表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蛸壺  作者: 双葉紫明
1/1

第1話

 祖父が生きてた時に聞いた話。


 祖父たちの広島の部隊は、九州の南の方へ行って、上陸して来る米兵を足止めすべく砂浜に穴を掘って三日三晩その中で息を潜めて待つと云う、本土侵略の足止めの為の捨て駒としての任務(もちろん死ぬ筈だった)に就いたが為に、原爆から逃れ、米兵も来ず、生き延びてしまったという事で、すっかり禿げた頭をこすりながら、「わしはあんときから、蛸じゃけえ」が決まり文句だった。

 酒を食らったその頭は真っ赤っ赤で、本当に蛸みたかったけれど、赤くなるのは生きながらに茹でられてからだと大人になってから知ると、なんにもなりきれなかった祖父の悲哀と自嘲を今更ながらに感じてしまう。


 子供の頃は、何度も繰り返し聞かされるその話が面倒だったし、何故僕にそんな話をするのか?痴呆をすら疑った。


 蛸壺壕。蛸ならそこで生きるのだろう。しかし祖父の部隊が負った任務は、自らの墓穴を掘り、そこに自ら入って潜み、止められる筈もないとわかりきってる敵をせいぜい面食らわせて、少しの面倒事を起こして僅かにでもその侵攻を遅らせる。そんな作戦であった。


 祖父は酢だこが大好きで、それでよく日本酒をあおりながら「共喰いじゃあ、くくくっ」と泣き笑いみたいになっていた。幼い僕は、わさびを付けすぎなんじゃないかと思っていた。


 そういえば、祖父がちゃんと笑ったのを見た記憶は、僕にはひとつもなかった。


 僕は祖父を好きだったけれども、祖父が死んだ日にはなぜだか良かったなと思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ