時間つぶしと思わぬ成果
冒険者ギルドには、お金を払えばスキルや剣術の熟練度をアップさせてくれる教官がいる。初期ならそこまで高額でないはず。戦力アップ大事よね。
「ジャンとスノウは講習受けてきて」
「え」
「はい」
スノウは異論がないようで、さっさと手続きしに行った。ジャンはなぜか動かない。
「私はここで待ってるから行ってきなよ」
「三歳児並の常識しかないご主人様を置いていけるわけがないだろう」
「ぐっ」
正論過ぎてグゥの音も出ないわ。
「えっと……私は見学するから、ジャンは講習を受ける!」
「交渉してみます」
同じ部屋にいるのならばと納得してくれたようでジャンはすぐ教官のところへ行き、交渉してくれた。教官は気のいいおじいちゃんで、快く了承してくれた。
「お嬢さんはこの椅子に座っていなさい。さて、坊主の実力はどんなものかねぇ。遠慮はいらないよ。そこの模擬剣を使ってわしから一本とれたら合格だ」
ゲームだとお金払って武器スキルアップとかだけど、現実だとちゃんと訓練するんだなぁ。さて、ずっと座って眺めているのも暇だ。せっかく時間があるのだから、買った服に刺繡でもするか。古着とはいえなかなかしっかりした布地だし、ゲルダに少しでも可愛い服を着せてあげたい。
ふと、思いついた。作りたいものを作れるのなら……この服を獣化しても破れない服にできないか。
できる。
確信めいたものが浮かび上がる。体格によりサイズを変える服になるようにと刺繍していく。ちょっとこう、糸がはみ出たが……まあ素人の手習いにしてはそこそこの出来じゃないだろうか。
「案外器用なんだな、ご主人様」
「うひゃっほぉい!?」
ちっか!というか、気配!気配がなかった気配!!
「どんな悲鳴だよ……」
「いや、油断してるとこに美少年が至近距離でいたら誰だってそうなる!」
「……ソーデスカー」
とりあえず、ゲルダの分は終わったので針をしまっておく。刺さると危ないしね。
「お嬢さん」
「はい?」
「この子は天才です」
「……はい?」
あ、ジャンのステータス見たら剣聖とかって天啓が……。ジャンって実は相当お買い得だったのかも。そりゃ、教官も教えたがるわな。
「しばらくここに通ってください!立派な剣士に育てます!あ、指導費は割り引くんで!」
「よろしくお願いいたします」
ジャンに剣の才能があるのは間違いないし、割り引きまでしてくれるのならば迷うことなどない。その場で契約して支払いもしておいた。
今日のところは終了とのことで、スノウを待つことになった。せっかくなのでジャンの服にも刺繍してやろう。チラッと隣を見ると、ジャンは教官からもらった教本を読んでいる。暇してなさそうで何より。
チクチクしながら待つことしばし。
「ごしゅじんさま……」
「君は天才だ!魔法を使うために生まれてきたに違いない!!」
ブルータス(スノウ)、お前もか。まあね、育てば大魔法使いですからね。そうよね。相手に悪意がないからか、スノウは心底困りきっているようだ。
「このひと、じゃま……ころして、いい?」
「やめなさい」
なんでこの子は思考がやたらと物騒なんだ。とりあえず迷惑なので力づくで(ジャンが)教官をひっぺがした。
「彼には魔法の才がある!」
うん、知ってる。だからお買い上げしたんだもん。
「そうでしたか」
「わ、私ならば、彼の才能を開花させることができます!つきましては、集中講座にサインしてもらえませんでしょうか。こんなに才能のある子は初めてでして!そして、ぜひ有名な冒険者になってもらい、わが講座の宣伝を……!」
最初こそ多分小面さん効果かびびっていたが、途中から教官の本音が盛大に駄々漏れている。どうしたものかな。
「スノウはどうしたい?」
「ぼく?……わからない。ごしゅじんさまがのぞむならしたがうよ」
「うーん……授業は嫌じゃなかった?」
「うん。まほう、おぼえた。たくさん。だから、スノウはたくさんごしゅじんさまのやくにたつ」
ん?たくさん??ステータスを確認すると、初級はおろか中級まで……!?なんで!?チート過ぎないか!??
「ええ!本当にちょっと教えただけで覚えるんです!彼は天才ですよ!!」
「もう少し魔法教わってみる?」
「ごしゅじんさまがいうなら、やる」
あれ?そういえば、スノウはいつの間にやら死んだお魚の目じゃなくなってる。キラキラしていて、これはなんとなく……近所のポチ子さん(柴犬)が何かをねだる瞳……!
「そうかー。スノウはえらいね」
とりあえず撫でてみた。うお、髪がサラサラ!えっちょ、羨ましいな!
「えへへへへへへへへへへへへ」
スノウが、笑った。可愛い!マジ可愛い!!
「では、契約書にサインを!!」
とりあえず年少組二人はしばらくここでスキルと熟練度上げをしてもらうことになりそうです。
久しぶりの更新でございます。
またちょこちょこ更新できたらなと思います。
怠けの虫が暴れなければ……




