私たちの...実力を?」
りんごが驚く。
「そう。だから、しっかり準備をしなさい。特に、今日見せた新技をもっと磨く必要がある」
美咲がさくらを見つめる。
「あなたたちなら、きっとやれる」
その言葉に、さくらは決意を新たにする。
「はい! 頑張ります!」
「私も頑張る!」
りんごも元気よく答える。
美咲が去った後、二人は顔を見合わせる。
「四天王かぁ...すごいね」
「うん...でも、やってやろう!」
さくらの目に、強い決意の光が宿る。
「私たちには、今日完成させた絆がある。それがあれば、どんな相手でも—」
その時、さくらの脳裏に美咲の言葉が蘇る。
(特訓をもっと厳しくしないと...でも、りんごちゃんとの時間も大切にしたい)
複雑な想いが交錯する中、さくらは一つの決断を下した。
「りんごちゃん」
「何?」
「実は...私、美咲さんに特別な特訓をしてもらってるの」
りんごの目が丸くなる。
「え!? それって...」
「秘密にしててごめん。でも、強くなりたくて...」
さくらが頭を下げる。
「さくらちゃん...」
りんごは少し考えてから、にっこりと笑った。
「分かった! なら、私も一緒に特訓したい!」
「え?」
「二人で強くなろう! そうすれば、四天王にも負けないよ!」
りんごの前向きな提案に、さくらは驚く。
「でも、美咲さんの許可が...」
「聞いてみようよ! きっと大丈夫だよ!」
りんごの明るさに、さくらの心も軽くなる。
(そうだ...一人で抱え込む必要なんてない)
「うん! 一緒に美咲さんにお願いしてみよう!」
「やったぁ! 楽しみ!」
りんごが飛び跳ねる。
こうして、さくらとりんごの絆はさらに深まった。
秘密を共有し、共に困難に立ち向かう決意を固めた二人。
四天王との戦いは確実に近づいている。
しかし、二人の心には恐れよりも期待の方が大きかった。
なぜなら、今日の試合で確信したから。
お互いを信じ合えば、どんな困難も乗り越えられると。
月光と妖精の魔法が奏でる新たな物語。
それは、これからさらに輝きを増していく—
エターナル・リングスの新星たちの挑戦は、まだ始まったばかりだった。