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第3話

「優秀な殿下なら既にお気づきかもしれませんが、私の娘の魔力コントロールの指導についてです」


 ロゼッタの娘、葵は魔力を持っている。そもそもラインハルトの国民は突然変異でもない限りほぼ全員が魔力を持って生まれる。ロゼッタの生家であるカルネリア家の血を引いていれば尚更、持っていて何も変ではない。

 おそらく顔も見たくないであろう相手に頼まねばならないような状況を考えれば、問題はだいたい予想がつく。


「私の娘である葵は、既に魔力暴走で部屋を今年だけで3回吹き飛ばしています」


「3回もですか!!」


 思わず驚きの声をニールが上げてしまうほど、珍しい事例が発生していることがその一言から察せられた。

 魔力は誰もが持っているものだが、その量にはかなりの差がある。そして一人一人がその身に宿す魔力量は何世代をかけて減少傾向にあり、現在は貴族の中でも多く持って生まれるのは王族かそれに連なる家系に限られる。ただ、例外的に王族にも匹敵する膨大な魔力量を持って生まれる者も存在する。


「ロゼの娘は、先祖返りってことかな」


「そうではないかと、考えています」


 ラインハルトの記録によれば、その昔は天変地異を起こせるほどの魔力を現在とは異なり誰もが持っていたことが確認できる。古代の人間と変わらない魔力を持って生まれて困るのは指導できる人間が少ないことにある。魔力は多ければ多いほど制御するのが難しい。その身に魔力が流れる感覚や使うときの感覚は、総量の乖離があればあるほどかけ離れたものになる。ゆえに、魔力量は同等のレベル同士で指導に当たるのだ。そうでなければ、全く要領を掴めないからだ。

 カルネリア家は、魔力量が多い血筋ではない。ロゼッタ自身は家の中でもさらに魔力量が少なかった。つまり、葵はまともな指導を受けられずにここまで成長してきたことになる。


「君の娘は、今いくつなの」


「今年で、12歳になります」


「その年で、3回も魔力暴走を、ね」


「そう、です」


 魔力暴走は本来7歳までに多く起きる現象である。それを考えればどれだけコントロールできていないのかが理解できる。物事の判断もある程度できる年齢で、何度も魔力暴走を起こしていれば精神への影響も大きい。ましてや、この世界はラインハルトとは違い、魔力なんてものは本来存在しない世界だ。まともな生活を送れているとは思えない。

 レインがロゼッタの方を向けば、今までに見たことがないほど悲壮な顔をしているのが見てとれた。


「私、今のところ不審者という認定だろうけど、ロゼの娘は嫌がらないかな」


「それは何とか払拭できるよう、殿下が努力なさってください」


 怒っていると、ロゼッタは2回も強調して言っていた。つまり、申し訳ないと思うのなら、この形で償えと半ば強制的に引き受けろと主張しているのである。

 今のレインにはラインハルトに帰る手段がない、それを探りながら子供の指導を一人行うのは不審者認定をされていることを除けばさほど難しいことではない。そして、レインの隣からは先程から、引き受けますよね、という暑苦しい視線を感じる。まるで、引き受けなければ人間ではない、とでも言いたげである。


「分かった、引き受ける」


「ありがとうございます、殿下」



 話が一段落つき、ニールが防音の結界を解くと同時にレインが肩を叩く。


「何ですか?」


「長居することが決まったんだから、やることは分かっているよね?」


「はい?」


「拠点の準備とか、この世界の常識とか、いろいろよろしくね、ニール」


 有無を言わさない、誰もが見惚れるであろう笑顔でレインはたたみかける。


「あれほど、私にやるよう熱視線を送って後押ししたんだから、その分のサポートは抜かりなく頼むよ。というわけで、また飛ばすからね。はい、3、2、1……」


「え、ちょ、待ってください!! 殿下!! 待っ」


最後まで言わせることなく、またニールはどこかへ飛ばされた。よって室内はレインとロゼッタの二人きりとなる。


「本当に毛ほども変わっていないのですね」


「いいね、その表情。ゾクッとくるよ」


 ロゼッタから見知った軽蔑の混じる引いた目で見られ、満足そうな笑みを浮かべるレイン。多少の説教で反省はしたものの、性根が腐っているのはそう簡単には変えられないことの証明である。


「ニールは一生苦労の人生を送ることになりそうですね」


「それは、本人も了承済みでしょう。それより、君の娘に会わせてくれない?」


 性懲りもなく発言するレインに、ロゼッタの表情が曇る。ほんの数時間前に娘を泣かせたような不審者に会わせたいと思う母親は存在しないだろう。それでも感情を抑え、ロゼッタは会話を続けることを試みる。


「さすがに、早いと思うのですが」


「そう? でも君が言ったんだけどなあ、“それは何とか払拭できるよう、殿下が努力なさってください”って」


 すっかり普段の調子を取り戻したレインは軽い態度で仲直りは早いほうが良いのと同じで、不審者認定も早々に脱却した方が良いだろうと主張する。


「葵の精神が揺れれば、魔力暴走を引き起こすかもしれません!!」


「それのどこが問題になるわけ?」


 ラインハルト王国の王子は全員規格外の魔力を持っている。レインも例外ではない。だからこそ、12歳の子供が起こす魔力暴走など抑えることは容易い。


「だからほら、案内してよ。元婚約者様?」


 主導権を一時的にも握られた事への腹いせかと思えるほどのこの態度は、16年ぶりのロゼッタにこれが通常営業であることを十分すぎるほど思い出させることとなった。



「娘に説明をしたいので、ここに連れてきます」


 ロゼッタは嫌々ながらも別室にいるであろう葵を迎えに行った。ところが、10分、15分たっても一向に現れない。かと思えば、バタバタと騒がしい音が聞こえ、レインのいる部屋の扉が勢いよく開け放たれた。


「指導とか、いらないです!! ほっといてください!!」


 最悪な初対面のときの大人しそうな印象とは異なり、すさまじい勢いで息を切らせながら飛び込んできた葵は、圧倒的な拒絶を示した。不審者であったことを考えれば当然の反応だが、こんなもので怯むようなレインではない。余裕を崩さず椅子から立ち上がり、あえて葵を見下ろすような体制で淡々と告げる。


「ああそう、じゃあ止めるよ」


 ここにニールがいればレインの一方的な暴挙に対して遠慮なしに抗議するであろうが、そんな従者は今どこぞで奔走中である。肝心のロゼッタも娘の予想以上の反発に戸惑いを隠せず、対応ができずにいる。

 ただ、あっさりと肯定された葵自身が一瞬でも疑問を感じそれを表情に出したこと事によって、レインに煽られる要因を作ってしまった。


「あれ、君の言うとおり止めるって言っているのに、何でそんな顔しているのかな。ほらやっぱり、本当にほっとかれると思っていないでしょう?」


 指摘はおそらく図星で、葵は真っ赤になり、何も言えなくなってしまう。ほっといて何て言う人は本当に放っておくと面倒くさいのをレインは知っているし、おまけにこの状況を楽しんでいる。

 見下ろす体制から、さらにもう一歩葵へと近づいたレインはさらに葵の痛いところを突きに行く。


「今年だけで、部屋を3回吹っ飛ばしたんだって? なかなかだよ」


「殿下!! 私が何のために結界を張っていただいたと思っているのですか!!」


 さすがに見かねたロゼッタが止めに入るがレインは気にもとめない。


「私は元婚約者ってことを隠したいんだと思っていたのだけど、違うの?」


 どういう意図で結界を張っていたのか分かっていながらあえて、この場で明らかにされたくないようなことをお構いなしに言ってしまうレインをもはや止められるものなどどこにもいない。


「でもまあ、部屋を吹っ飛ばしただけでしょう?」


 葵の拒絶が、不審者に対するものと言うよりも、もはや魔法自体を使うこと自体に恐怖を抱いているであろうことは予測がついていた。この世界には魔法は存在しない。唯一持っている母親のロゼッタも魔力の暴走で部屋を吹っ飛ばしたことなんてない。そんな環境では自分自身がどれだけ異常に感じられてしまうかを想像するのは難しくない。

 葵はレインの爆弾発言の連続で少し落ち着きを取り戻し、“部屋を吹っ飛ばしただけ”という発言に対して懐疑的になっていた。


「あなたも、部屋を吹っ飛ばしたことはありますか」


「あるよ、私の場合は部屋じゃなくて城の建物一棟だけどね」


「一棟、吹っ飛ばしたんですか」


「そうだよ、公にはなっていないけどね」


 これはロゼッタも知らないことである。多すぎる魔力による暴走は必ず通る道であり、それを隠蔽する手段も民衆の混乱を避けるためにラインハルトでは確立されている。王族の血筋であれば誰もが起こすことであり、気にされることもなく処理される。だからこそ、魔力暴走ごときが本人の精神衛生に影響を及ぼすことはほぼない。それがこの世界で運悪く先祖返りで生まれてしまったがために、いつか誰かを意図せずに殺してしまうのではないかと魔法への恐怖心を生み出してしまっている。


「ちなみに、私には上に2人兄がいるけれど、どちらも魔力暴走を起こしている。一人は、王都をめちゃくちゃにするような竜巻をおこしているし、もう一人は書庫を吹き飛ばしたんだよね」


 どちらも元通りにするのに、担当の者たちが三日三晩寝ずに作業をしたくらいには影響が大きかった。ただ誰も責められたことはない。何なら、補助が出る分張り切って業務に当たっていたという話すら聞こえてくる。


「だから君、別に異常でも何でもないから」


 読み取れない表情で、葵は俯く。


「制御できるようになれば良いだけの話だからさ、どう? やる? まあ、無理強いはしないけどね」


 すぐには答えられない葵は真っ直ぐにレインを見つめる。そして、ゆっくりと頷いた。


「じゃあ、よろしく。そういえば、君名前何だっけ」


「葵です」


「私はレイン、君の母親の見捨てられた元婚約者だよ」


 また微妙な空気が流れ、耐えられなくなったロゼッタがレインの頭を叩いて話は終わった。この性格に難ありの王子に頼んだことに対して、ロゼッタは相当な不安を覚えながらも、どうにかなりますようにと祈った。

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