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一年前、アルファテスト


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「おお、これがテラバースの世界か!」


 ギャリオはその世界の風を感じ、地面のジャリジャリとした感触に感動する。

 『テラバース』はジャンルとしてはVRMMORPGに当たる。


 ギャリオは自分の腕を眺める。

 ゴツゴツとした手甲は『ライオントーテムシリーズ』のもので、鉤爪手甲が使える。

 思考入力で出し入れ自在の鉤爪はそれなりに強力だ。


「むふふ……我ながらかっこいいぜ!」


 ギャリオは自身のデザインした『ライオントーテムシリーズ』の全身装備にニヤリと笑う。

 この『テラバース』世界に自然発生した進化形AIをこちらの世界の言葉に合わせて『トーテム』と呼んでいる。

 感情が芽生えたAIはいつか更なる進化を遂げる可能性を残している。

 現状、最も多様性を獲得している『ヒトトーテム』を超える可能性。

 それを表現したのが『トーテムシリーズ』装備だ。

 この『トーテムシリーズ』は課金装備として実装予定である。


「おい、貴様!

 変な格好で来よって、どこの生徒だ!」


 正面の建物から出てきたNPCが声を掛けて来る。

 NPCはこの世界の植物と動物の皮を複合した棒のような物を持っている。


「これがヒトか……まあ、お試しにはちょうどいいか……」


 ギャリオは拳を握る。

 課金装備が強いのは分かっている。

 だから、最初に装備についている筋力アップの能力を試すことにした。

 まずは軽くパンチを放つ。


「ぐふっ……」


 NPCはその一撃でダウン寸前だった。


「弱っ……これじゃお試しにもならないよ」


 仕方がないので、ギャリオは鉤爪を伸ばした。


 すっ……と鉤爪で横に引っ掻いてやると、NPCは、バラバラとした肉片になった。


「ぷぷっ……これ、すげーや!」


 鉤爪の切れ味の良さに、ギャリオは笑う。

 そうすると、目の前の建物が急に騒がしくなる。


 建物の窓という窓からNPCが出てきて、手に手に何かの薄っぺらい板のようなものを持って、こちらに向けて来た。


「やべっ! ここって巣だったのか!」


 一瞬、顔を守るように腕で防御姿勢を取るギャリオ。

 しかし、時たま、パシャ、パシャと閃光が発せられるものの、考えていたような衝撃はいつまでも来ない。


 顔を上げ、NPCたちを見やる。


「んん? 反撃が来る訳でも……ない?

 ああ、まだ幼生体なのかな?

 あれ、もしかして……当たり引いた?」


 それは経験値のかたまりであり、武器らしい武器を持たない、エネミーと呼ぶのも烏滸がましい、NPCしかいない場所だという意味だ。


 ギャリオは走り出す。

 NPCたちは、わっと叫んで巣の中へ逃げ込んでしまう。

 手近な穴へとギャリオは飛び込んだ。


 ガシャーン!


 透明な薄い壁があったが、ギャリオの鎧には傷ひとつない。

 穴の中には三十近い幼生体が逃げ惑っている。


「おお、やっぱり、当たりか!」


 似たような紺色の衣装、オスとメスで区別があるように見える。

 ギャリオにとっては関係ない話で、手当り次第にぶっ飛ばす。

 少し力を入れれば、簡単に死ぬ。


「おお、もうレベルアップ!」


 扉を開けて四散していく幼生体。

 成体も一人混じっていた。茶色の衣装をしていた。

 レアかと思って優先して倒したが、幼生体とたいして変わりはない。


「なんだよ、紛らわしいなぁ……」


 幼生体を追って、扉から出ると、あちこちの扉が開いて、わっと幼生体が散っていく。


「うわ、めんどくせぇ……」


 そうは言いながらも、ギャリオは楽しそうに幼生体を追いかけて、その鉤爪で引き裂いてみたり、捕まえた幼生体がどこまで飛ぶのかを試してみたりした。


「ああ、体内のほとんどが水分なんだったか……生命体としては弱すぎるな……」


 そうは言っても、ギャリオのアバターだってこちらの世界準拠で作成している。

 多少、強めに設定してあるが、ヒトとそう大差はない。


「まあ、俺らの残虐性を慰めるには、これくらいでもいいが……もう少し張り合いがないとゲームとしては成立しないな……」


 ギャリオは思考の海へと旅立つ。

 辺りにはむせ返るほどの血臭が漂っていた。




 『ライオン型怪人、天立市襲撃事件』の一端である。

 他にも『キツネ型怪人、重加根沢市襲撃事件』や『クモ型怪人、浦野巣市襲撃事件』など、いずれもたった一か月の間に起きた注目すべき事件である。

 事件の首謀者は謎、これが何のために起きたのかも謎、しかし、合計で二千名以上の死傷者が出たことで、これらの事件は全世界から注目されることとなった。


 怪人はいずれも動物や虫のイメージを色濃く残しながらも、人型であること、手当り次第に人間を殺すこと、警察官の拳銃弾が当たっても平気で動くことなどから『悪夢』と称された。

 しかしながら、『悪夢』の呼称が本来の『悪夢』と被ることで、いらぬ誤解を招くことを避けるべく、政府案によってヘブライ語の『スィユート』が推奨され、転じてネットミームとして『死遊人シユート』が持て囃されるようになり、各メディアは『死遊人』と呼ぶのが一般的になった。



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