頑張ったようです
訓練でそこそこ時間がたったらしく、もう日が暮れてきた。そろそろカイとゲルダも戻ってくるのではないかと冒険者ギルドの受付に併設された酒場でジュースを飲んで待つことしばし。
オレンジジュースとか、わりと野菜や果物はちょっとこう模様があったりキラキラしてはいるものの馴染みのあるものばかりでありがたい。このオレンジジュース、美味しいけどもっと冷やしたい。
「スノウ、氷をこのコップにちょこっと入れられたりしない?」
「でき……ます」
スノウが空中に何かを描き、小さな氷を作ってコップに入れてくれた。早速ストローで混ぜ混ぜ。ストローはなんとかっていう植物の茎らしい。能面装備してるから、ストロー必須。
「おいしー!ありがとう」
「えへへへへへへへへ」
頭を撫でるとふにゃふにゃ笑うスノウ。
「………」
やめると真顔になる。
「えへへへへへへへへへへへ」
「…………」
やめると真顔になる。
「何してんですか……」
「よし、ジャンもやってみて」
「………………」
笑わなかった。何故だ。
「いやまあ、俺もスノウよりはご主人様に褒められたいからわからんでもない」
「え?そうなの?よしよし、ジャンもえらかった。訓練頑張ったな」
「こ、子供扱いするなってば!」
台詞とは裏腹に尻尾がブンブン丸なんだけど。これは嫌がってないと見た!
「ごしゅじんさま、ぼくも」
しばらく二人が満足するまで撫で続けた。何してるんだろう、私。まあ、楽しかったからいいか。
謎のなでなでタイムが終了したタイミングで、冒険者達が何かに驚いているのに気がついた。ちょうどジュースも飲み終わったので冒険者達の視線をたどると、すげぇでっかいモンスターがいた。一瞬警戒したが、どうもあれは死体でその下に誰かがいる。担いで運んでいるらしい。
「ご主人様、叱る準備は万端か?」
「めだちすぎ……なぐる?」
そんな気はしていたが、あれはやはりカイとゲルダなのか。ちょっとだいぶ……狩り過ぎたのではないかな??
買取カウンターに並んでいた冒険者達がドン引きした様子で避けていく。え?いいの??
「査定を頼む」
カイとゲルダはそんな冒険者達を気にする様子もなく、買取カウンターに大量の獲物を置いた。
「ひゃい!」
受付の人がベルを鳴らすと人がぞろぞろと出てきた。おお、人海戦術。
「あ、ご主人様ぁ!たくさん狩ったわよぉ!」
「そうだな……」
ごきげんなゲルダに手を振る。買ったばかりの服が返り血まみれだ。確かにあのきれいな服は着なくて正解だったな。撫でてやりたいが血みどろなので今はやめておくとしよう。
ゲルダとカイは、とんでもなく稼いできた。今日、かなり色々買い物したのにお金が増えた。なんでだ。いや、理由はわかっている。ゲルダが力任せにやったので素材が使い物にならなくなりかなり査定から引かれたものの、強いモンスターをしこたま狩ったから、その賞金だけでもかなりの額だった。
「たまたまホーンラビットを狩っていたら、ホーンベアとホーンウルフの大群が来たんだ」
「それは相当ヤバかったのでは……」
「私とカイなら余裕よぉ!」
かなり稼いだからか、今日のゲルダは大変ご機嫌だ。いや、そもそも余裕と思っていたならもしかして……。
「……ホーンラビットの血をまいて、大物をおびき寄せてないよね?」
二人が同時に目をそらした。
「わかりやすいな」
「ばか」
ジャンはいいけどスノウはストレートに悪口ではないだろうか。それはそれとして、ちゃんと言っておかねばなるまい。
「ゲルダ、カイ」
「「はい」」
いや、なんで床に正座なんだ。こっちにも正座があるんだな。土下座もあるぐらいだからあるか。納得。立ったままだと目線が合わないし、結果オーライと思っておこう。
「私は二人を捨て駒にするつもりはない。だから、二人がしっかり実力を発揮できる環境を整える。でも、身の丈に合わない危険な狩りはやめてほしい。二人の命はお金じゃ買えない。大金よりも二人の安全を優先してほしい」
「「ご主人様……」」
なぜ叱っているのに嬉しそうなの??
「ぼくも、がんばって殺す!」
「俺も訓練頑張って、早く稼げるようになる」
「いやいやいやいや!だから無茶して稼がなくたっていいんだってば!みんなの安全が最優先って話なんだよ!」
ある程度稼ぎがないと困るのは確かなんだけど、それよりも安全を優先してほしい。いつか彼らを奴隷から開放するつもりだし、死んだらそこまでなのだから。
「ああん、ご主人様ぁ!だぁいすきぃ!!」
ゲルダが飛びついてきた。
「あ」
「そのうちやるとは思ってたが……」
「ご主人様を汚すなんて、万死に値する」
「待て待て待て!なんでスノウはブッコロ系統だけやたら流暢なんだというか!ゲルダを攻撃するんじゃない!」
なんとかスノウを止めることに成功。服はスノウが覚えた生活魔術によりキレイになりました。魔法、マジで便利だわ!!




