理由はわかりました。納得はしません。
二番の身体を蝕んでいたのは『呪い』だった。渡瀬家は巫女の家系であり、裏の家業としてそういったモノを祓ってきた。この世界に来てまで働くとは思ってもみなかったが……。
「ご主人様?」
スプーン片手に固まっていたから、二番が不審に思ったのだろう。
「……なんでもない」
そう言いつつ、呪いを解析して解いていく。んん?なんだかいつもより……楽ちんなような……?
「ご主人様……?」
「何?」
「……なんだか、お腹がポカポカしてきました。ずっと寒かったのに……不思議……」
恐らく解呪の影響だな。顔色も良くなっている。問題なく解呪できたので、そのうち体調もよくなるだろう。
「……そう。体調が良さそうなら清潔にしてほしいわね。貴女、臭うから」
「も、申し訳ございません……!」
誤魔化すために言ったものの、もっといいかわし方があったように思う。いつもそう。私はそういう所が足りなくて、人を傷つけることしかできないのだ。
「体調、だいぶよさそうね。自分で食べれるなら食べなさい。私はお湯をもらってくるから」
部屋から出ると、何やら食堂が騒がしい。食堂には私の奴隷達がいるはず。念の為確認しに行くことにした。
一般客とは離れたテーブルで食事する私の奴隷達。彼らに見知らぬ男が絡んでいた。
「奴隷の分際で、人間様とメシ食うとか、思い上がるにも程があるんじゃねえの!?」
彼らは首輪があるので奴隷だとすぐわかる。しくじった。配慮が足りなかった。私はどうしてこう、上手くできないのか。
「……私の奴隷に何か?」
「!?な、何だお前」
そういえば、まだ能面してました。何だって……これはプリティ小面さんですよ。
「私の顔が何か?」
「いやそれ、どう見ても顔じゃねぇだろ!?」
「うふふふふ、可愛いでしょう?お気に入りなんです」
なんとなくだが、絡んできた男が怯えているような気がする。いや、小面さんって美少女なんだよ?あ、整いすぎてて怖いのかな?
「可愛くねぇよ……」
「……むう……」
「……かわいい?」
何故少年は否定するんだ。一番も微妙そう。九十九番は首を傾げている。彼は生まれてすぐ捨てられたから、可愛いとかわからない子なのよね。
こちらでは理解されない美なのかもしれない。
「い、意味わからねぇ!」
絡んできた男は何故か逃げた。あいつは何をしたかったのだ。
「……悪かったわ。私の配慮が足りなかった」
おい、君達なんでそんなにビックリしてるんだよ。
「あ、いえ。こちらこそ考えが足りなくて……です。俺達、臭いからって嫌がられまして」
それは……そうかも。ご飯食べるところに臭い人間が来たら嫌かも。腹ペコだったからごめんねってことで。
「……ご迷惑をおかけしました。お詫びとして、皆様にお好きなものを一杯おごります!これで足ります?」
給仕に金貨を一枚渡すと、頷いてくれた。ついでにお湯が欲しいと言ったら、奴隷達を洗うなら風呂屋に行かせたほうが割増で払っても安上がりで済むと言われた。
宿の主人は大変親切で、いらない古着や下着も譲ってくれた。金貨で釣りが出るからとのことだったが、大変ありがたい。この時間では店もやっていないからね。一応奴隷商館にもあったけど、それは割高すぎると一番と少年から大反対されて買えなかった。いや、何枚かは買っておくべきだったと思う。深夜料金ってことで多少割高でもいいと思うの。
清潔な服とお金を渡し、お風呂屋さんに行くよう促した。その間に私は荷物を処分。私がここに来た際の特典なのか、アイテムボックスが使えるようになった。異世界召喚時に持っていたものはすべてアイテムボックスに入れている。
さらに、もらった宝石はカジノですべて換金しており、そちらもアイテムボックスへ。カジノの景品だった刺繍入り革袋とアイテムボックスを繋げて、そこから金貨を出しているように見せかけている。金貨だけだと目をつけられそうなので、奴隷商館で多少は両替してもらった。金貨なんてそうそう使えないらしいし。
レートとしては、あくまでも大まか計算だが金貨が一枚大体十万ぐらい。小金貨が一万、銀貨が千円、小銀貨が百円、銅貨が十円。覚えやすくてありがたい。
「ご、ご主人様……申し訳ございません……」
病み上がりなので二番はお風呂屋さんではなくお湯を買ってたらいで洗うことにした。石鹸も売ってもらえてよかったが、まったく泡立たないわー。寝たきりだったしかなりの期間風呂に入れなかったらしいので仕方がない。そもそも日本の石鹸みたいに泡立つものでもないようだし。
お湯を取り替えること数回。ようやく濁りが取れ、焦げ茶の髪はミルクティー色になった。
「うお……」
二番って、めっちゃくちゃ美人だったのか……。
「ご主人様?」
ミルクティー色の髪に、穏やかな翡翠色の瞳。そして、可愛い熊の耳。そして、しっぽが可愛かった。全裸でも気にならないらしく堂々としている二番。あれだね立派なボインボインがあるからか……。拝んでおくか。私ももう少し欲しいのでご利益があるかもしれない。
「ご主人様!?あ、あれ……?黒斑が……?」
「黒斑?」
「わ、私は黒斑病にかかっていたので、腰から下に黒斑が出ていたのですが…ない……?ない……ない……!!」
呪いは私が解呪したからな。そりゃあないだろうな。裸で下半身を調べるのはやめてくれ。獣人だからなのかよほど驚いたのか……どっちだ?
「よかったね。とりあえず確認はあとでもできるでしょう。裸のままでは風邪を引くわよ。また何か病気にかかったらどうするの?」
「す、すいません!」
羞恥心がないわけではないらしく、二番は素直に服を着てくれ……るのかと思ったら、ゴキゴキ骨を鳴らしながら巨大化して大きな熊さんになった。毛並みは……ゴワついてるな。厨房に行って、オリーブオイルと卵黄と蜂蜜で毛パックしてやった。
「も、もったいない……」
熊さんは蜂蜜好きというが、熊獣人も蜂蜜好きなのだろうか。パックを舐め取るのはやめてほしい。泣いて嫌がる二番をなだめすかして洗い流したら艶々になっていて、とてもいいモフモフに変身した。
「………ナニしてんすか……?」
毛を乾燥させ、いいモフモフと化した二番のお腹にダイブして遊んでいたら、一番達が帰ってきた。気まずい。
「ご主人は、遊んでるのよぅ」
余った蜂蜜で買収した二番がのんびり答え、一番達は首を傾げていた。だって、おっきなモフモフがいたらダイブしてみたいじゃん!仕方ないんだよ!!
私はご主人様やぞ!文句あるか!?
そろそろ言葉の本性が出てきました。言葉さんは能面とモフモフスキーです。
でっかいもふもふのお腹にダイブするのはモフラーの夢なのです。