召喚されました。不本意です。
目が覚めたら、そこは異世界だった。
そういうのは、異世界ひゃっふーな方だけにしていただきたい。私はただただ、平穏に平凡な人生を過ごしたいのだ。
だから、私は怒っていた。
ずっとずっと、怒っていたのだ。
私は渡瀬言葉、十六才。少し特殊な家庭で育ったのだが、ここまでまずい事態に陥ったのは初めてだ。
「こんにちは〜。はじめまして!」
白くて軽い男が私に微笑みかけている。なんだろう。とてつもなく胡散臭い。こういう手合は適当に相手をして帰してもらうに限る。
「……はじめまして。何の用ですか?」
基本的にこういう奴は用件を果たせば解放してくれる。ヒトでないモノは理不尽だと、これまでさんざん学んできた。諦めるしかないのだ。こちらに害意がないだけ良いと思うしかない。
「ちょこっと勇者になって、世界救ってくれない?」
「はい?」
「ハイ同意いただきました〜!一名様ご案内〜!!」
「ちょっ、待って……!」
そして、私は落とされた。どこまでも落ちていく。
「勇者召喚、成功しました」
ええと……私は今、謎の魔法陣の上にいる。先ほどまで白い空間から落下していたはずなのだが、声が聞こえたと思ったらここにいた。
「勇者、召喚……?」
嫌な予感しかしない。さっきも白い男が言っていなかっただろうか。勇者がどうとかなんとか。
「おお、勇者様」
ロールプレイングゲームの王様っぽいイケメンが話しかけてきた。
「人違いです」
とりあえず、事実を述べておこう。私は勇者様ではない。日本の高校生である。私の言葉に固まる一同。よく見ろ、こんなひ弱そうな女子高生が勇者様とか無理ゲーだろ。もっと筋骨隆々な猛者を喚べ。そして私を帰してくれ。
「いいえ、貴女は勇者様です。私は神官のセシルと申します。神に祈りが届き、勇者召喚陣は正しく機能いたしました。貴女は神に選ばれし勇者なのです!!」
あの白いやつ、神だったのか。しかし、この王様とか神官とか、どこかで見た覚えがある。なんだったか……思い出せん。
「だから違いますってば。こんな弱そうな女が勇者様なわけないでしょう」
適当に返事をしつつ、なんとか思い出そうとする。ロールプレイングゲーム……?
「いえ、神は確かに貴女を選び、我々の元へと遣わせたのです!!」
なんだよこの、選択肢どっちを選んでも強引に話を進めるロールプレイングゲーム……!
思い出した……!ゲーム……ロールプレイングゲームだ!!昨日全エンディング制覇したロールプレイングゲーム!
『ホーリーラブクエスト』だっけか!友達が貸してくれたからとりあえず全エンディング制覇したけど、正直好みじゃなかったんだよなぁ。
もしや、全エンディング制覇したせいで召喚された……?だとしたら、辛い。辛すぎる。何が悲しくて好きでもなんでもないゲーム世界の主人公ポジしなきゃいかんのだ。
「断固としてその使命を拒否します!」
そう言って逃亡をはかったがすぐに捕まった。レベル1の勇者なんてクソ雑魚ですものね……。わかります。
牢屋に入れられなかっただけまだいいだろうか。なんだか豪華な部屋に軟禁されている。ここ、確か勇者の部屋だわ。あ、引き出しに回復薬入ってた。そんなとこもゲーム通りかよ。
たしかあっちのツボには……お金ゲット。誰のへそくりなんだろう……?有効活用させてもらおう。
おそらく向こうも作戦タイムなのだろうし、情報を整理しよう。この世界は昨日までやっていたロールプレイングゲームに酷似している。城の構造から、隠されたアイテムまで同じだった。ゲームの世界なのか、酷似した世界なのかはまだわからない。そもそもゲームスタート時にあんな白いやついなかったしな。
このゲーム内にはいくつかの派閥がある。まず、城。こちらは王子、騎士団長、副騎士団長、新人騎士、召喚士である神官が所属。冒険者ギルドには、盗賊、狩人、吟遊詩人がいる。魔術師ギルドに魔術師と賢者。最後は奴隷。こちらは商人から金で買うことになる。
ごろり、とベットに転がる。王子、騎士団長、神官、吟遊詩人、賢者、奴隷は周回しないとルートがオープンしないうえ、とてつもなく能力が高い。とはいえ、利用されるのはごめんだ。組織に属さない仲間がほしい。私に魔王を倒せと強要しない仲間となると……奴隷一択か。
手持ちのへそくりを見るが、到底足りない。ゲーム通りであれば抜け出すのはさほど難しくないが、問題はどうやって奴隷を買えるほどの金を工面するかである。
問題は山積みだが、とりあえず方向性は定めた。精神的に疲れていたのか、私はそのまま眠りについた。