名前を考えることになりました。ネーミングセンスは無いのです。
とりあえず全員で設定を考えてくれたので当面は誤魔化せそうだ。それにしても、なぜ誰も勇者をやらないのかとかやりたくないのかとか聞かないのだろう。まあ、聞かれても答えたくないけどさ。
「まあ、設定についてはこのぐらいで。申し訳ないけど、それぞれに口止めさせてもらう」
全員異論がないらしく、頷いてくれた。こればかりは仕方がない。だからこそ、私は奴隷を買ったのだ。そうすれば、誰も私の素性を言えないから。
「申し訳なくなんてないです。俺達は、貴女のモノなのですから」
「そうですよぉ。私なんて、ご主人様のモノになれてラッキーでしたよぉ」
本気で言っているの?モノ扱いするつもりはないんだけどね。少年は困惑している。九十九番は首を傾げている。
「……では、命令。私の情報について他者に語ることを禁止する。ただし、各々に生命の危機がある場合は許可する」
「いや、許可するなよ」
少年が呆れたご様子でツッコミをかましてきた。
「いや、命より大事なものはないから撤回しない。もう一つ命令。私が『いい主』でいるうちは、私に危害を加えてはならない」
「ご主人様……」
「これは私への戒めでもあるからね。基本、この二つさえ守ってくれればいい。あとさ、そろそろ番号以外の名前を教えてくれない?」
「……消されました」
「同じくぅ!」
「……ない」
「ありません」
前者二人はともかく……後者二人よ。まあ、九十九番は赤ん坊で売られたから仕方ないかぁ……。
「名乗りたい名前とかない?」
「無いですね」
「ありませぇん」
「……ない」
「ありません」
無いのかよ……。九十九番はともかく無いのか……。これ、私が考える流れ??まあ、考えてみて嫌なら別のを自分で考えてもらおう。
「貴方はカイ。貴女はゲルダ。有名な私の世界の童話でね。大事な幼なじみのカイを、ゲルダが探しに行くのよ」
「まぁ……素敵!」
「ありがとうございます」
ゲルダの方が気に入ったらしく、ごきげんだ。カイはそんなゲルダを微笑ましそうに見つめている。
「ご主人様、俺は?」
「……ジャン、は、どうかな」
「何から?」
「救国の英雄、ジャンヌ=ダルクから。神の声を聞いて、立ち上がった勇敢な女の子から。ジャンヌは女の子の名前だから、ジャンにした」
なんとなく、だけど……それが思い浮かんだから。最期は悲惨なものだけどまぁ……言わなければいいかなと。
「ふぅん……いいね」
ニカッと笑ってくれたので、気に入ったらしい。
「最後に、君は……スノウね。雪みたいだから」
「すのう……すのう……おぼえました……。ぼくは、すのう……ゆきのこ……」
喜んでる、のかな?とりあえず頭を撫でたらキョトンとされた。実際は白雪姫からでもあるのだが……説明が面倒なので黙っておく。
「それから私は……本名は言葉、だけど……ことば……スペル……にしようか。私の名前はスペルってことで」
ローマの反乱指導者スパルタクスからもじった名前でもある。良いんじゃないかな。全員頷いてくれた。
「さて、今日はここまでにして寝ようか。明日からはお金を稼がないとね」
カジノで荒稼ぎしたからまだまだお金はあるけれど、このお金は資金だ。使い切る前に色々と買い揃えて、生活基盤をしっかりさせておかねばなるまいて。
「任せてぇ。私、頑張って稼ぎまくってご主人様をバッチリ養っちゃいまぁす」
「……ゲルダ、食事のおかげかかなり調子いいようだが無理はするな。俺に任せろ。ご主人様に不自由はさせない」
大人二人はやたら頼もしいな。なんとなくだが、ゲルダって最初とだいぶイメージ違う。とても快活なお姉さんだ。今で周囲にいなかったタイプだなぁ。カイはこう……寡黙な大工さんとか頑固な職人さんっぽい。
「……俺も、頑張る」
「……なにをころしますか?」
「ジャンとスノウは冒険者として訓練からかしらね。スノウ、当面は何も殺さないで」
「え……?はい……」
とりあえずまた頭を撫でておいた。ジャンがスノウの発言に引いているのでジャンも撫で……うわナニコレ。ふわっふわ!!耳もやわらか~い!!
「ご、ご主人様?」
「ふわあ……ジャンの撫で心地最高……!ふわふわ!!」
「こ、子供扱いするなよ!俺はこう見えても大人なんだからな!!」
怒って部屋から出ようとしたジャンが、かなりの勢いで結界に激突した。
「ご、ごめん……」
いきなりだったから解除できなかったのだ。不可視の結界だからわからなかったのだろう。
「なんだこれ……見えない壁がある」
「ね、念の為に結界を張ってたのよ。聞かれちゃまずい話もしていたしね。ごめんね、急だから解除が間に合わなくて」
「ご主人様ってすっごぉい。さすがは勇者様だわぁ。私の黒斑病も治しちゃうしぃ」
「は!?」
「黒斑病!?」
「……?」
「げ」
気がついていたのか。まあ、それはそうよねぇ……。
「ほらほら、黒斑ぜーんぶ消えてるよぉ」
足を見せるゲルダ。カイは呆然とその足を眺めていた。
「じゃあ、ゲルダは死ななくて、すむ、のか……?」
「ええ、そうよぉ!」
楽しげにゲルダがカイに抱きついた。この部屋、ベッド二つあるし、同室にするつもりだったからこのまま使ってもらうか。
「ジャン、スノウ……私達も今日は休もう」
涙を流すカイは見なかったことにして、二人の背中を押す。
「……そうだな」
「……はい」
不安だったのでスノウをベッドに寝かしつけてから私も休んだ。不安は的中し、スノウはベッドがあるのに部屋の隅で丸まったので行ってよかった。
今日は色々ありすぎて疲れていたのだろう。布団に入ったら、あっという間に眠っていた。
ちなみに言葉さんが引用しないで名前を考えるとクマ太郎とクマ子とかになります。本人もネーミングセンスが無い自覚があるし、和名はないなと空気を読んでああなりました。