祝杯をあげます。酔っ払いは迷惑です。
お金も入ったことだし、美味しいものが食べたい。とはいえ、本日の功労者をねぎらうべきだろう。
「二人のお陰でかなり懐が潤ったし、何か食べたいものはない?」
「特には」
「はいはーい!はちくま亭のはちみつ酒!!お酒のみたいでーす!」
「ゲルダ!ご主人様、忘れてください」
いや、私のほうが話を振ったわけだし。いいじゃないか、正当な報酬だ。
「お酒ぇ……」
ゲルダもしょんぼりしてるし。
「ねえゲルダ、そこってご飯おいしい?」
「美味しいわよ!はちみつ料理が絶品なの!!スイーツも最高よ!!」
「なるほど。じゃあそこで今日は夕飯を食べようか」
「ご主人様!?」
「ちなみにカイはそこのお店で何が好きなの?」
「はちみつパンケーキね!」
意外に甘党であるらしい。
「なるほど?」
はちくま亭の店主も熊獣人だった。熊獣人ははちみつ好きなのだろうか。店主はカイとゲルダを見るなり、泣き崩れた。
「え」
「ぶじだっだのがよおおおおおお!!おまえらぶじならぶじっでれんらぐよごぜよおおおおお!!」
「ごっめーん☆」
「いや、奴隷落ちしたとこまでは知ってるだろ。無茶言うな」
なんだろう、この夫婦の温度差が面白い。泣き崩れた店主が私に気がついた。
「もじがじで、ごぢらのおじょうざんが……」
「ご主人様よぉ」
「ご主人様だな」
「はじめまして?」
小面さんに怯まないとは、やるな店主!
「優しそうなお方だな!さあさあ、なんでも頼んでください!ここは獣人がやってる店なんで人間様は居づらいかもしれませんが、味は保証しますよ!」
確かに客は獣人ばっか……あ、お客さんの尻尾がブワってなった(笑)怪しいものではないですよ。プリティ小面さんです。
そんなわけで、ゲルダにオススメのメニューを頼んでもらったのだが、おいしい。鳥の照焼き最高。すべての料理にはちみつが使われていると聞いて甘いのかと思ったが、サラダも飲み物もとてもおいしい。この世界に来て、一番おいしいと思ったかもしれない。
特に私は果汁みつが気に入った。果汁入りはちみつジュースだ。炭酸割り最高。
小面さんには致命的な欠陥がある。それは、視野がとても狭いということだ。さらに、ご飯が食べにくいのでジャンが介助してくれており、そちらに意識が向いていた。
だから、気が付かなかったのである。
「えへへへへへぇ、おしゃけ、おいしぃわぁ」
「もうのめねぇ……」
ゲルダとカイが泥酔しているのに気がついたのは、デザートまで完食してからであった。青りんご果汁入りはちみつのパンケーキ、絶品だった……。
「店主、悪いんだけどお金を余分に支払うから、二人を泊めてくれないかな?」
「うちはかまいませんが……いいんですかい?」
「せっかく気持ちよさそうに寝ているし、私が居てはできないような、積もる話もあるでしょう」
奴隷には逃亡防止のため一定期間以上主人と離れると苦痛を感じる呪いがあるそうだが、私はそれを彼らに施していないので、離れても問題ない。
「ありがとうございます……」
「いや、お礼を言うのはこっちですよ」
「……ケッ、偽善者が」
偽善者……まあ、その通りだな。そう思って聞かなかったことにして立ち去ろうとしたんだよ。
「貴様……ご主人様に謝罪しろ!」
「ご主人様を悪く言うなんてぇ、お、し、お、き、よぉ☆」
「許さん」
「死ね」
「とりあえずスノウ!特に主にスノウだめ!!ストップストップ!まず話し合おうか!!」
「えー」
うちの奴隷達に武器を突きつけられた哀れなお客さんは涙目だ。
「いや、実際問題ね!皆を金銭で買った時点で私も有罪よ!偽善者って言われて当たり前!本当に善人なら貴方達を無償で開放すべきだし!!」
「そんな奴、この世にいないだろう」
「それこそ偽善者よぉ、この世の奴隷全てを救えるわけでもないしぃ」
「そうだな。それこそ偽善者だ」
「かいほうされたらこまる……。ぼく、どうしたらいいの?ご主人様、すてないで……」
スノウが私の足元にすがりついてしくしく泣き出した。
「うえ!?す、捨てない捨てない!!よーしよしよしよし!だから泣かなくていいのよ!」
「なく?」
どうにも自覚がないのか、ボロボロ涙をこぼしながら首を傾げるスノウ。
「ほら、今目から水が出てるだろ。これを泣くって言うんだ。基本的にすげぇ辛い時とかに出る」
「そうなの……」
「まあ、スノウが開放されたくないのはわかった。無理強いしないから、安心して」
「わかった」
ようやく泣き止んでくれたのでホッとしたのもつかの間。そういえば、先程絡んできたというか絡まれていたお客さん!
「こら!お客さんに迷惑かけないの!!」
「チッ、バレたか」
「だってだって!ご主人様を悪く言うのはダメよぉ!」
「やめなさーーーーーい!!」
酒のせいか、普段は大人しいカイもなかなか聞いてくれずに苦労した。酔ってないはずのジャンとスノウは手を出さないもののすごく睨みつけている。ご飯はおいしかったが、精神的に大変疲れた夜だった。




