tRACK[3] = mAGIC dISC//マジックディスク(アリスインなんたら)
/* "cOL"と"シアイ"について */
cOL。この街の大元にして、シアイを運営する企業団体。主な活動は「殺し合いエンターテイメントの提供」。その内容は、施設の中に複数名の集団――クラブを配置し、互いに殺し合わせ、その行末を衛星配信してオーディエンスにトトカルチョさせるというもの。シアイのルールとしては、プレイヤーが死んでもリボーンできる"特殊なデバイス"を装着させて殺し合いを行わせ、各クラブの【キル数】を規定数に達しさせたら、そのクラブの勝ちというシンプルなもの。だが、キル数と同時に、自分たちの殺された数――【デッド数】もカウントされ、この【デッド数】分、【キル数】がマイナスされる仕組みとなる。
※そのため、単純に規定数殺せばいい、という訳にはいかないのがポイントとなる。
なお、この規定のキル数を満たさない限りそのシアイからは抜け出せないルールとなっており、参加者によって永遠に抜け出せないシアイというのも実のところ存在する。
そんな意味を含めか、シアイはこう名づけられた。
【デッドエンドレコード】
曰く、死んで記録が付く遊び、というニュアンスのようだ。
他にもルールとしては
「武器は決められた四種の銃器のみで、扱いはトリガーを引くだけという簡単仕様」
「"特別なアイテム"も存在するが、あまり頼りすぎていると評価が下がり賞金も下がる」
などあるが、本項では割愛。
上述のようなルールの元に、世間へ殺し合いのエンタメを発信し、利益を得ている団体、それがcOLである。
因みに、先程セッケイ氏と話していたcOLの彼らについては、セッケイ氏と同じようにこの街に"いつの間にか存在していた人間"であるが、【デッドエンドレコード】に参加しないで生活しようと雇用してもらった人間である。そのため、正式なcOLの人間ではない。
/* "ゴースト"について /*
シアイでズルをするプレイヤーがおり、このような所謂チーターにカテゴライズされる者を、この世界では【ゴーストプレイヤー】、【ゴースト行為】、縮めて"ゴースト"と呼んでいる。
シアイの中継映像やcOLの監視映像から映らないように隠蔽工作――マスカレードしている事からその名が付いてるおり、シアイの参加者でしかそのチート行為を確認出来ない厄介者。
そのため"ゴースト"が報告されるとcOLから謝礼金として報告者に幾分のボーナスが付与され、それが良い額なので"ゴースト狩り"をする人間も少なくない。だが先述の通り、シアイは勝たないと施設から抜け出せないデスマッチ制となっているため、ある程度の実力がないと報告が遅れ"ゴースト"に姿を眩ませられる可能性がある――この街で生きるためには、覚えておくといいだろう。
###sWITCH(mAIN_sCENARIO)###
//メインシナリオに戻ります
本物のネオンというやつを見た記憶はないが、綺麗と思うよりも、騒がしいと思う感情の方が強いだろう。
それはこの≪上州デフラグシティ≫でも同じで、正直朝も昼も無い真っ暗な世界の中で暮らしていると煩しさの方が勝る。路地裏の女の悲鳴よりも、街灯の眩しさに気が滅入る。人間、日の光を浴びないとダメなんだな。
俺は"ゴースト案件"の換金を済ませた後、行きつけの飯屋に入って飯を食っていた。こんなヘンテコな街でも情報交換を行うような食事処は割と存在する。まあ、店自体、特定のクラブや個人が勝手に経営しているだけなので、提供品のクオリティはひどくピンキリなのだが。
「はい、デザート」
セットのサラダを丁度半分くらい食べ終わったところ、気怠げな碧眼がカウンター越しプリンアラモードを寄越してきた。店主のアリスである。俺よりは年下の女で、シアイには参加しない側の人間。本名は知らんが、長めの金髪と青色の瞳からそう呼ばれており、俺ともそれなりの付き合いになる。
「頼んでない」
「サービスサービス」
「…………」
淡白な口調でこういう事をしてくれるのは彼女らしいといえばらしいのだが、毎度俺は甘い物は食べないと言っているのに懲りずに出してくるあたり半ば嫌がらせだと思い始めている。嫌われる事なんてした記憶ないのだが。
「甘味は控えてるんだ」
「知ってる」
「お前、やっぱわざとじゃないか」
「無償の愛に文句つけるな」
「……無性の愛の間違いじゃないのか」
「草」
それ言うなら精々笑ってくれと思う。棒読みじゃないか。
「噂にはかねがね。おたくのクラブの名も結構知られて来てるみたいじゃない。さっき<ハマモトズ>がクダ巻いてたわよ。勝てねーって」
「エース様様なんだがな。だが、そろそろバックアッパーが欲しい。稼働率が高すぎる」
俺の言葉にカウンターへ肘をつくアリス。
「じゃ、cOLから派遣してもらえば」
「それだと支出が高すぎる」
「ならウーハンらへんの"夜の街関連"から紹介してもらうとか」
「やつらはおっさんたち相手にしてんだぞ。うちのクラブは場違いだろ。それに人材の年齢も高すぎる」
「こちらプリンアラモードになります」
「それはカロリーが高すぎる。って、コントか」
あーだこーだ言っても仕方ないのは知ってるのだが、いかんせん悩ましい問題にため息を吐く。
正直、稼働率の高さは早急に解決したい問題ではある。しかし、これがなかなかどうして良い人材に出会えないもんで、結局今日まで来てしまった。多少関係者各位に斡旋をしてもらったけど、結果は変わらなかった。
「なあ、この飯屋の客とかでちょうどいいフリーなやつとか居ないのか? あんた店主だろ。ここは"実はいい人材いるのよ"って紹介するのがお約束だぞ」
こちらの発言に呆れたように、アリスは皿洗いに戻りながらつまんなそうに言った。
「小さいお店よ。そんな都合の良い人材いないわ。そもそも私があんたらに斡旋なんかするようになったら変な客が増えそうで嫌――」
そうやって面倒くさそうに遇らおうとしたところ、バタンと入り口のドアが開いて俺の背中に生暖かい衝撃的。ぐふっ、えづいてそいつの正体を確認した。
それは女だった。
「わーっ美味しそうな物食べてる! いいなー! セッケー! それボクにも頂戴!」
やたらデカい声に耳が痛い。年齢と体の大きさが比例してない。体は16歳、頭は6歳。その名について知りたくもないが、たぶんうちのクラブの人間だと思う。自分の事ボクって言ってるしな。
「なんだよレンダ。お前またソロでデュエルしてきたのか」
「えーだって昨日のシアイめちゃめちゃ熱かったじゃん。クールダウンにヒトカリ行かないと死んじゃうよ!」
「クールダウンに戦うのかお前は……あとデュエルを"一狩"って言うのやめろ。"人狩り"と勘違いされるだろ」
弾丸の正体はレンダだった――そう、レンダマンのレンダ――つまり、件のボクっ子脳筋ストライカーで、我がクラブの紅一点、つまり唯一の女子メンバーの人間。
「おいでませレンちゃん」
「おはよーアリちゃん! 今日もえっちだねっ」
「可愛いって言いなさいな。勘違いされるから」
アホみたいな事を口走るのは通常運転なのでこんなの驚きもしないが、人前でもなりふり構わないのは勘弁願いたい。アリス相手とは言えここは店なんだからもう少し大人しくできないものなのだろうか。
今更だが。
「ねー、そんな事よりこのプリンちゃん食べていーい? 女の子は甘いモノ食べないと死んじゃうってナポレオンの辞書にも書いてあるんだよ!」
脳筋なイメージとは裏腹な女子らしい小柄な体を背中越しにわきわきさせて顔を近づけてくる。髪の毛か長いせいで鬱陶しい。
「おい適当な事を言うな。天下のナポレオンが戦いの最中女の子の気持ちを辞書に書く訳ないだろ」
「はむっ。うわなにこれおいしー!! フランス革命の味がするよー! くっふふ、私の辞書には砂糖の文字しかなーい! あーんこのナポレオン血糖値高すぎ―!」
「…………」
途中からテンションに殺されてバカが止まらないのはいいが、俺の背中に寄り掛かって食べるのはやめてほしい。重いし、疲れるし、暑いし。
「家だとくっ付いても怒らないくせに!」
うるさいし。
「……普段からくっ付いてるみたい言い方よせ。勘違いされる」
などと隣に座らせて美味い美味いとプリンアラモードをペロリしたレンダは、やっぱり店内の注目を集めていて、相変わらずの認知度だなと再認識する。正直うちのクラブ自体大した事ない。が、こいつは元々居たクラブがここら一体で名の知れた強豪だったという事もあり、クラブが解体した時は、その去就が結構話題となっていた。過去の映像や成績を見れば腕も評判も確かなのは明白。うちに加入した時はどうしてあんな極小クラブにと、周りは随分首を傾げてたっけか。あれには夜の街での一悶着とか色々あったんだが、とにもかくにも仲間になって、けども、今でもこいつを狙ってる輩は多いのは確かな現状。俺と仲良しこよししてて良い気持ちする奴はいない。
「レンダ。ソロでデュエルするのは勝手だが、目立つ行動は控えろ。ただでさえお前にはパパラッチが居るんだ。変なのに巻き込まれたら俺とパンクスじゃ助けられん」
「はーい。気をつけるよー」
言葉だけで全く誠意の無い返事をされる。やっぱ教育が必要だなこいつ。
「お前……毎回それ言ってるよな。自覚あんのか」
「んーだってー、仮に襲われてもボク一人でなんとか出来ちゃうしー、最悪ダッシュで逃げればどーにかなるし、ってわぁこの"僕の髪が肩まで伸びたら食べたいパフェ"ってのおいしそー!! ねえアリちゃんこれ一つっ!」
「……よし、お前がその気なら俺にも考えがある」
わちゃわちゃ余計な注目を重ねる食欲女に、俺は自分のスマホにとあるチャット画面のスクショを写し、やつの目の前にかざした。それに気付きハッとして動きを止めるレンダ。生クリームを搾りながらこちらを怪訝に見つめるアリス。少し騒つく店内。静まる一瞬。
『……セッケー!18歳のお誕生日おめでとう!』
『なんかいつもは言えないけど、ボクをこのクラブに拾ってくれた事、一緒に戦える事、すごく感謝してるよ! いつもありがとう!』
『あと、毎度迷惑かけちゃってごめんね! 君と居ると楽しくてついつい歯止めがさw でも感謝してるのは本当だよ。<レンダマン>を作ってくれて本当嬉しいぜい!』
『でね、ボクもそろそろ、君にちゃんと言っておこうと思うんだけど』
『ボク、来週で16になるじゃん? で、セッケーは今日で18だから…………ね?』
『ちゃんと直接言うつもりだけど』
『先に宣言しちゃうぜい!』
『セッケー!!! いつも迷惑かけてばかりのボクだけど、ぜひケッコンを前提にお付き――』
『なんてーw まずは彼女になるところから頑張るねww』
そして時は動き出した。
「……このプロポーズ未遂事件の全容がどうなってもいいんだな?」
「〜〜〜〜〜っ!」
レンダだけに聞こえる声で言ってやると、目を見開いて何か叫び出しそうな勢いで動揺し、慌て出してんやわんや。再度無言で訴えかけると頬が紅潮して目が泳いだ。カウンター越しのアリスの目線が気になるが、あまり聞き分けが良くないと最悪この店に居る他の客にバレるぞいいんだな、とその旨を伝えてやればこの通り。
まあ、俺にも被害があるのでアレだが。
「拡散されるのが早い世の中だ。もう少し真剣に考えて行動したらいい」
「セ、セッケーには人の気持ちというのが無いの……! 若気の至りを脅迫に使うんだなんて……反則オブザイヤーだよっ!!」
年間最優秀らしい。嬉しくない。
「チャットでこんな事言うな。大体告白するなら直接」
「わあああー! もうやめてやめてやめて!! うう、ボクが悪かったからーっ!」
分かりやすいくらいの反応に逆に皆の目線を集めてしまっているが、納得したようなのでこれでいいだろう。能力は十分な反面扱いに困る人材というのは往々にしてあるが、こいつは弱点を作りやすい女なので扱いやすい。
まあ、俺が身を削るのと、周りの視線を集めてしまうのが残念※以下略
「はい、痴話喧嘩パフェお待ち」
するとやたら背の高いパフェを目の前に置かれた。先ほどレンダが注文したやつか。てっぺんに刺さっているチョコレートのプレートに何か書いてある。なんだ?
『ご結婚おめでとうございます』早速バレてるじゃないか。
『でも結婚してから大事なのは』は?
『保険の見直しですよね』なんの話だ。
『今なら見積もり無料!』『簡単診断!』ちょっ
『♪アリスネット生命♪』勝手に保険のCM始めるな!
『もう終わったけどね』あれ読まれてる?!
「……この店は保険屋だったのか」
「保険は若いうちに。掛け金高くなるのよ」
よく分からんボケを挟むのはいいとして、今俺たちは、とにかくバックアッパーが必要なのである。シアイの規定では最低参加人数は3名から。どうしたって全員稼働しないとならないのは問題。で、その要因を募集しなければならないのだ。
「あ、そういえば、そこでちょうど面白いの見つけたんだよねー」
パフェを口に運びながらレンダが俺のスマホにチャットを飛ばしてきた。リンク先の掲示板を見てみろとの事なので、早速確認してみる。すると、いくつかの雑談の中、1つだけオファー待ちの書き込みを見つけた。
『件名:クラブ解体に伴って、所属先探し中』
『先日、クラブのリーダーが死に、クラブの解体が決定しました』
『資金は全てリーダーが管理していましたが、彼女は浪費癖が激しく、残された我々のは貯蓄は微々たるものです』
『cOLのオファーサイトの掲載費も正直払えない程で、そのためこの掲示板に書き込んでまして…………』
そこまで読むと、記載されたプレイヤーデータをざっと眺める。ふむ、リーダー死亡でお気の毒だが、悪くない戦力で関心が勝る。
が、気になるのは書き込みの時刻。今から一週間前となっているため、正直望みは微妙なライン。しかも解体してしまったという<生贄クラブ>とやらの成績はうちより高い。100以上あるクラブの中、ランキングを発表されるのはトップ20のみ。現在我が<レンダマン>はギリギリ圏外であるが、このクラブは先月まで15位辺りをキープしている。仮にオファーできても向こうが下位クラブ、しかも極小クラブのバックアッパーを受け入れるだろうか。ランキングに載るようなクラブは最低でも6人と聞くし、普通に考えたらこの案件は非現実的。
「急募系の人材は取りやすいが、コイツは無理だろうな。第一、ランカークラブの人員となると待遇もそれなりにしないと直ぐ出て行く」
「あれ、ボクもランカークラブ出身だけど、ここで満足してるよ。この子はダメなの?」
「他のクラブと比較するとな。ちょろいお前とは違う」
「ひどい事言われたっ!」
生クリーム飛ばしながら喚くレンダだが、この女は例外中の例外なので基準にはならない。加入した年にプロポーズ(未遂)してきた女とか(以下略
「やっぱり地道に探すのが一番だな。よし」
「ん、セッケーどっか行っちゃうの?」
俺は立ち上がると、お代をアリスに送金して外套を羽織った。レンダはまだパフェを食べていて動かなそうなので、後で連絡する旨を伝えて一人で外へ出る。急激に寒さが襲い、白い息が綺麗に見える。向かうはここから少し離れた場所――もとい、店。シアイのために必要な人員確保のための、いつも通りの仕事。
街の灯りは、消えない。