予定外の買い物でした。後悔はしていません。
覚悟を決めたものの、早速後悔していた。いやもう、怖いんだもの!なんか目が虚ろな人とかさ、お薬のせいか目が白目な人とかさ、買ってくれって媚びてくる人とか!使用済み拷問器具っぽいのとか!
入り口で話しかけたらすごくビビられた。能面のせいだわね。いつものことなので気にせず呼び込みのお兄さんに宝石をチラッとしたら身なりのいい支配人を名乗るおっさんが出てきて案内してくださった。それはいいが、もはや肝試し大会となっている。叫ばない私を褒めてやりたい。
そろそろ案内が終わったのか、檻の前で支配人が足を止めた。この辺は高級感のある檻になっており、奴隷も小綺麗でホッとする。
「お客様はどういった奴隷をお求めで?」
ここで購入予定の奴隷は二人。一人は妻を亡くした熊獣人で、もう一人は両親に売られた少年。銀の髪に赤と青のオッドアイな上、高額なだけあり育てれば最強クラスの魔法使いになる。
「一番と九十九番を見せて」
「一番は二番とセットになりますが、いかがしますか?」
二番……?恐らくまだ妻が死んでいないのか。治療できるかもしれない。
「では、どちらも連れてきて」
「かしこまりました」
支配人が控えていた使用人合図した瞬間、遠吠えのような叫び声が聞こえてきた。支配人が忌々しげに舌打ちする。通路の奥、あまり綺麗とは言えない檻の中で少年が抑えつけられて、性的な暴行をされようとしているのが見えた。
「離せよ!やめろ!ウガアアアア!ガアアアアア!!」
必死で逃れようとする少年と、自分の姿が重なった気がした。大人に無理矢理抑えつけられながらも、必死にもがくその姿と憎悪と怒りに激しく燃えさかるその瞳。
その瞳が、こちらを見た。
「待って!!」
「お客様?」
気がつけば、少年がいる檻に駆けていた。
「待って!買うわ!その子を買うわ!だから、私のものに乱暴しないで!」
檻にしがみつき、届くはずのない手を伸ばす。少年を抑えつけていた男が、戸惑った様子で支配人を見る。
「そいつはまだ調教がおわっておりませんでな。ご主人様に噛みつく恐れがございます。そういった奴隷をお求めでしたら、他にもいいのがおりますよ?」
「この子がいいの。噛まれたのなら、自己責任よ」
「……承知しました。おい、連れて行け」
「へい!」
予算、足りるかしら?とはいえ、見てしまった以上見捨てる選択肢はない。少年はこちらを睨みつけているが、むしろそれがいいと思えた。私は、その激しい怒りに惹かれたのだから。
「お連れしました」
一番と呼ばれた巨体の熊獣人は、気遣わしげに二番と呼ばれた妻を見ている。
「……妻はもう長くありません。どうか一緒に買ってくれませんか」
ゲーム内では妻はすでに息を引き取っていた。今回はタイミングが良かったのだろう。
「当然病気の奴隷を引き取るならば値引きしてくれますよね?」
「……仕方ありませんな。役に立ちそうもありませんし、いいでしょう。ですが、もう一人は値引きしませんよ?」
先程の少年だろう。それは仕方ないので頷く。無理を言ったのはこちらなのだし。オッドアイの少年は目がうつろでちょっと怖いがまあ……目を合わせなければなんとか。
結果として、なんとか四人を買えた。奴隷を服従させるための指輪を渡される。これをしている限り、奴隷は主人を裏切れないそうだ。
しかし、買えたのはいいが予想外の出費もあった。生活費をかなり切り詰める必要があるかな。
「とりあえず、宿を確保しよう。どこか知らない?」
「お、俺が冒険者時代に世話になっていた宿が近くにあります……」
「服とか日用品は明日の朝に買うとしようか。とりあえず寝たい」
熊獣人の案内で宿についた。
「お前……奴隷は部屋に泊められません。部屋を汚すかもしれないからね。お湯は有料。奴隷は納屋を貸しますがどうしますか?」
宿の人から嫌な感じはしない。奴隷は人として扱われないのだろう。
「少し余分に出しても無理ですか?奴隷とはいえ病人もいるので……汚したものは弁償します」
「……いいでしょう。一人分の料金と、汚したものを弁償で。部屋は……男女で分けて2つでいいですか?それとも、ご主人様が一人部屋で、他としますか?」
「私は一人部屋。それ以外に二人部屋を二つ。夫婦で一つ、貴方達で一つよ」
「かしこまりました。食事もご用意できますが、どうします?奴隷は奴隷用でいいですか?」
まるで地の底から響くような音がした。彼らはとてつもなく空腹であるらしい。
「奴隷用ってどんなの?」
「残飯ですね」
床で食べている人の食事を見たが、どう見てもまずそうだった。
「病人もいるから、彼女には消化にいい食事を。明日から彼らは働くので、普通の食事をお願いします」
「はい。では手配しますね……今回はいい主人に当たったな」
宿の主人がコソッと熊獣人に話しかけるのを聞いた。あまり良い主人ではないと思うけれどね。何せ明日からは指名手配犯になるわけだし。
それはまあ、後で彼らに話すとしよう。とりあえず食事を与え、明日からは生活費を稼がねばならない。私は城で夕飯を済ませているので、病人である二番の食事介助をすることにした。一番がとても渋ったが、腹の音がうるさいからさっさとなんとかしろと言ったら渋々食べに行った。
「ケホ……すいません、ご主人さま……」
やせ細った二番を見て、本能的に理解した。だから私はこの世界に呼ばれたのだと。
ようやく言葉さん、奴隷をゲットです。
成り行き逃亡生活もスタートしました。
そして、ここから能面生活もスタートとなります。