力試しを強要されました。拒否します。
翌日、私は動きやすい服を着せられて鍛錬場に連行された。昨日逃亡したのもあり、警戒を緩めるためにしばらくはおとなしくすべきと判断したから素直について行った。
「勇者様、本日はここにいる騎士団長と実践形式の模擬戦闘をしていただきたい」
「だが断る」
嫌だよ。こんな筋肉ムキムキのナイスバディと戦いたくないよ。勝てるわけがないよ。私よりも巨乳だよ?筋肉でムッチムチだよ??
「勇者様……」
「だからそもそも勇者様じゃないんです」
「では、無駄飯喰らい様ですか?」
苛ついた様子で神官が私を見下ろす。おーおー。本性が出てきたな?この腹黒神官め!
「私が無駄飯ぐらいなら、貴方は誘拐監禁虐待犯ですね」
「……は?」
うふふ、まっけないぞー☆屁理屈大得意だぞー☆
「だって、まだ未成年の私に対し本人の了承もなく故郷から無理矢理拉致。逃げようとしたら捕縛して監禁。あげく、あんなに強そうな男性と実践形式で戦えと強要しているのですもの。虐待にほかならないです!しかも、それを拒否したら無駄飯喰らいと貶める!なんて酷い人なんでしょうか!!」
ふはははは!どうだ!ムカつくだろ!言い返せまい!うちのババアと口論しまくってるから、口喧嘩は大得意なんだぞ!
「ぐぐぐぐ……!」
「騎士団長様から見ていかがです?私は強そうですか?」
「いや……正直昨日の様子からしても、勇者様は私の相手にならぬでしょうな」
騎士団長が視線をそらした。彼は理解している。私に近接戦闘なんて無理なのだよ。そこを偽らず素直に言うあたり、正直な人だ。
「ええ、その通りです。無様にも騎士に捕まる程度の身体能力しかございません。それなのに、見知らぬ地へ攫われたばかりか、このような屈強な殿方と戦えなどと……死ねと言われているも同然ではないですか!!ひどい……ひどいです……!無駄飯喰らいだなんて侮辱まで……!私だって好きでここに来たわけではないのです!う……ううう……」
ウソ泣きですがね!ふははは!腹黒神官!全力で貴様を悪者に仕立て上げてくれるわ!
なにせここは鍛錬場。他の騎士さんたちも訓練している場所。お前は今、騎士さん達にどう見えているかな?か弱い女をいじめている鬼畜に見えるようにしてやるわ!!
「勇者様……ホワイト卿。今日は無理だ。日を改めるべきだろう」
騎士団長が神官を止めた。
「ぬぐぐぐぐぐ……はぁ。勇者様、わたくしが悪うございました。今日のところはやめにしましょう」
「わかりました。それで、いつ私を家に帰してくれるのですか?」
「……へ?」
「……はい?」
なんで驚くのかな?
「無駄飯喰らいを嫌々ながら勇者と崇め奉るよりも、新しい勇者を喚ぶべきでは?勇者は一人しか喚べないというのなら、私を帰してもっと都合のいい勇者を喚べばよいのではないですか?」
「それができれば苦労はありませんよ」
神官は諦めた様子だ。いや待て。まさか……まさか……。
「召喚はできても、送還はできない……?」
「ええ、その通りです。もし新たな勇者をとなれば、あなたを殺して数年後にまた召喚するしかありませんね」
反射的に神官を殴り飛ばした。そうだね、そういえばあのゲームでは『送還エンドなんてなかった』じゃないか。つまり、最初から片道切符しかなかったってこと?
私は、帰れない。
絶望を誤魔化すように、力の限り神官を殴る。拳が裂けて血が出ても、気にならない。最後に見たあの子の笑顔が脳裏をよぎる。
「ひゃめへ!たしゅけてぇ!!」
鼻血を出しながら泣き叫んでも懇願しても知らない。だって、こいつは役立たずなら殺して次の被害者を喚ぶとのたまったのだから。自業自得。身から出た錆。これは、仕方のないことなんだ。
「ゆ、勇者様!お怒りはごもっともですがどうか……!」
騎士団長が私を羽交い締めにする。それでも私は身をよじり、神官を殴ろうとした。
「放して!!」
「いいえ、いいえ!貴女の手が裂けております!これ以上はおやめください!私に噛みつくなりしてかまいません!貴女の怒りはごもっともです!罰は私がいくらでも受けましょう!ですからどうか、どうか手当をさせてください!」
これではどちらが聖職者だかわからないな。まあ、神官を殴り続けたところで事態が好転するわけではない。私は身体の力を抜いた。
「きざま……よくも……」
「……ずいぶん男前になったわね」
まあ、警戒を緩ませるのは失敗したけどズタボロになった神官を見て少しだけ胸がスッとした。騎士団長がすぐ治癒魔法ができる騎士を手配してすぐ治ってしまったのが残念。
もし私が真面目に騎士団長とやりあったなら私の方がこうなっていたかもしれないわけだし、この神官は少し他人の痛みを識るべきだと思うのよね。
すごくこっちを睨んでいたのでニコニコしてやった。ざまあみろ、バーカバーカ。