平穏な夜と思いきや、嵐が来やがりました
どうにかこうにか皆をなだめすかして宿屋に帰り着いた。大変疲れた。もう寝たいというか寝ると思ったのに、妙に目が冴えて眠れない。ゴロゴロ転がっても眠れない。
しばらく寝ようとしたものの眠気が来ないので仕方なく諦めて外を見た。そして、窓の外にヤツはいた。
「やあ、いい月夜だね。レディ」
脊髄反射で即刻窓を閉めようとしたら、足を突っ込んできやがった!!お前は強引なセールスマンかっての!訴えて勝つぞ!
「痛い痛い痛い痛い!ちょ、君ためらいがないにもほどがあるよ!?」
「誰かー誰かー!!変質者がいるううう!!」
足のせいで窓が閉められない!そして、やはり成人男性に腕力で敵うはずもなく、足だけでなく窓枠も掴まれ、不審者が部屋に入ってきた。仕方がないので必死に助けを呼ぶ私。だって、こいつが来た理由って絶対ろくでもないもん!!
「そして人聞きが悪いにもほどがあるね!?」
「やかましいわ!どうやってここを突き止めたんだ!?このストーカー!!」
「す、スト!?いやいやいや、これでもカジノのオーナーだよ!?ちょっとその気になれば、怪しげな仮面を被った女の子ぐらい簡単に見つけられるさ!!」
「ストーカーはみんなそう言うんだ!出ていけ、変態!!警備隊のみなさーん!!変質者はここでええええす!!」
私は叫んだ。全力で叫んだ。
「いや、何もしてないけど!?」
「寝間着姿の女の部屋に忍び込むような男は、みんな変態です!!」
「うぐっ!?」
ド正論に怯む賭博師。
「しかも、私は入室を許していないのに!窓から!力づくで侵入するなど!明らかに、犯罪者!!強姦魔ですよ!間違いない!!」
「指一本触れてないが!?」
「でも、この状況で駆けつけた人はどう思いますかね?」
そう言いつつ、内心では焦っていた。
おかしい。
そう、おかしい。おかしすぎる。これだけ大騒ぎしているというのに誰も来ない。結構飲んでいたカイとゲルダはともかく、隣室にいるジャンとスノウがこの叫びに気がつかないのはおかしい。
「そ、それは……」
「明日の見出しは『カジノのオーナーの異常な性癖!騎士たちは見た!』とかですかね?」
「い、いやいやいやいや。そんなことにはならないよ!なにせ、この周辺には結界があるから叫んでもムダ」
賭博師は最後まで言えなかった何故なら、扉をぶち破って何者かが来たからである。
「侵入者は殺す!」
何者か……ではなく、いつになく流暢に話すスノウだった。本当にこの子、ブッコロ系だけは滑舌がいい。扉をぶち破ったスノウは賭博師にナイフを向ける。
「ちょっと!この子止めてよ!」
「偉いわ、スノウ。そのままそいつを追い出して!」
「了解、しました。処分はしないのですか?」
処分?殺すってことかな??嫌な予感しかしないワードだ。
「殺さず生かして!できたらあまり怪我もさせずに追い出して!難しいけどできる?」
「ご主人様ったら、やさしい……。わかり、ました」
「優しくはないと思うけど……」
「優しいレディは俺の足を窓で挟んでちぎろうとしたりしないと思うよ!?」
「ちぎろうとはしとらんわ!!」
大騒ぎに気がついたのか、武装したジャンも部屋に乗り込んできた。
「ご主人様!」
「げ」
「余所見するとは余裕だな?」
ジャンに気が逸れた一瞬の隙を見逃さず、スノウは賭博師を窓の外へぽいっと投げた。ええと……死んでない?
恐る恐る窓の下を覗き込むと、賭博師は植え込みに落ちていた。気絶しているように見える。よし、ワタシハナニモミナカッタ。
「ご主人様」
とてもキラキラした瞳で私を見つめるスノウ。
「よしよし。えらいぞー。ちゃんと殺してないしえらいねー」
「えへへへへへへへへ」
やはり褒めてと言いたかったようだ。正直来てくれて助かった。
「スノウはどうして助けに来てくれたの?」
先程最後まで言えてなかったが、恐らく賭博師が結界あたりで防音していたのだと思う。
「ご主人様の気配がしなくて、しんぱいだから、ようす、みにきた。そしたら、けっかい?なんかあったから壊した!」
「なるほど」
えらかったのでよしよししておく。
「結局アイツはなんだったんだ?」
「え……」
そういえば、まじで何をしに来たんだろう。結局聞けていない。まあ、結界であらかじめ防音する辺り、ろくな用ではあるまい。
「恐らく、小面さんの美しさに魅了された変態ね」
「それはないと思うが、念の為切り落としておくか?」
「いや、とりあえず私に被害はなかったからいいわ。無駄に恨まれたくないし」
ナニを?とか聞いたりしない。なんでこう、皆して思考がやたら物騒なのよ。あと、小面さんは美少女なんだよ?なんでそれはないって決めつけるんだ。あれか中身が残念だからか。
「ご主人様、けっかいする。曲者が入れないように」
「ありがとう。ドアはどうしよう……」
ドアの方は私の力でなんとかなったが、一応宿屋の主人には謝罪しておこうと思う。本気で疲れた私は、そのまま寝落ちしたのだった。
結局話もできなかった賭博師。
残念でした。




