第七話 vs遠足
唐揚げを平らげたアリスは、ベッドに寝そべっていた。
リーデルの、丈の短いドレスの様な制服を纏ったまま、皺も気にせず寝そべっている。
「見せちゃ駄目だったかもなの」
先日、器物損壊で止められた手刀に続き、今回の謎の魔法。
不審がられていることはすでに承知だ。
少なくとも、手刀を止めた生徒会長は不審さに気づいている。
自身の出生について。しかしまだ語るときではないだろう。
にょにょっとイモムシ状態で風呂場まで行くと、風呂に入った。
例に漏れず(n回目)だだっ広い風呂に浸かる。
静まった風呂場に、チャポンっとアリスが湯に浸かる音が響く。
「無駄に孤独を感じさせてきやがるの」
ぼそっと呟くが、これすらもさらに風呂場に静けさを増幅させる。
と思ったら。
突如、アリスの眼前にナイフが映った。
湯船でウトウトし出していたアリスは、目を瞑ったまま顔を左に逸らした。
「さすがに風呂場乱入はいい度胸過ぎるの」
一本避けたと思ったら、続けて数本のナイフが打ち込まれる。
全てをひょいひょいっと避けきると、そこでようやくアリスは立ち上がった。
薄い桃色に染まった白い肌が映える。
身長のせいで、女性的な体つきはないが、鍛えていた、という話は嘘ではないらしく、所々筋肉がついているのが分かる。
襲撃者を迎え撃つつもりで立ち上がったアリスだったが、いっこうにその正体は現れない。
「おもんないの・・・」
何が面白いのやら。
風呂から上がったアリスは、ワンピース型のネグリジェを身につける。
制服は支給されるが、それ以外の衣類は持ち込みとなっている。
(レジャー施設に店が入っているので買うことも出来る)
お気に入りの水色のネグリジェを選ぶと、アリスはさっさとベッドに潜った。
しかし、もぞもぞと顔だけを布団から出すと、ベッド脇のテーブルに手を置いた。
何かを探しているらしく、目を閉じたまま、手探りで、あるものを取った。
それはリーデルの資料と変わらないほど分厚い本だった。
そっと開くと、明らかに古いと分かるほどの質の紙と薄れたインクが目に入る。
魔導書だった。
毎日、少しずつ読み進めている。
祖母、母から受け継いでいでいる魔導書で、謎魔法の出所はここだ。
今日の分は・・・「動物の種類を変える魔法」
今回はしょうもない内容みたいだ。
・・・ほうほう。何かを蚊に変えることも出来るらしい。中々面白そうだ。
睡魔に襲われ、本を額の上に落としたところで、ようやくアリスは布団に潜り直した。
「っったーーー・・・」
分厚いため、無論重さも異常な本を顔面に直撃させた痛みは計り知れない。
悲痛な叫びが静かな部屋に響く。
と思ったらすぐに寝息の音が聞こえだした。
入学からある程度時間が経った頃。
大体の学校では遠足やらの時期だろうが、無論ここにそんな概念は・・・ある!?
とはいえ、リーデルは入学したら卒業まで、外出が禁じられている。
一応機会がないことはないらしいが。
話を戻して遠足。
リーデルはそこらの街よりも広い。
遠足をするに十分なスペースはある。
スペースは、だ。
遠足らしいスポットがあるとは誰も言っていない。
例に漏れず殺し合い遠足となるのであった・・・。
「終わってるの。遠足が迷宮って何なの」
一年生諸君は、学校内のダンジョン前にいた。
遠足と言われたため、少し浮かれた生徒たちも、この光景を見れば唖然とするしかない。
「今回の遠足は迷宮探索だ。最深部には教員が待機している。そこまで辿り着くことが帰寮の条件だ。では、せいぜい頑張ってくれ」
部屋から一歩も出なくても卒業出来るって言ってたのは誰?
入学から三週間。
初めこそ、殺し合いという概念を警戒しすぎて群れなかった一年生も、時間が経てばグループが出来はじめていた。
本人の噂と性格故にボッチのアリスは例外だが、一学年だけで数百人もいれば、一人ぐらいは気の合う人が見つかるようだ。
中には、数十人を従える司令塔までいる。
それなりに魔法使いたちにもコミュ力は存在しているのかもしれない。
アリスにだけ注目しているが、彼女は学年の戦歴pは現在二位に位置している。
つまりは彼女よりも上がいるということだ。
それが、約80人を従える司令塔、フィリル・アリノドル。
まさかの女子。どうやら入学前から知名度も高いらしい。
手入れの行き届いた長い金髪と、どこをとっても整っている容姿。
どことなく容姿はアリスに似ている気もする。(アリスにはあんな豊満なものはないが)
本人にそこまで殺しのセンスはないが、圧倒的な統率力で部下を作り続けている。
ダンジョン攻略となれば、人手も多いに超したことはないだろう。
期限は日没まで。
クリア出来なかった場合はダンジョン生き埋めの刑らしい。罪味を一切感じない罪である。
冷たすぎる教師からの説明が終わるや否や、一気に周囲でグループでの会合がスタートしていた。
勿論2,3人のグループが多くを占めているため、すぐにダンジョンに足を踏み入れる者もいる。
が、そんな足突っ込んだ組の悲鳴がすぐに聞こえてきたことで、ダンジョン前の空気は凍った。
「みんな朝から元気なの」
そんな中アリス嬢は何をしていたのかというと。
早朝からの活動にダウン中だ。
椅子なんてある訳はないので、自分で雲を作り出して座っている。
入ってすぐの連中から悲鳴が聞こえてきたということは、入ってすぐの場所に大ボスが待機しているのか。それとも単純に馬鹿が罠に引っかかっただけなのか。
どちらにせよ、自分で確かめないとどうしようもないだろう。
「一番乗りがどうでもいいほど、希薄ではないの」
雲からひょいっと飛び降りると、アリスもダンジョンに足を踏み入れた。