謝罪されました。だからどうしろと?
鍛錬場での騒ぎは国王の耳にも届いたらしい。そんなわけで、私は国王に呼び出された。国王の隣で神官が睨みつけているが、スルー。
「何かご用ですか?」
「勇者様、大変申し訳ありませんでした!!」
国王は神官の頭をひっつかみ、無理矢理頭を下げさせた。そのまま国王も土下座する。こっちにも土下座文化があるんだなぁとぼんやり眺めていた。
「何に対しての謝罪でしょうか?」
「我らの配慮に欠けた態度についてです」
そこから国王は今の状況について説明を始めた。勇者召喚の条件が完璧に揃うのは百年単位であること。勇者は非力でも問題なく、何故かこちらの人間だと魔王に攻撃できず異世界から来た勇者の助けが必要なこと。神官はエリートだが性格に難があることを土下座したまま話した。
ゲーム内では誰かと恋人になり、愛の力で突破的な感じだったのだが……そういうことか。何らかの理由で、魔王を攻撃するために異世界の人間が必要になる、と。
「神官の件についての謝罪は受け取りました。協力については考えさせてください。私は怒っているんです」
正直なところ、元の世界における未練は一つだけ。いや、一人だけ。私の居場所は、たった一人の姪のそばだけなのだ。心臓が弱いのに、渡瀬の血が濃い姪。良くも悪くも化性を惹きつけてしまうのだ。だから、私が側で守らなくてはいけないのに……こいつらのせいで引き離された。だからこそ、私は怒っている。
「何が不満だというのです!!」
そしてまた、私をイラつかせる神官。こいつ、本気で懲りないなぁ。まあ、城と神殿は別組織だから国王に抑えつけられるのは不本意なのだろう。本来なら勇者召喚に成功した神官様としてちやほやされるはずが、ハズレ勇者を引いてしまい向こうは向こうで苛ついてるってことかな。
「私には世界一大切な姪が居ます。彼女は、誰かが守らねば簡単に死ぬ存在です。それなのに、いきなり彼女から離されました。私にとって、この世界全てよりも、私自身よりも大切な子なのに……お前のせいで離れ離れになったんですよ」
「は?この世界より??」
こいつは私の言うことが理解できないようだ。逆に国王は悲しげな瞳でこちらを見ているので多少伝わっている様子。
「ええ。そんなことも理解できないなんて、寂しい人ですね」
「勇者様を元の世界に帰せるよう、こちらも努力いたします」
「……それは私が生きてる間に可能なのでしょうか」
「難しいであろうな。ソレは神の領域だ」
そう言って現れた賢者。どう見てもファンタジーの賢者というより、侍なおじいちゃん。仲間キャラだが、唯一攻略対象ではない。ただし、とてつもなくお強いし、攻略対象じゃないから好感度調整考えなくていいので周回の際は大変お世話になりました。
「おお、賢者殿!賢者殿であっても難しいですか……」
「わしも研究していたが、界を渡ることまではできても時間軸と座標固定が難しくてな。下手をすれば何百年も先の時代であったり、海の上に出る危険もある。海ならまだ良い。北極にでも出ればひとたまりもなかろう」
「なるほど……」
とても納得がいく説明だった。逆に、時間と座標を固定すればよいのなら……。少なくとも、時間だけなら指標になりそうなモノがある。
「これは使えますか?」
そっとつけていた腕時計を渡す。召喚時は帰宅途中だったので、制服のセーラー服に、通学カバンとおやつ(学校帰りに非常食を買っていた)を持っていた。
「これは……時計?こんなに小型で!?伴天連製か?」
「バテレンって……そもそも賢者様は私と同じ世界の人なのですか?」
ゲームをしていた時から違和感があった。和服を着ているのは賢者だけだった。え?まさかの賢者は日本人??
「恐らくはそうではないかな?ただ、わしは勇者としてではなく贈り人としてこの地に来た」
贈り人?初めて聞く単語だ。
「何が違うのですか?」
「贈り人は神の気まぐれで喚ばれ、人と寄り添う存在。勇者は、人が魔王を倒せる存在として召喚される存在だ」
贈り人ならまだ良かったと思った。いや、そんなことないな。どちらにせよ迷惑だ。
「ええええ……」
「とりあえず、これはわしが預かってよいか?勇者殿の帰還する魔法の研究に使わせていただきたい」
「あ、はい」
兄からのプレゼントではあるが、帰るためとなれば仕方がない。私は素直に頷いた。結局のところ、賢者に依頼してこの会合はお開きとなった。
自室に帰って首を傾げる。あれ?結局ゲームイベントはスルーしたことになるの??本来であれば、騎士団長との戦闘は負けイベント。与えたダメージやその時の対応により加点され、成績がいいと好感度が上がり、騎士団長も仲間として選べるようになる。
まあ、騎士団長を連れて行く気はないし実力を見せるつもりもないからいいんだけど……。自室のベッドに転がりつつ、今後について考えるのだった。
この賢者がどちらさまか、賢明な悪なり読者様はおわかりかと思います。
悪なりで賢者とお呼ばれしていた奴は、この時期まだ産まれてません。この百年ぐらいあとに素敵なじい様から賢者という役職を継いだ感じですかね。
こちらから読み始めた方には補足として。悪役令嬢になんかなりません〜の登場キャラが出てくることが稀にありますが、読まなくても大丈夫なようにいたします。
この賢者につきましては、いい感じにボケた数百年後の話として悪なりにも出てきます。興味のある方はぜひ悪なりもよろしくおねがいします。