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ePISODE tRACK[3] = hI-lO//ハイ・ロウ(姉妹)

唐突な衝撃。

じりじりと上がる体温。

今まで感じていた恐怖や危機感、緊張に熱を帯びる。熱い。"デッドベルト"が二進数の影を見せた途端に、血が全身に巡り停止していた痛覚機能が一瞬でアクティベートされていた。脳が感じる特定の心地よいビートがテンポを上げて勝手に鳴り出す。それがじわじわと痛みの生々しさを実感させていく。アドレナリンが分泌。コルチゾール上昇。覚醒した身体は作り物女のナイフを反射で避ける。こいつマジで殺しに来てやがる。

 ふざけるな。

「質問に答えてやったのにそれはないだろ!」

 必死に排水管から逃げようとした。が、女の腕力の前に歯が立たず、簡単に押し倒される。女はローブの下に何故か学校の制服を着ていた。ああどのかで見た事があるような……いや今はいい。それより気になるのは腰に刀の鞘みたいなのをぶら下げてる点。マジかよ。パンクスは自動的に解放されてるが助けてくれそうにない。奥で伸びてやがる。どかん。ロケラン怖い。

「目的を実行するために貴様に尋ねただけだ。仲良くしてやる、なんぞ言ったか? 雪日向」

「くっ! どうして俺を殺そうと――」

 俺の必死の言葉と反対に無機質に振りかざされたナイフを避けた瞬間、排水管の外で行われた爆撃乱舞が一気に近づいた。おいおい、この状態でやつらにぶっ放されたら、刺殺よりも酷い結果になるって事か? 今までシアイに感じ得なかった本物の恐怖が頭を硬直させる。あのアクセサリ一つで状況変わり過ぎだろ。これは"ゲーム"だった筈なのに。

「ぐぉっ!」

 体勢を変えてナイフの手から逃れる。反射的に支え手になった左手首にはひび割れた"デッドベルト"がなんとか原型を留めて存在している。まだ完全に壊れてはいないようだ。

「ちッ、邪魔が入る前にさっさと……!」

 と、そこに。

「わああぁー!! セッケーたーすーけーてー!」

 空気を読まずに飛び込んできたもう一人の女が居た。ちょうど排水管に逃げ込んだようで、押し倒されてる俺と目が合う。

「って、こんなとこで何してるの!? あと誰その人!」

「バカお前、そんな堂々とここに入ってきたら敵にバレるだろ!」

 察した。ロケラン野郎が近づいてきたのは、こいつの隠れ場所がばれて逃げて来たからだ。

 ……いや、結果的には良いのか。刺殺されずに済んだから……爆殺される可能性と交換だと意味ないが。

「仲間が居たか。ふん、目の前の目的に集中し過ぎたようだ。仕方ない。貴様を殺すのはこの後としよう」

 女がナイフを懐へしまいレンダを押し除けて排水管の外に身を乗り出す。すぐ側までロケラン野郎が来ているようで女もタイミングを見計らって外に出ると、振り返り様、フードを被り直し例の冷たい声音で俺たちに向かって言った。

「我が組の礼儀として名乗りだけ返してやろう。私は天倉宇月。由緒正しき天倉の"黒キ血沢"を宿した、水上(みなかみ)の地の一族、その主だ」

「天倉――」

「ではな」

 爆撃を動ぜず俊敏な動きで女――天倉宇月は去っていった……さすがにまさかだった。何故、あの<天倉組>の"頭領"が一人でこんな小規模のシアイに潜んでいた。しかも、<天倉組>というあれほどの勢力を持つクラブの人間が、殆ど俺と歳が変わらない女で、最適化を逃れた人間の一人だというのにも疑問は残る。それに

「"デッドベルト"を壊せるウェポン、だと」

 普通は破壊不能のアクセサリである"デッドベルト"を壊せるあのナイフ。つまり物理的に破壊出来る、実武器。そしてあの圧倒的な敵を抑え込む力。俺を文字通り殺そうとし、最適化を受けなかったと言った<天倉組>の頭。

 くそ、厄介な展開になったな。

「……この件は<天倉組>も一枚噛んでいるのは理解してたが、あんなのも関与してたとはな。肝を冷やした……おいレンダ。詳しい話は後でするから、とにかくこっから出るぞ。パンクスを運べるか?」

「え、パンクス運ぶの? 別にいーけど、ヒットポイント無いなら死んじゃった方が早くない?」

「それだと、本当にこの男が死んじまう」

 俺の言ってる事が理解出来てない様子だが説明する暇はない。居場所が特定された以上、一刻を争う。こっちはマジのデッドオアアライブの雰囲気だからな。

「……弾切れだ。エイミー、リロードの時間を寄越せ……すまん、ツキコ。このステージは暗くて敵の位置が見えづらくてな……ああ、分かった。頼んだぞ」

 ロケラン野郎の声が微かに耳に入る。無線を使用しているのか、ところどころ会話が途切れているが、なんとなく状況は掴めた。

 排水管から顔だけ出してロケラン野郎を確認。ちょうどレンダが隠れていた階段辺りに黒光のアーマー姿の男が見える。

「レンダ、あいつのリロードが終わるタイミングで一気に駆ける。大丈夫そうか」

 伸びているパンクスを無理やりに背負ったレンダが頷く。こいつは人を背負ってても俺なんかの比じゃないくらい足が速い。行けるさ。あとは相手のリロードを待つだけだ。

「でもセッケー、なんでリロードが"終わる"タイミングなの? リロードの最中の方が良くない?」

「……俺も最初はそう考えた。けど、セオリーとして前衛がリロード中の時は仲間が警戒を強める。さっきの無線のやり取りから、やつらの構成は前衛のロケラン野郎と、影で走り回っているもう一人、そして別の位置から俺らを狙うスナイパー役がいる。おそらく、さっき俺がキルされたのはスナイパー役のせいだ。レンダそいつにやられた」

 頭の中で敵の動きを描きつつレンダに相手の位置を把握させる。自分がキルされた状況から見て、対面する前衛に気を取られていたが、あの突然被弾した感じは、明らかに視覚外からの攻撃だった。しかも飛んできたのがロケランだったのが予想外だった。普通スナイパー役は射程と性能からレーザーガンを使用するが、逆にレーザーの発射でスナイパー役が居るのに気付かれる。その難点を上手く前衛とウェポンを被せて誤魔化してたってところだろう。

「スナイパー役……? でもランチャーだと無理じゃない? しかもこんな狭いステージで別位置から狙うなんて……」

 途中まで言うと、レンダは俺の言わんとしている事に気付いたようで、表情を険しくさせた。

「そっか、だから"ゴースト"なんだね」

 相手の様子を窺いながら頷く。そうだ。今まで見て来た"ゴースト"は専らプレイヤーの壁抜けや無敵化といった、プレイヤー自身をフセイする行為だった。

 だが、今回のはプレイヤー自身ではないのだ。

 ウェポンの壁抜け。オブジェクト無視。これなら、やつらが狭いステージでキルを大量に取れるのも合点が行く。しかも前衛を組んでの"ゴースト"。小賢しいったらありゃしない。

 ロケラン野郎がリロードを終えようと装弾数をチェックする。ここだ。このタイミングは、仲間含め全員の注意が散漫になる。俺はレンダに合図すると死地へ口火を切った。

「いくぞ」

 相手が仲間へのリロード完了を示そうとした瞬間、一気に排水管から抜け出す。

 視界は見にくいが、それは相手も同じ事。すぐには狙いを定められない。

「なっ……! エイミー、敵が動いた。襲撃を……おいエイミー聞いてるか!」

 相手がもたついてるのを尻目に、柱の間を縫ってちょうど角になっている水辺に身を潜める。"デッドベルト"が壊れるとこんなに息が荒くなるんだな、などと実感しつつ次の一手を考える。結局シアイから抜け出すには規定数のキルが必要。もちろんノーデッドでのキルだ。レンダにうちらの【キル数】を確認すると8との返答が返ってくる。地味にレンダがキルしてたのが効いてたか。規定数の10キルまであと2つ。ここで決めて抜け出してやる……!

「レンダ。パンクスを前に出さずに仕留めるプランで行こう。ここの水辺は角になってる関係で行き止まりになってる。だからボーッとしてると、"高い位置"から狙ってるスナイパー役の恰好の的になるんだ……この意味分かるな?」

 俺がアイコンタクトをするとレンダは一瞬戸惑ったような顔をしたが、背負っていたパンクスを下ろしてチェンソーを手に持った。

「そーいう事ねっ。まかして!」

「"近道"のためだ、全力で死んでこい」

「うん。そして全力でぶっ殺す!」

 物騒な事を言い合って、敵と対峙する。作戦はいつだって簡単だ。そうじゃないと脳筋には理解できないし、アクショナルブルじゃないだろ。人間、タスクは簡単にしないと達成力が低いものさ。さあ、俺は俺で死なないようにしなきゃな。

 ロケラン野郎が姿を現す。同時、敵の小回り役の姿も確認できた。ここは行き止まり。こそこそ影に隠れる必要もないという事か。

「作戦開始だ!」

 相手が爆撃を開始。レンダが前進してロケラン野郎に突っ込む。尽かさず小回り役がハンドガンをレンダに向ける。だがそれは想定済み。そんな丸腰は殺してくれって言ってるのと同じだ。

「……ぐはっ! な、レーザー、だと……!」

 俺の発射した弾丸に小回り役は怯む。撃ったのは鉛玉じゃなく、レーザーであったが。

 そう。先ほどレンダがキルしたやつから奪ったレーザーガンに切り替えて反撃した。"デッドベルト"が無いとウェポンは使えない筈だが、この感じ俺のは完全に壊された訳じゃないらしい。僥倖だ。こいつの扱いは慣れてないが、伊達にハンドガンでここまで上がって来てない。エイムはそこそこ良い。

「普段はハンドガン派だが、ウェポンを変えるのは作戦の一つでな」

「くっ! 面倒な戦い方だなボーイ」

 小回り役がハンドガンを連射してきた。よし、注意がこっちに向けば良い。あとは当たらないようにやるだけだ。

「死ねガキ!」

「パンクス! そろそろ走るぞ!」

 伸びてたパンクスを足で叩き起こし相手との距離を取る。角になっているために逃げ道は少ない。だがそれを逆手にとれば相手を誘い込めるという事。死ぬか生きるか、ここで決まる。

「いてて……って、セッケイよう、どうなってんだこの状況。なんでこんなとこに」

「やっとお目覚めのとこ悪いが、俺らで時間稼ぐぞ。そうすれば、このバカげたシアイから抜け出せる」

 さあ、フセイ野郎どもに制裁を与えようじゃないか。

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